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スキルを駆使して人生勝ち組っ!R  作者: 此花サギリ
小学生

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第39話 YASUKE

ハリウッド映画『YASUKE』のロケ地は、京都郊外に作られた巨大オープンセットだった。


山を背に、安土城を模した天守。

石垣は発泡スチロールだが、質感は本物同然。

海外スタッフが思わず写真を撮るほどの完成度。


監督の

ジョン・ジョーンズ

は、モニター越しに腕を組んでいる。


「Authentic(本物であれ)」


それが口癖だった。



私は帰蝶の衣装を纏い、畳の上に正座していた。


重い打掛。

きつく結ばれた帯。

かつらの重みで首が軋む。


燈由(ひより)、呼吸浅い》


脳内にイリスの声。


《心拍数上昇。緊張値+18%》

《姿勢補正。背筋3ミリ後方へ》


「3ミリって分かるわけないでしょ」


《分かります》


分かるのか。



問題のシーン。


弥助を武士に取り立てる信長に、家臣が猛反発する場面。


カメラはレール上を滑り、ワンカット長回し。


失敗は許されない。


「Action!」


障子が乱暴に開く。


「殿!南蛮人を召し抱え、武士の位を与えるなどなりませぬ!!」


怒号が響く。


私は一歩、前へ出る。


畳の軋み。

袖が揺れる。


「……黙りなさいな」


静かに言う。


だが、芯は折らない。


「殿の意思に背くとは、その命要らぬと申すか?」


室内が凍る。


共演者の弥助役俳優――190センチを超える大柄な俳優が、ほんの一瞬、目を見開いた。


喰われた、と思ったのだろう。


イリスが冷静に解析。


《相手俳優の視線揺れ。あなたの主導権確保成功》


信長役が低く笑う。


「弥助は、わしの物だ」


怒気を孕んだ台詞。


私は懐に忍ばせた短刀に指をかける。


抜かない。


抜かないが、“抜ける”構え。


監督が小さく呟く。


「Yes… yes…」


信長が言い放つ。


「古き習わしなど壊してしまえ!」


そこで私は、ゆっくりと家臣を見渡す。


「これより弥助の後見は、(わらわ)が務めます」


視線を真っ直ぐに。


「文句があるなら、(わらわ)に言うが良い」


静寂。


鳥の声。


遠くで風が鳴る。


「Cut!!」


数秒の沈黙の後、拍手が起こった。


海外スタッフが口々に言う。


「She’s eleven?(本当に11歳?)」


ジョン監督が立ち上がる。


「That’s Kichō. Perfect.」



だが、完璧に見える現場も裏では戦場だった。


殺陣のリハーサル。


ワイヤーアクション。


長時間撮影。


体力は削られる。


《燈由、糖分不足》


イリスが警告。


《ブドウ糖摂取を推奨》


「太る」


《現在消費カロリーは摂取量を上回っています》


……頼れるのか鬼なのか分からない。



昼休憩。


弥助役の俳優が隣に座る。


「君の目は強いね」


「目ですか?」


「怒っていないのに、刃物みたいだ」


それは多分――


スペインで“運命”を弾いた時の目だ。



夜、ホテル。


私はノートを開く。


受験問題。


イリスが出題する。


《問:戦国時代の楽市楽座政策の目的を述べよ》


「映画とリンクさせてくるのやめて」


《記憶定着率が上がります》


確かに覚えやすいけど。



数週間後、アメリカで先行公開。


映画『YASUKE』は配信と同時にランキング上位へ。


特に話題になったのは――


帰蝶。


《Who is the girl playing Kichō?》

《She steals every scene》

《Her eyes are terrifyingly beautiful》


SNSが騒ぐ。


だが私は日本で受験直前。


スマホは没収状態。


胃が痛い。


「日本でコケたらどうしよう」


イリスが淡々と答える。


《日本市場予測:初週興収12~18億円》

《評価は賛否両論。ただしあなたの演技評価は高水準維持》


「賛否両論は嫌だなぁ」


《芸術に満場一致は存在しません》


冷静すぎる。



そこへ容子(まさこ)さんが飛び込んでくる。


「主題歌、CD化決定よ!」


私は固まる。


「歌うの、私?」


「あなたよ♡」


主題歌は、戦国の孤独と誇りを描いたバラード。


作詞作曲は――私。


撮影の合間に書いた旋律。


「私は歌手じゃない」


「でも英語で完璧に歌えるのはあなたしかいないの」


ビルボード上位。

アメリカ先行配信。


私は天井を仰ぐ。


50億以上稼いでいるのに、まだ働くのか。


「……ギャラ次第」


「分捕ってくるわ♡」


即答。



レコーディング。


マイクの前に立つ。


帰蝶の心で歌う。


弥助を守る強さと、戦乱の中の孤独。


英語版と日本語版。


二つの声色。


イリスが補助する。


《発声位置修正。共鳴を前へ》

《英語子音を強めて》


まるで見えないボイストレーナー。



年明け、日本公開。


受験真っただ中。


私は会見にも出られない。


胃がキリキリする。


ニュース速報。


『YASUKE 初週興収14億円』


……微妙?


いや、悪くはない。


レビューサイトを見る勇気が出ない。


イリスが先に分析。


《批評傾向:歴史解釈に賛否。映像美と帰蝶の演技は高評価》


「帰蝶はセーフ?」


《高評価です》


その瞬間、少しだけ肩の力が抜けた。



映画は賛否を巻き起こしながらもロングラン。


主題歌もヒット。


だが私は塾の机に向かっている。


戦国の姫から受験生へ。


ギャップが凄い。


「イリス」


《はい》


「私、ちゃんと両立できてる?」


数秒の沈黙。


《あなたは、やり過ぎています》


「え?」


《しかし、誇らしいとも思います》


私は笑った。


ハリウッドの戦場も。


受験の戦場も。


どちらも、私の戦国。


帰蝶が弥助の後見人を名乗ったように。


私は、自分の未来の後見人になる。


映画『YASUKE』のロケ現場は、確かに夢の場所だった。


でも本当の戦いは――


まだ続いている。


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