第12話 デザイナー
いつものようにお店で働いていると、私よりだいぶ背が高そうな誰かが、ぬっと私の背後に立った雰囲気があった。
思わず振り返ると、下半身はすらっとしたジーンズに対して、上半身は星条旗柄のコットン素材のビキニトップを着用しただけのグラマラスな美女がそこにいた。
「フラウちゃん、ワタアスいる?」
「あ、ローズさん、こんにちは。マスターなら工房にいますけど、何か御用ですか?」
ローズさんはうちと提携している水着のデザイナーの1人だ。
「あー、じゃあちょっと呼んできてもらえる?」
「わかりました、ちょっと待っててくださいね」
「奥の商談ルームにいるわね」
私は工房に籠るマスターを呼びに行った。
マスターはあくまでも付与魔術師で、気に入ったビキニに付与魔術を施しているだけで、ビキニ自体を作っているわけではない。
マスターが仕入れるビキニのデザイナーは何人かいるが、ローズさんのデザインはマスターの1番のお気に入りと言っていいと思う。
近年うちで製作しているビキニアーマーの半分近くは、ローズさんがデザインした水着なのではないだろうか。
そしてたまにマスターが突発的に出す変態的なデザインを、余すところなく水着化できるのも、またローズさんだけらしい。その点もマスターが、デザイナーとしてローズさんを気に入っている大きな要素だと言っていた。
女王陛下が購入した紐ビキニアーマーなんかは、マスターが拗らせたアイデアのいい例だね。
――コンコン
「マスター、ローズさんが見えられていますよ?」
私は工房のドアをノックして、工房内に向けてそう話し掛けた。
「おお、そうか。すぐ行く」
工房に籠っていても私が話し掛けるとすぐに返事をくれるが、だからと言ってすぐに出てくるとは限らない。
作業に熱中するとなかなかね。まぁそれはわからないでもない。
それに今は私も一番弟子として、以前と違いこの工房に出入りできるから、そこまで困るわけではないし。
だけど今回はその言葉通り、すぐに工房から出てきた。
まぁそうだよね。来客がローズさんなら、マスターの大好きなビキニの話ができるに決まってるもんね。
「やぁ、ローズ。今日はどうしたんだい?もしかして王女様の水着デザインが難航してるのかい?」
先日の第一王女のファーストアーマーだけど、そのビキニ自体はローズさんのところに発注を出していた。
「いや、その件は順調だよ。先方からの大体の希望も条件も出揃っているからね。
今日はそっちじゃなくて、今年の新作水着のデザインの話でさ。あんたの知恵を少し借りたいとお邪魔したんだ」
「なるほど、そうだなぁ。うーん、今の気分的に若草色なんていいんじゃないかな。デザイン的にはカップの横に結び目がきて、そこで解ける……」
2人は今年の新作水着のデザインについて熱心に話し始めた。
私にとっては、水着のデザインや希望する形状について、すらすらと出てくる男性とかキモくて仕方がないけど、ローズさんにとってはそうでもないようだ。
ちなみにマスターのアイデアを元に作られた水着は、大抵において女性には不評なのだが、その分男ウケはいいのだと。
水着を買うのは女性なのであまり関係なさそうだけど、それでも男ウケする水着というのは、一部の女性にとっては需要があるらしい。
しかしこうなると私は蚊帳の外だ。
だって私はビキニのデザインになんかまったく興味ないし。
それに私はビキニアーマーを着れないからね。
とりあえず2人分の飲み物も出したことだし、つまんないから店番に戻ろうかなって思っていると、ローズさんがマスターと議論しながら、時折こちらをちらちらと見ている。
何だろう、私に何か用でもあるの?と思ってそちらを見た。するとローズさんが私に見せつけるようにしてマスターの手をとって自身の胸元近くに誘導したり、マスターに頻繁にボディタッチをしたりしている。
いやいやいや、いくらビキニの話だからって、胸元のビキニのあたりをわざわざ触らせる必要なんてまったくないでしょ!
一方でマスターはわかりやすくデレデレとした顔をしている。
今すぐハリセンでその顔を引っ叩いてやりたいが、マスターから手を出しているわけではないからぐっと我慢する。
それにそんなイライラする私を見て、ローズさんがにやにやしているところを見ると、わざわざ私に見せつけているのは間違いない。
くっ、何なのよ、もう!
私はそれ以上見るに堪えなくて途中で席を外したが、2人はその後も小1時間くらいベタベタした後にローズさんは帰っていった。
いや、仕事の打ち合わせをしていたんだろうけど、私にはそうとしか見えなかったのだ。
そんなローズさんだけど、帰り際に私に近寄って
「なんか最近ワタアスも悪くないかなって。フラウちゃん、私もらっちゃってもいいかな?」
と耳打ちを残していった。
えっ、今なんて?
もらうって何を?マスターを?
ローズさんみたいな美人が???
ウソ、本気!?今までのローズさんに、そんな素振りなんて全然なかったのに!
私は呆然としばらくその場に立ち尽くしていた。




