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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

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第68話 アップデート

 薄暗い部屋に、静かな機械音だけが響いている。


 あれから悠人はリリスを自宅に運んだ。


(……傷は、塞がっているみたいだな。)


 悠人はグーパーと手を動かしてみる。

 銃撃による怪我は、生成した治癒のポーションを服用したことで、ひとまず元通りに治っていた。


「リリス……」


 ベッドの上で横たわる彼女は、最低限の生命維持に近い稼働状態にある。

 発する光も弱々しい。

 呼びかけても反応はなく、まるで眠っている人形のようだった。


 カーテンはきつく閉じられ、外界との接点はほとんど断たれている。

 昼か夜かも判然としない室内には、時間の流れを示すものがほとんど存在しなかった。

 わずかに、カーテンの隙間から差し込む街灯の橙色の光だけが、床の上に細長い影を落とす。

 その光は、外を走る車の振動や遠くの生活音に反応するかのように、微かに揺れ続けていた。


 空気は張りつめるほど静かで、埃が舞う音さえ聞こえてきそうな錯覚を覚える。

 エアコンの低い駆動音と、リリスの内部機構が発する電子音が、一定の間隔で交互に響いていた。


 リリスの発しているそれは、生体の呼吸音ではない。

 だが、完全な無機音でもなかった。


 悠人はその拳をきつく握りしめる。

 冷たい汗が、いつの間にか衣服の下で肌を伝っていた。


 彼女は稼働を続けているのだろうか。

 それとも、稼働自体は停止し、維持フリーズに近い状態にあるのか。

 ──あるいは、停止寸前にあるのか。


 なんであれ、目の前で横たわっている彼女を「生きている」と断言することはできない。

 その存在は、非常に曖昧な領域にあった。


 胸の奥がきしむ。

 痛みというほど鋭くはないものの、鈍く重い圧迫感が、呼吸のたびに存在を主張してきた。


「くそ……」


 悠人はベッドの傍らに腰を下ろし、何度目か分からないため息をつく。

 吐き出した息は、すぐに室内の冷えた空気に溶けていった。


 視線は、意識しなくても自然とリリスへ向かってしまう。

 閉じられたまぶたは、微動だにしない。

 指先も、髪の一本も、まるで時間そのものが止められたかのように静止している。

 整った幼い顔立ちは、人のそれとほとんど変わらなかった。

 それでも、どこか決定的に違うと感じてしまうのは、彼女が不完全な生成物だからだろうか。


 人のようで、人ではない存在。

 その境界を曖昧にしたのは、間違いなく自分だった。


 手を伸ばせば触れられる距離にいる。

 それなのに、その距離が途方もなく遠く感じられた。

 触れることで、何かが壊れてしまうのではないかという恐怖が、右腕を縫い止めている。


 名前を呼ぶべきなのか。

 謝罪の言葉を向けるべきなのか。

 それとも、何も言わず、ただ待つことが正解なのか。

 思考の中で選択肢が次々と浮かび上がり、そのたびに否定されて消えていった。


 どれも正解に思えない。

 どれも間違っている気がしてならなかった。


「ふん、アホくさ」


 部屋の隅では、零華と茜が距離を置いて立っている。

 零華は壁に体を預け、腕を組んで不機嫌そうに息を吐き出した。

 茜は壁に寄りかかるでもなく、椅子に腰掛けるでもない。

 ただ、そこに立ち尽くしている。


 視線はそれぞれ別の方向を向き、同じ空間に存在していながら、意識はまったく別の場所にあるように見えた。


 衣服についた汚れはそのままになっている。

 帰宅してからというもの、誰一人として身なりを整えていない。

 時折、ボサボサになった二人の髪の毛が、エアコンの風に揺られて微かに動いていた。

 悠人の右腕には血液が固まって黒ずんだまま張り付いている。


 二人とも言葉を発しない。

 悠人自身、彼女たちに視線を向けられなかった。


 怒鳴られる方が、まだ耐えられたかもしれない。

 失望をぶつけられる方が、まだ向き合いようがあった。

 だが、この沈黙は違う。

 理解しようとすることすら拒まれているような、静かで冷たい拒絶そのものだった。


 部屋の空気が、さらに重くなる。

 息を吸うたび、肺の奥まで冷たいものが入り込んでくる感覚があった。


(──全部、俺の行動の結果だ。)


