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ビキニアーマーしか作らない変態師匠が私にだけセクハラをしない  作者: 崖淵


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第10話 マスターと私

「マスターったら、また散らかしっぱなしで」


私はため息をひとつつくと、ちらかったマスターの寝室を片付けていく。

店の奥がマスターの住居になっており、私はこのお店に住み込みで働いている。

住み込みというよりは、家族みたいな関係だけど。

恐らくマスターは私のことを手のかかる娘程度に思っているんではないだろうか。

手がかかるのはどっちだよ、と言いたいがまぁそれはいい。


マスターとの付き合いは、もうかれこれ10年くらいになるだろうか。


10年前、辺境の開拓村で私は死の淵にいた。

盗賊団が私たちの村を襲ったのだ。

その襲撃時、私は村のはずれで他の子どもたちと遊んでいた。

そこに盗賊団がやってきた。

私を含む子供たちは、盗賊たちによってまとめて捕らえられた。

基本的には村の大人たちへの人質だったみたいだが、泣き止めと言われても泣き叫び続けた子は、盗賊に「うるさい」と無造作に斬られて死んだ。逃げようとした子供は容赦なく足を斬られた。

私は恐怖で動けなくて、結果的には大人しくしていたつもりだったが、逃げようとした隣の子供が足を斬られた。そしてその巻き添えに私の足も斬られた。


運が悪かったのか斬られどころが悪かったのか、私の足は思った以上に深く斬られてしまい、まったく動けなくなった。そのせいか盗賊たちにもそのまま捨てていかれた。

その後すぐに私たちの開拓村は炎に包まれた。後で知るが、大人たちは皆殺しになったようだ。


私はお父さんとお母さんに会いたい一心で、痛みでもう感覚がない両脚に諦めをつけて、我が家の方へと両手で這って進んだ。


だけど、子供の腕の力などたかが知れている。

どんなに頑張っても少ししか進まない。

その間に村を包む炎はどんどん大きくなっていく。

先程まで断続的に聞こえていた悲鳴ももう聞こえない。

ごうごうと火炎が燃え盛る音だけが耳に入る。

そして私も足から血が流れ過ぎたからだろうか、もう腕の一掻きも動かせなくなった。


「お父さん、お母さん……」


もう目も開けられないし、指一本すら動かせない。

これが死ぬってことなのかな。

最後にもう一度、お父さんとお母さんに抱きしめられたかった。

そう薄れゆく意識の中で思っていたその時、私は自分の身体が宙に浮いたのがわかった。誰かに抱きかかえられたようだ。


「辺境で盗賊に襲われて小さい子供が死ぬなんて、全然普通のできごとで、面倒ごとを背負いこむつもりは全然なかったんだがな。

しかしさすがに、こんな幼子が目の前で這って進むのを見てしまうとな。

見上げた根性と言うべきか、さすがに捨ておけん」


薄れゆく意識の中で、聞き覚えの無い男の人の声が耳に入ってきた。

今ならそれはマスターの声だと分かるけど。



その後、どれだけの時が経過したのか分からないが、気付いたら私はベッドの上にいた。

違和感を持った私が両足を見ると、なんと膝から先が両脚ともなかった。


「すまんな、両脚は治療が間に合わなかったようで切断するしかなかった」


目が覚めたマスターは私にそれだけを伝えた。

最初はそのことに少しびっくりしたが、すぐにどうでも良くなった。

両親の死を知ったからだ。


親しい人は全員亡くなった。

その上、両足もなくなった。

もうどうすればいいのだろうか、むしろ私にどうしろと言うのだ。


そうやって少なくとも半年くらいは塞ぎ込んでいたと思う。

そんな私にマスターは、ご飯を与えるだけで特に声を掛けることもなかった。

酷いと思う?ううん、私はそうは思わない。

たぶんあの時は何を言われてもダメだったと思う。私には自分と向き合う時間が必要だった。

それにむしろ今思えば、あのマスターがご飯を欠かさず出してくれていたことに驚くくらいだ。


その後、少し気分を持ち直した私は、迷惑をかけるだけの現状をどうにかしたいと考えるようになった。


そこで初めて私は気付いた。マスターと自分が暮らすこの部屋は、とっ散らかっているというレベルではないほど汚い。

むしろよくこれで腐敗臭が漂ったり、虫が湧いたりしないものだ。

でも逆に言えば、それに気付かないほど私は塞ぎ込んでいたということか。


……その後マスターに当時のことを聞いたところ、虫除けの効果があるビキニアーマーや、清浄や脱臭の効果があるビキニアーマーをその辺に放り投げてあったらしい。

なんという、世界最高峰アーティファクトの無駄遣い!


話を戻そう。

何かをしようとは思ったが、所詮は両足がない子供だ。

集めたゴミを捨てに行くこともできないので、せいぜい身近にある周りのゴミを少し集めたり分けたりする程度が関の山だった。

そんな私を見たマスターは無言でゴミ袋を渡した。

これに入れろってことか。


両脚がないせいですぐにバランスを崩して転倒する。ゴミの山に顔から突っ込んだこともあった。

転倒する度に痛みで涙が出そうになるがぐっと堪えて、ゴミを集める。

ゴミなのかそうじゃないのか分からないものも多いので、確実にわかるものだけをゴミ袋に入れていく。1日の中で私はそれしかしていないのに、ゴミ掃除は遅々として進まなかった。

それでもやっとのことでゴミ袋がゴミでいっぱいになると、マスターが無言でそれを捨てに行ってくれた。

そんな日々が続き、少しだけ部屋がきれいになった。

ゴミが減っただけで、全然片付いていないのでキレイな部屋には程遠いが、以前よりはマシだろう。


そんなある日、マスターが無言で木製の物体を渡してきた。

それは武骨な造りの義足だった。でも不思議とぴったりと私の足に合った。

その日からは、義足を着用したリハビリを兼ねたゴミ拾いが始まった。

それまで以上に転倒して痣を作ることが増えた。義足と接地する足の切断面は、体重がかかって赤く腫れ上がった。悲鳴をあげたい程、痛かった。

それでも私は歯を食いしばって、頑張って動いた。


ゴミ袋を渡してくれたマスター。集めたゴミを捨てに行ってくれたマスター。

義足を無言で渡してくれたマスター。

そのどれもが私にとって、「こんな私が存在して良い」と言ってくれているように思えたからだ。

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