第8話 それでも助けた人
◇
校舎の暗がりから救出され、病院のベッドに横たわってから数日。
悠人は内側で、【リアル生成AI】をフル稼働させていた。
外部からの雑音を遮断し、ひたすら自己の内面に意識を集中させる。
肉体はまだ回復途上にあったため、体の”外側”でやることは特にない。
暇つぶしも兼ねての行動だった。
スキルを稼働させることで、眠気が一定時間おきに襲ってくる。
暇な悠人にとって、寝ても何も問題はなかったので、眠気が襲ってくるたびに遠慮なく眠りについた。
眠っている時間のほうが、一瞬で時間が過ぎ去ってくれるため、精神的には楽ではある。
「分析、開始。
案件:先の学校の一件におけるゴブリンリーダー撃破の成功要因と、それに伴う生成の限界」
今日も自身のスキルを起動し、あの戦闘のすべてを”データ”として再検証する。
脳内に巣食う悠人のスキルは、成功の要因と、それが内包していた絶望的な危険性を、冷静に、客観的に分解していった。
《【成功要因(偶然性)】
1. 『意思』のトリガー: 茜を救いたいという**強烈な感情**が、通常の発動プロセスをスキップさせたこと。これは、再現性の低い、感情的なバーストであった。
2. 知識コストの最適化: ゴブリンの生態、弱点に関するインターネット上の知識、ファンタジー小説のデータ、そして生物学的な知識など、分散していたデータが奇跡的に統合されたこと。
3. 物理コストの確保: ポケットの中の**ペンケース**という、高強度のチタン合金の生成に必要な資源が、偶発的に手元にあったこと。
4. 敵の配置: ゴブリンリーダーが一対一の状況を自ら作り出したこと。》
《【失敗要因(必然性)】
1. リソースの枯渇: たった一撃で、精神コスト(MP)が1%まで枯渇し、即座に戦闘不能に陥ったこと。
2. 知識の偏り: 生成物一つにすべての知識を集中させたため、他の状況に対応できる汎用的な生成物が作れなかったこと。
3. 継続性の欠如: 連続戦闘や防御、移動のための生成手段を一切持っていなかったこと。》
「もし、ゴブリンリーダーの他に、あの場に一体でも戦意のあるゴブリンがいたら?」
《あなたは、あの場で意識を失い、死んでいた確率は99.8%でしょう。》
(……ふぅ。
───一旦ここまでにしよう。
さて、精神コストの上限はどれくらい増えたかな……)
悠人は脳内に表示されている”画面”で、精神コストの保有量上限が31に達していることを確認する。
ここ数日、分析を繰り返す中で、精神コストの保有量上限が増加していっていることに気づいた。
どうすれば上げることができるのか、スキルに問いかけても、反応することはなかったが。
(このスキルについては、まだよく分からないことがあるが、もうやるしかない。
ペースは遅いが、精神コストの保有量も増やしていける。)
(とにかく今は、少しでも多くの状況に対応できるよう、保有量を増やしつつ、効率よく学習できる方法を探さないとだな……)
悠人は一度分析を停止させ、仰向けの体制で、天井を見つめた。
自分が今、何をすべきなのかよく分からない。
自分は、果たして、”主人公”になれるのだろうか。
悠人は、もう平凡な高校生ではないことを自覚しつつ、ベッドの上で右手をあげ、固く拳を握りしめるのだった。
数日後、悠人は分析をやめ、白い病室のベッドの上で、静かに自分の傷と向き合っていた。
入院生活の中で、肉体的な痛みよりも、精神的な疲弊の方が大きかったことに気づく。
スキルを極限まで酷使し、身体の全エネルギーを搾り取られた代償は想像以上に甚大だったようだ。
あれからベッドの上で、分析を続けてしまったのは、悪手だったかも知れない。
「……今日は少し体が軽いな。
だいぶ動けるようになってきたぞ。」
その日目を覚ますと、体が回復に向かっていることを感じ、悠人は笑みを浮かべていた。
確かめるように自分の手のひらを何度か握りしめる。
その後、改めて窓の方を見た。
ここは病院の5階で、相変わらず窓の外には、真っ青な空しか見えない。
いつにも増して吸い込まれそうな空だった。
スキルを手に入れたからには”努力”すると、決意を新たに胸に抱いたものの、不安がどっと押し寄せてくる。
通路の血まみれの光景。
襲われる生徒たち。
見るに耐えない怪我をする茜と、その苦しそうな悲鳴。
このまま探索者になるということは、あの恐ろしい光景を作り出すモンスターたちと、再び自ら戦いに行くということを意味している。
(───本当にやれるのか……?
───俺の……
このスキルで……俺が……)
窓から目を離し、天井に視線を向けた。
あたりは静寂に包まれ、回答はない。
思えば、病室には食事を運んでくる看護師くらいしかこの部屋に入ってくることはなかった。
隣の病室からは、時々賑やかな話し声が聞こえてくる。
(家族がいれば、お見舞いに来てくれたりするんだろうな……)
ずっと一人で病室にいると、どうしても陰鬱な感情が胸の内から湧いてくる。
悠人が思わずため息をついた時、病室のドアが静かに開いた。
「悠人……
入っても、大丈夫?」
そこに立っていたのは、幼馴染の早乙女茜だった。
読んでいただきありがとうございます。
面白ければ、ブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです。




