第9話 聖女
「いらっしゃいませー!ようこそおいでくださいました」
本日のお客様は、この大陸で絶大な力を持っているサロニカ教団の聖女様だ。
私はにこにこと愛想を振りまくが、宗教関係者なんて面倒くさいと相場が決まっているので、内心では気が変わってさっさと帰ってくれないかなって思っている。
前もって来店の連絡があったくらいだから、そんなことはありえないと思うけど。
店内に入ってきたのは、金糸が縁取られた純白のローブに身を包んだ柔らかい雰囲気の美女だった。
フードの中にとても美しいストレートロングの黒髪が収納されており、その神秘的な雰囲気と相まって、いかにも神から遣わされた聖女といった感じだ。
そんな聖女様の周囲をいかつい4人の神官戦士が固める。
聖女様は店内のビキニアーマーを1つずつ手に取って、肌触りやデザイン、付与された効果を確認しながら見ている。
そんな聖女様に私は話し掛けた。
「でも聖女様いいんですか?うちはビキニアーマーしか置いていませんけど。聖女様的に大丈夫なんですか?」
「ええ。こんなに軽いのにこのように素晴らしい性能というのは、各地を廻る長旅を考えればとても魅力的だもの。それにその辺のことは織り込み済みだから大丈夫よ」
聖女様は明るくおっとりとした方で、話し方も気持ちゆっくりで、聞いているだけで癒される、そんな女性だった。そして私にも噂に違わぬ気さくな雰囲気で声を掛けてくれていた。
そんな聖女様が店内を一通り回って選んだビキニアーマーは、意外にも真紅のビキニアーマーだった。
教団のイメージ的に、純白のビキニアーマー(ヘンリエッタ嬢が持って行ったヤバいやつではない)を選ぶかと思っていたのに。
というか、本当に聖女様、こんなビキニアーマーを着るんですか?
イメージ崩れません?
「試着室はあちらかしら?」
「はい、あちらの個室をご利用ください」
聖女様を試着室に案内すると、その後ろをゾロゾロと神官戦士もついていく。
――10分後
「あの……店員さん?」
聖女様に呼ばれたようなので、急いで試着室に向かうとそこにいたのは……
純白のローブの上から、真紅のビキニアーマーを着た聖女様だった。
露出度の高いビキニアーマー対策の織り込み済みってこれか!
いや、気持ちは分からんでもないけど、ローブの上にビキニっておかしいでしょ!?
せめて逆じゃない!?
「あの……店員さん?気のせいでなければ、このビキニアーマーは魔力回路が動いていない気がするのだけど」
おっとりとした口調で話す聖女様の言葉の内容に、それまで静かだったお付きの神官戦士が怒り出す。
「なんだと!貴様、我らの聖女様に紛い物を掴ませる気か!」
教団を敵に回すようなそんな怖いこと、絶対にしませんよ。
っていうかその前にローブの上にビキニ着てるの、ツッコんでくださいよ。
……自分たちの教団の最高位である聖女様相手に、そんなことするわけないか。
「聖女様、これはビキニアーマーです。ローブの上から着るものではありません。素肌に直に身につけていただかないと魔力回路は働きません」
「え、そうなんですか?
でもこのような肌の露出が多いものを私が着るのは少し抵抗が……あ、こうすればいいのかしら。少しお待ちになって?」
「あ、聖女様待って!」
後の展開が読めたので、聖女様を引き留めたかったが、それより早く試着室に戻ってしまった。そしてその前を神官戦士たちが立ちはだかり、私の行く手を遮る。
絶対に通してくれそうにない。
仕方がない。大人しく待つか。
――10分後
「これなら……あら?先程まではちゃんと魔力回路が働いていたのに、おかしいわね。店員さん、これは故障かしら?」
来店時に纏っていた白いローブ姿の聖女様が、試着室から現れた。
恐らくその下にビキニアーマーを着ているのだろう。
ビキニアーマーだけを着用していた時点では、魔力回路が正常に動いていたはずだ。でもその上にローブを着用したため、現在はその全ての機能が停止しているのだ。
「聖女様、うちのビキニアーマーは、ローブを上から着るなどによって、外から見えなくなると、全ての機能が停止してしまうのです」
「えっ、そうなんですか?」
またもや困惑した様子の聖女様のおっとりした声の後に、お付きの神官戦士が怒声をあげる。
「そんなバカなことがあるか!」
うん、私も「そんなバカなことがあるか」って思います。
でもね、これらはみんなうちのマスターの作品だからね。
だってマスターは、ビキニアーマーを着用した美女の姿が見たいという一心で、これらを製作しているんだから。上から羽織って隠すような真似をしたら、その機能を発揮させるわけがないんだよね。
この辺はどんなに説明してもまったく理解してもらえないと思うけど。
……いや、私も理解したくはないけどね。
「確かに先程までは、効果を発揮していた気がしましたけど……」
「はい、その通りです。もしお疑いであれば、一度試着室に戻ってローブを脱いでみてください。その機能が復活しますよ」
そう告げると、聖女様はさっそく試着室に戻っていった。
中からすぐに「あっ!」という声が聞こえたので、ビキニアーマーの機能が復活し、その高性能さを再度実感したのだろう。
すると試着室から、聖女様が顔だけを出された。むきだしの肩がちらっと見えたので、今はビキニアーマーのみ着用している状態なのだろう。
「あの……店員さん、何か上から羽織るものを貸していただけますか?」
まぁ次はそう来ますよね。
「ええと、申し訳ないですが、聖女様。上から何かを羽織った時点で、ビキニアーマーはその全ての機能を停止します。そのほとんどが見えている状態であってもです」
「「「「はぁ?」」」」
その複数の声は神官戦士たちからだった。わけがわからないといった顔をしている。
うんうん。その気持ちは私にも痛いほどわかるよ、私も意味がわからなかったから。
ちなみにマスターいわく、
「ラッシュガードはもちろん、パレオだって邪道だ!
水着の上からパーカーを羽織った女の子は確かにかわいいが、そこに例外は認めない。
一部のアクセサリーを除いて、何かを着用したら全ての機能は即刻停止させる!」
と、私にとってみればどうでもいいことを力説していた。
かつて他の店員で試してみたが、確かにタオル1枚首にかけただけで、ビキニアーマーに付与された全ての機能が停止していた。
どういう理屈なんだよ!
ほんとマスターってば、才能の無駄遣いをしやがって。
なお聖女様は、最終的にはその真紅のビキニアーマーをご購入されていった。
神官戦士たちは止めていたが、なんだかんだで気に入っていたようだ。
え、でもマジで着るんですか?
教義とか大丈夫です?