 胸の内でその言葉が浮かんだ瞬間、喉の奥がひりつく。

 誰かに言されたわけではない。

 責められたわけでもなかった。

 ただ、事実として、それ以外の結論が存在しなかったのだ。


 選んだのは自分だった。

 信じたのも、自分だった。

 そして、この結果を引き寄せたのも──。


 判断したのは自分だ。

 優先順位を決めたのも自分である。

 守れると思い込み、制御できると信じ切った結果が、今この光景だった。


 悠人はそっと目を閉じる。


 瞼の裏に広がる暗闇は、完全な無ではなかった。

 意識を遮断したはずなのに、脳裏には色も温度も伴った記憶が、次々と滲み出してくる。

 制御しようとすればするほど思考は逆流し、過去の断片を無秩序に浮かび上がらせた。


 ネクロスの刺客に追われる中、初めてリリスと向き合った時の驚き。

 人とは明らかに異なる圧倒的な存在感。

 それでいて、こちらの感情を読み取ろうとするかのような視線。

 理解が追いつかないまま、膨大な知識が即座に提示された瞬間の衝撃。

 考えるより先に答えが与えられる感覚に、戸惑いと安堵が同時に押し寄せたことを、今でもはっきりと思い出せる。


 選択に迷うことがなくなった安心感は、確かに心を軽くした。

 判断を下す責任の重さから解放され、失敗を恐れる必要もない。

 成功体験が一つ、また一つと積み重なるたびに、「疑う」という行為は不要なものとして意識の外へ追いやられていった。

 最初は慎重だったはずなのに、いつの間にか、その慎重さは自信という名の慢心にすり替わっている。


 最初はただ便利で、すごい力だと思っていた。


 選択肢を即座に整理し、最適解を提示する能力は、世界の難易度を一段階下げたように感じさせた。

 戦闘でも、探索でも、交渉でも、迷いが生じる前に答えが示される。


 リリスの知識は万能で、選択肢を間違えることなんてないと信じていた。

 信じたかったんだ。

 疑う理由が見当たらない訳ではない。

 正確には、疑う理由を探そうとしなかった。

 不都合な可能性から目を背け、向き合うことなく、その弱さを自覚しないまま抱え込んでいた。


 ──自分は正しい道を歩いている。


 そう錯覚していたのは、答えを出していたのが自分ではなかったからだ。

 先のネクロスの一件では、自分のやり方を強引にやり通して失敗してしまった。

 だから”心”を信じるなんて都合の良いことを言って、重要な決断を先延ばしにして、挙句リリスに委ねてしまった。

 判断の主体がどこにあるのか、その境界が曖昧になっていく感覚に、危機感を持つべきだったのだ。

 その違和感は、快楽に似た安心感の中で簡単に押し流されてしまっていた。


「チートだ」


 その言葉が、今になって何度も何度も頭の中で反響する。

 軽い響きで放った一言が、遅れて重たい意味を伴って返ってくる。

 冗談のつもりだった。

 深く考えた言葉ではない。

 だが、そこには確かに、力を使う側としての驕りが潜んでいた。

 力を制御しているという思い込み。

 その力の源に対する無自覚な軽視が、無防備なまま露呈している。


 世界が急に単純になったような錯覚。

 努力や試行錯誤を飛び越え、結果だけを掴み取れる感覚。

 その甘美さは、疑問を抱く力を鈍らせるには十分すぎた。


(……また俺は、自分の都合の良い方に流されてしまっていたんだ。)


 データを盲信し、今まで寄り添おうとしてくれた茜を蚊帳の外にし、データの奴隷と化した過去。

 冷静に言葉にすれば、あまりにも情けない姿だ。

 意見を聞くことをやめ、感情を共有することを後回しにし、都合のいい答えだけを求め続けた。

 その結果、周囲との距離が少しずつ、しかし確実に広がっていったことに、気づかないふりをしていた。


(──何も変わっていない。)


 形や状況が違うだけで、本質は同じだった。

 自分で考えるべき場面で考えることを放棄し、向き合うべき存在から目を逸らす。

 その積み重ねが、今回の結果へと繋がっていた。


「……俺は」


 悠人は小さく呟く。


「───今度は”心”の奴隷になってしまっていたんだ……」


 微かな電気音。

 エアコンの作動音。

 リリスの内部機構がかすかに発する信号音が、断続的に重なり合っていた。

 まるで心拍の代替物のように、部屋全体へ重苦しく張り付いている。


 今回も、向き合うべきものに、向き合えていないが故に起きた悲劇だった。

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