死なない女性
「また、あなたなの?」
女性は気だるそうに顔を上げ、
声を上げる
喪服のような黒服に
かろうじて黒ではない濃紺のネクタイを締めた男は
困ったように軽く嘆息して女性を見た
「だって、あなた、まだ死ぬ気でしょう?」
男の声は、責めるような呆れるような、
そんなニュアンスを含んでいた
頬杖をついて男を見上げていた女性は、
しなだれるように机にうつ伏せ、顔だけを横にしている
「わからない人ね」
「わかりません」
男も女性の横に、少しだけ距離をおいて座る
「わかりません。あなたからは死の気配が消えない。
もう7年経ちますよ。こんなに僕のことが視えているなんて」
「別にいいでしょ。
まあ、構わないでと言ったところで」
女性は視線を窓の外にやる
「「これが僕の役目ですから」」
男と女性は奇しくも同じ言葉を口にした
女性は笑う
「あなたも大変ね」
「そう思うなら、死ぬなんて考えないでほしいんですけど」
「考えておくわ」
女性は立ち上がり、キッチンに行く
「ねえ、お腹すいてない?パスタ食べる?」
「話したと思いますが…」
「知ってる」
女性は、男が空腹も覚えず、年も取らないことを知っていた
「でも、食べられるんでしょ?」
「まあ…」
結局、男は女性の作ったアスパラの入ったパスタを食べ、部屋をあとにした
女性は、誰もいなくなった部屋でまた、机に頬杖をつく
ぼんやりとさほど内容のないTVを眺めている
男は女性のマンションを出る
部屋を見上げて女性がかつて言った言葉を思い出していた
「死は私の友達
いつでも死ねると思うから
生きていかれる…って」
「本当に困った人だ」
それで、次はいつ訪ねようかと思案しながら歩く
春の日だった




