第8話 男性客
「たのもー!」
と言いながら入ってきたのは、見るからに筋骨たくましい大柄な男性だ。小柄な私は見上げる形になる。
「いらっしゃいませー!」
「この店は最高の下着型のアーマーを売っていると聞いた。是非1着欲しいのだよ、私が着用するためのものがね」
あー、たまにいるんだよね。
こういった男性のお客さん。
「あー、残念ながら当店の商品はビキニアーマーと言って女性専用でして……」
「なんと!だが、構わない。私はそっち方面もイケる口でね」
あごひげを撫でながら、その男性客はにこやかにそう言った。
「はぁ……」
いや、そっち方面がどっち方面か知らんけど、そんなカミングアウト別にいらないから。
「でもどちらかといえば男性用がいいな。ブーメランパンツ型とかないかな?パーティメンバー全員分、そう6着欲しいね」
だから女性専用だって言っているだろうが。
その前にブーメランパンツ姿の男6人でそこら辺うろつこうとしてたのかよ。
そんなのもう迷惑通り越して、もはや公害だよ。
うちの店の商品が女性専用で、本当に良かったわ。
「お客様、残念ながら当店の商品は全商品ビキニアーマーです。ですので、1つの例外なく女性専用です」
私がそう言うと、その男性は近くに展示されていたビキニアーマーに近寄って、まじまじと見つめている。
「ええっ!これを私が着るのか?
うーん、まぁ女装も嫌いじゃないけど、どうせ着るならもっと華やかな女性らしいのが、いいよな。
いや、確かにこのような水着もとても女性らしい。だが男性用とはブラトップ部分しか差がないだろう?だから案外つまらないし、着てもただ残念な感じにしかならない。
君もそう思わないかい?」
思わねえよ。
その前に女性専用だって言ってんだろが。
とっとと帰ってくれよ。
「申し訳ないですが、当店は女性専用ですので、お客様は着用になれません」
「ああ、女性用だし直接肌に触れる商品だから、男性の自分は試着は確かに無理だよね。そこは理解するよ。でもこれだけ高いからな。試着したくはあるけど、まぁこういうタイプなら試着なしでもまぁなんとかなるか」
その前に女性専用だって何度も言っているのを理解しろよ。
「ですので、お客様。これらは女性専用ですので、男性であるお客様にはお売りできません」
「これが女性用だってのは理解してるよ。それでも別に僕が買って、持ち帰って着る分には構わないでしょ?」
「いいえ、男性客には一切売らないというのが、この店の不文律となっております」
「ええっ、それは酷い!そんなの性差別じゃないか。
いいから売ってくれよ。お金はちゃんと即金で払うからさ」
「誤解なさっているようですが、男性の方は身に着けたとしても付与効果は一切発動しません。まったくのゼロです。
だから先程から何度も言っていますが、女性専用なんです」
「ええ~、なんだよそれ。そんなのありうる?
そこまで男に売りたくないってこと!?」
でもこれ実際に本当なのよね。
男性が身に着けても一切効果を発揮しない。
いやはや、まったくどんな魔法回路を描けばそんな制限がかかるのか。
「わかった、そこまで言うなら、身も心も女になってくればいい?
それならどっちにしろ売れるでしょ?」
うわ、粘るな。このお客さん。でも残念ながらダメなんだよねぇ。
実際に検証した場面までは見てないけど、「元男性もちゃんと効果を発揮しないぞ」って、マスターがにこにこしながら言ってました。
まぁ私もビキニ着た男なんて見たくないから、それはそれでいいけど。
だからマスターは自身が作る世界最高の防具を身に着けることはできない。
マスターが自分用にビキニ以外の防具を作ればいいんだけど、そんなのは時間の無駄らしい。
全ては美女のビキニ姿のためという、恐るべきはマスターの執念というかなんというか。
「はいはい、いいから出ていってください」
「うわ、そんなに押さないでよ。っていうか、小柄なのに君、結構力あるなぁ。着ているように見えないけど、もしかしてビキニアーマーのお陰?ますます興味が。
やっぱり私も女になって……」
「お客様、お帰りでーす」
私はそのまま、その男性客を店内から追い出した。
最近、そういうデリケートな話題は揉めやすいんだから、本当に勘弁してよね。




