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12話

 午後20時。事務仕事を終えた紫月は夜道を歩いていた。歓楽街を避けるようにしながら、目的地を目指す。


 何の感情も見せないまま1件の喫茶店に入り、店内を軽く見まわす。


「こっちよ」


 奥の席から声を掛けられ、それが目当ての人物だったので紫月は同じテーブルに腰を下ろした。


「いらっしゃいませ」


 男性店主がメニューを持って現われたが、紫月はそれを受け取らずにコーヒーを注文した。


「そんなに怖い顔しないでよ、姉さん」


 紫月と相対しても見劣りなど全くしない美貌で苦笑を浮かべながら女性は微笑んだ。


茜音あかね、お前はいつになったら、こんな下らない事を止めるんだ」


「くだらない?」


「そうだ。何の関係もない人間を誘惑して魔器を渡す。それを下らないと評価する以外にあるのか?」


 茜音と呼ばれた女性は、微笑みを崩さないまま何かを逡巡し口を開く。


「私は希望を与えただけ。活かすも殺すも彼次第だったの」


「それが魔器を与えた理由か。下らない」


 紫月は吐き捨てるように言う。


 タイミングでも窺っていたのか、店主が会話が途切れた瞬間にコーヒーを差し出し、テーブルに置いた。 


「お待たせしました。コーヒーです」


 それだけ告げると、店主はその場を後にした。


「ねぇ、姉さんは父さんの事をどう思ってるの?」


 今度は紫月が逡巡した。


「クズだ。私たちが死んだときに全てを終わらせれば良かったはずだ。それを魂だけ生き返らせ、この機械の人形に押し込んだ。私もお前も被害者なはずだろ」


 それを聞いた茜音は溜息と共に笑った。


「私は被害者だなんて思ったことは無いわ。父さんが魔術で生き返らせてくれなかったらと思うと、怖くて震えてしまいそう」


 茜音はわざとらしく自身の両肩を抱く仕草をしながら続ける。


「そもそも、自分の存在が許せないなら、自ら終わりを選ぶことだって出来るじゃない。そうしないのは何故?」


「そうだな、何の未練も無ければそれも良いのかもしれないが、少なくとも私はまだ死ねない。

お前が持ち去った、父の作った魔器をすべて回収するまでは」


 この会話はは無駄だな。と、紫月はコーヒーを1口飲んで席を立とうとする。


「あのね姉さん。彼、竜司君は自分を変えたがってた。その手助けをするのが罪な事?」


「そのおかげで彼の人生は完全に狂った。彼自身も、彼の家族も。…………彼が最後に何と言っていたかわかるか?」


「いいえ」


「お前らを殺せば、あの人に会える。だ」


「ふふ、モテる女は辛いわね。私としては素直な子より強い子が好みなのにね」


 もう話すことは無いとばかりに紫月は立ち上がり、喫茶店を後にしたのだった。








「それでは、依頼が無事に片付いた事を祝して、乾杯!」


「「乾杯」」


 紫月の音頭に合わせて、睦樹と春乃がグラスを掲げた。


「いやー、仕事の後のビールは格別だな。ほら、遠慮しないで飲んで食べろ」


 テーブルの上にはピザと飲み物が置かれ、打ち上げが開催されていた。


 猫を飼い主に返した事と、永井竜司の件が片付いた事で依頼料が振り込まれ、紫月の提案で急遽きゅうきょ決まったのだった。


 紫月は2本目のビールを開けながら、春乃にピザを勧めるが、彼女の表情は曇っている。


「どうした、君の初仕事の完遂と借金返済の第一歩だぞ? ……ピザは嫌いだったか?」


「いえ。何というか」


「永井竜司のことか?」


「はい」


 グラスの中身を揺らしながら、紫月が言葉を紡いでいく。


「以前にも言ったが、私たちに出来る事は少ない。助けることが可能な場合もあるが、不可能な場合も多い」


 グラスのビールを煽って、


「しかし、私たちにしか出来ない事があるのも確かだ。それは君も理解しているだろ?」


 たしかに彼女の言っていることは正しかった。数日しか働いていない自分でもわかる事だ。


「そこで提案なんだがな。臨時ではなく、正式にウチでバイトしないか?」


「え?」


「真面目に働くし、睦樹と違って闘争心もある」


 いきなり水を向けられた睦樹は、苦虫をかみつぶしたような表情を作る。


「僕は平和主義なんですよ」


 と言い放ち、ピザを頬張った。


「魔器の回収を手伝わせる所員としては、もってこいの人材だと思ったんだ。それと、正式に働くなら修理代の残りの借金もチャラにしてやる」


「それって、借金を盾に断り辛い状況を作ってるだけじゃないですか」


 さっきの仕返しとばかりに睦樹が半目を向ける。


「やかましい。……それで、どうする?」


 探偵事務所で働くようになってから、日々をむしゃくしゃして生きていた時よりも、何か充実した感覚はあった。なのでその誘いは、彼女にとって考えるまでも無い質問だった。


「アタシで役に立てるなら、ここで働かせてください」


 頭を下げて申し出を受け入れることを伝える。


「よし、それじゃぁ今日は新人歓迎会に変更だ」


 もしかすると、今回のような思いをするかもしれない。でも、もしかしたら自分が関わることで救える事もあるかも知れない。誰も救えないまま過ごすのは負けた気がする。だから春乃は、勝てるまで古屋敷探偵事務所で抗うことに決めたのだった。

コンテスト用に書いたものなので、いったんここで終了します。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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