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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

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第73話 更新後

 悠人は一度深く呼吸をし、立ち上がると、リリスの前に立った。


 床にはわずかなひび割れが残り、壁面の照明は完全な明度に戻りきらず、微妙な揺らぎを伴って明滅している。


 目の前にいる存在は、完璧を目指して暴走を続けていた人間のような生命体。


 その輪郭は以前と変わらないはずなのに、ひどく印象が違って見えた。

 視線が合うたびに、ほんのわずかな温度のようなものを感じる。

 今は、そこに曖昧さがあった。

 迷いとも違う、揺らぎとも違う、定義できない何かが、確かに宿っているように見える。


 “心”という概念を、できる限り彼女に最適化した形で埋め込んだ。

 それが正しかったのかどうか、確証はない。

 不安定な生成物であり、制御不能に近い状態であることは理解している。

 論理だけで組み上げられていない以上、予測不能な振る舞いを見せる可能性もあった。

 喜びと混乱、好意と拒絶、その境界は曖昧で、いつ崩れてもおかしくない。

 それでも、この選択を後悔していない理由は一つだけあった。


 干渉できなくなったからだ。


 以前のように、内部構造へ直接触れ、情報を書き換え、最適解を強制することはできない。

 同時に、リリスの側からも、距離を詰めなければ悠人自身に影響を及ぼせなくなった。

 その不便さが、今は心地よい制約として感じられている。


 リリスが個としてその存在を確立した何よりの証拠。


 無制限に触れられる関係ではないからこそ、そこに意味が生まれる。

 触れること、言葉を交わすこと、その一つひとつが選択になっていった。


(──リリスはきっと成長できる。)


 そう確信する理由は、論理では説明できない。

 数値化もできない。

 ただ、目の前に立つこの存在が、以前よりも「存在している」と感じることができる──

 それだけで理由は十分であった。


「嬉しいな、リリス。

 誰一人負傷することなく、勝利することができた」


 言葉にした瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなる。

 戦闘後の安堵ではない。

 結果に対する評価でもない。

 それは無事だったという事実を、誰かと共有できたことへの感情であった。


「……嬉しい──?

 ただ、マスターの戦力が減らないという点では、確かにその感情に値すると思います」


 返ってきた答えは、相変わらず理屈に寄っている。

 それでも、その間の取り方が以前と違っていた。


 言葉を選んでいるような、考え込むような間が確かに存在している。

 首をわずかに傾げる動作も、必要だから行われたものではない。

 思考の結果、自然に生じた動きに見えた。


 その瞬間、胸の奥で固く絡まっていた何かが、静かにほどけていく感覚に襲われる。

 正解かどうかは分からない。

 それでも、間違いではなかったと、初めて素直に思えた。


「改めてよろしくな、リリス」


 差し出した手は、ほんの少しだけ震えている。


 意識すればするほど、指先に力が入り、逆に不自然になっていった。

 だからこそ、余計なことを考えないようにして、ただ笑顔を悠人は形作る。


「……」


 少し離れた場所で、零華と茜が様子を見守っていた。


 零華は、剣を収めた姿勢は崩していないが、殺気はない。

 腕を組んだままの立ち姿には、警戒と安堵の感情が同時に滲んでいた。

 茜は一歩引いた位置で、視線を向けたり逸らしたりを繰り返している。

 頬にわずかな赤みが残っているのは、戦闘の余熱だけではないだろう。

 茜はリリスの元へと近寄っていった。


「わ、私も──!

 改めてよろしくね、リリスちゃん」


 茜は意を決してリリスへと手を差し伸ばす。


「……あなたは──

 なぜさっさと告白しないのですか?

 マスターは押せばいける人間です」


 空気が一瞬止まる。

 沈黙が、地下施設全体に広がったていた。

 照明の微かな唸り音すら、急に大きく感じられる。


「リリスちゃん!?」


「チッこのメス型AI、やっぱり何も変わってな──」


「というのは冗談です」


 遮るようにすぐに続いたリリスの言葉は、淡々としている。

 だが、その後に続く言葉は、明らかに以前のものと異なっていた。


「なぜか今、マスターと他の人間がくっついているところを想像すると──

 想像するだけで、胸の奥から、嫌なものが湧いてきます」


 言葉に詰まりながらも、リリスは最後まで言い切る。

 その様子は、データを読み上げるそれとは明らかに違う。

 自分の中で発生した現象を、どう扱えばいいのか分からずに、そのまま外に出しているようであった。


「……これが、”心”──

 感情、なのですね」


 リリスは胸の前で自分の手を握りしめる。

 確信と不安が同時に存在している何よりの証拠であった。


「おい天野、大丈夫かこいつ。

 前よりおかしくなってるんじゃないか?」


「ちょっと神崎!

 鋭すぎるぞお前の言葉!」


 悠人引き攣った笑みを浮かべながら零華の方を見る

 零華の顔には本気の心配も混じっていた。


「……ちょっともう一度確かめてみるか──」


 冗談で流そうとしている自分と、真剣に向き合うべきだと理解している自分が、胸の中でせめぎ合っている。

 とにかく、逃げる選択肢は浮かばなかった。

 ことが全て終わったつもりであったが、まだ何も、リリス関係については終わっていないのかもしれない。

 彼女を凍結状態から呼び起こし、向き合い続けると決めたからには、もう半端な対応をして違和感を見逃すわけにはいかなかった。


「問題ないですマスター」


 リリスは触れようとした悠人の手を弾く。

 その動作は素早いが乱暴ではなく、拒絶というよりも、距離の取り直しに近いものであった。

 触れかけた指先が離れる瞬間、微かな温度差が残り、悠人の掌に一瞬だけ名残のような感覚が残る。


「皆さん、これからパーティーメンバーとして、よろしくお願いします」



 その声は、地下施設に残る微かな反響の中で、はっきりとした輪郭を持って広がっていった。

 リリスの両手が静かに前へ差し出され、茜と零華の方へ向けられる。

 その所作には、演算された最適動作とは異なる、わずかなためらいが混じっていた。

 誠意のようなものを初めてリリスから感じ取り、悠人たちは思わず息を呑む。


 差し出された両手は、完全に同じ高さでも角度でもなく、ほんの少しだけ不均衡なものであった。

 その不揃いさが、逆に意図的でないことを示しているようにも見える。

 握手という行為を、知識としてではなく、体験として理解しようとしている痕跡が、そこにはあった。


「ふん。

 パーティメンバーとして、ね」


 零華の声は低く、短い。

 しかし、その響きは鋭さを残しながらも、以前のような敵意はどこにもなかった。

 床に置かれた足の位置がわずかに変わり、重心が戦闘用の構えから、日常に近い立ち方へと移行している。

 剣の柄に置かれていた手も、いつの間にか自然に離れていた。

 その手は代わりに、差し伸ばされたリリスの手を握る。


「改めてよろしくね、リリスちゃん」


 茜の声には、まだ硬さが残っていた。

 それでも、逃げ腰ではない。

 差し出された手に触れるまでの一瞬、指先が僅かに強張るが、それでも歩み寄る意思ははっきりと感じられた。

 指と指が触れ合う瞬間、思っていたよりも冷たくないことに、ほんのわずかな驚きが茜の表情に混じる。


 二人ともぎこちない握手だった。

 力の入れ方も、離すタイミングも、互いに探り合うようにずれている。

 それでも、かつてのような張り詰めた敵意や、排除を前提とした感情が、この接触の中に混ざることはなかった。


 触れている時間がほんの数秒であっても、その間に交わされる情報は、戦闘時の何倍も多い。


 空間の温度が、ほんの少しだけ上がったように感じられる。

 実際に数値が変化したわけではない。

 だが、空気の流れが柔らぎ、耳に届く機械音の角が取れたように錯覚させられる。


 握手が解かれたあとも、誰もすぐには動かなかった。

 手を下ろす速度がわずかに遅れ、その間に残る余韻が、言葉以上の意味を持って空間に漂う。


「初めは誰しも、信頼できないものです。

 リリスは積み重ねていきますよ、皆さんの信頼を」


 リリスがそうポツリと発する。


 抑揚は最小限だが、無機質ではなかった。

 演算結果を読み上げる音ではなく、状況を自分なりに解釈し、言語化した結果として発せられた響き。

 その一言が放たれた瞬間、室内の空気が静かに落ち着いていった。


 零華は一瞬だけ目を伏せ、何も言わずに小さく息を漏らす。

 茜もまた、視線を逸らしながら頬をわずかに緩め、胸の奥に溜まっていた緊張が少しずつ解けていくのを感じていた。

 リリスの内部で、膨大なデータが再構成されていく。

 戦闘ログでも、行動最適化でもない。

 今この瞬間の空気、表情、沈黙の長さ、握手の強さ、そのすべてが新しい参照点として蓄積されていく。

 その過程は、効率的とは言えないかもしれない。

 だが、確実に理解に近づいている感覚があった。

 リリスの言葉には、もはや以前のような冷徹さはない。


 代わりに、ほんの少しの優しさを感じさせるものがあった。


「さ、まずはぶっ壊された扉、直さないとな。

 この際、新しく頑丈なものでも生成してみるか」


 悠人は壊れた玄関周辺を見回しながら、乾いた笑いを漏らした。

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