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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

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第65話 銃撃

 体は動かず、喉は詰まり、言葉は形にならない。


 呼び止めたところで、一体何を伝えるつもりだったのか。

 その答えすら、悠人の中では曖昧だった。

 言葉にすればどこか薄っぺらく感じられ、伝えたところで何かが変わるわけではないということを、胸の奥で痛いほど知っている。


「マスター。」


 リリスが悠人の後をゆっくりと歩きながら追いかけてきていた。

 二人だけが残された空間は、あまりにも静かだった。

 先ほどまで確かにそこにあったはずの熱、怒り、そして激しい感情の衝突は、まるで嘘のように消え失せている。

 もうこの場にいる”人間”は、悠人しかいなかった。


「よかったですね。

 これで二人きりです。」


 代わりにその場へ広がるのは、重く沈殿した空気と、”無機質”なリリスが発した言葉の残響だけ。

 森全体が息を止めているかのようで、葉のざわめきも微かに、枝の揺れもごく微弱になっていた。


 足元には、無残に倒れたゴーレムの残骸が転がっている。

 砕けた石片、歪んだ魔力回路、無機質な破片。

 それらは、ほんの少し前まで激しい暴力の象徴だったにもかかわらず、今はただの瓦礫に過ぎない。

 その悲惨な姿が、現在の状況の象徴のようにも思えた。


「はぁ……

 何をやっているんだ──

 俺は───」


 悠人は力なくその場に腰を下ろした。

 膝が地面につく感触すら、どこか遠い世界の出来事のようだ。

 背中を丸め、視線を落とすと、靴先の汚れや、地面に散った砂利がやけに鮮明に目に入る。

 見なくていいものほど、はっきり見えてしまう。

 足元の砂利の一つ一つ、枯れ葉の曲がった形、濡れた土の濃淡……

 そのすべてが心に重くのしかかる。

 目を閉じても残像が焼き付いて離れず、開けばまた過酷な現実が突きつけられた。


 頭の中では、断片的な場面が何度も反復されている。

 怒りを帯びた声、失望を含んだ視線、躊躇を責める重苦しい沈黙。

 どれもが、自ら判断を先延ばしにしてきた結果だと分かっている。

 それでも、あの瞬間に別の選択ができたのかと問われれば、確信を持って答えることはできない。

 思考は堂々巡りし、過去の瞬間が何度も再生され、胸に深く刺さる。


 守ろうとしたものは何だったのか。

 守るべきだったものは何だったのか。

 その二つが、いつの間にか大きく食い違っていたことに、今さら気づかされる。


「マスター、早くどこかへ行きましょう。

 デートです、デート。」


 リリスが悠人の隣に座る。

 時間の感覚はひどく曖昧だった。

 数分なのか、数十分なのか、それとももっと長い時間が経過したのか。

 ぼんやりと座り込んだまま、思考だけが空回りする。


「あぁ……

 そうだな──」


 リリスの言葉は悠人の耳から入って、そのまま抜けていく。

 今は何も、彼女の言葉が頭の中に入ってこなかった。

 風が木々を揺らし、葉擦れの音が静かに続いている。

 遠くで鳥の羽音が聞こえ、自然だけは何事もなかったかのように動き続けていた。


「マスター、早く移動しましょう。

 空腹状態であることを感知しました。」


 地面の冷たさが、衣服越しにじわじわと伝わってくる。

 湿った土の感触は重く、まるで膝裏にまとわりつくようで、立ち上がるための気力を削いでいった。


「それともここで生成しましょうか……?

 マスターのコストを使用してしまうのであまりお勧めはしませんが。」

「ちょっと待ってくれリリス───」


 周囲の音ははっきりと聞こえているはずなのに、どこか分厚い膜越しに届いているようだった。

 思考は断片的に跳ね回り、順序を失っている。

 直前の言葉、交わした視線、背を向けて去っていったあの姿。

 それらが脈絡なく浮かんでは消え、胸の奥に鈍い痛みだけを残していく。

 後悔と未練、納得できない感情が複雑に絡み合い、どれも掴み取れないまま霧散する。

 呼吸をするたびに胸が重く、肺の奥に澱が溜まっていくような感覚があった。


「……」


 その閉じた世界の中で、不意に空気が変わった。


 肌に触れる空気の質が、わずかに変質する。

 温度ではなく、密度そのものが変わったかのような奇妙な違和感だった。

 音の輪郭が一瞬だけ鋭くなり、森全体が息を潜めたように感じられる。


 リリスの視線が、ふっと宙を捉えた。


 それまで静かに周囲を観測していた視線が、明確な一点へと収束する。

 その動きには一切の迷いがなく、何かを検知したという確信だけが宿っていた。


「警告。

 未登録個体の接近を確認しました」


 いつもと変わらぬ、淡々とした声だった。

 しかし、その冷徹な内容は、悠人の意識を一気に過酷な現実へ引き戻す。


「──え?」


 反射的に顔を上げた。

 視界が急に広がり、木々の配置、影の落ち方、光の角度を一度に把握しようとする。

 周囲を必死に見渡すが、すぐには異変が分からない。

 木々は変わらず立ち並び、光の差し方も先ほどと同じだ。

 だが、何かが決定的に違う。

 空気の流れが微妙に変わり、耳鳴りのような圧迫感が頭の奥に生じていた。

 言葉にできない不気味な違和感が、背筋を這い上がってくる。


 次の瞬間、あたりに落ちていたゴーレムの残骸の一部が音もなく砕けた。


 これといった衝撃音はなかった。

 ただ、そこに存在していたはずの石片が、崩れるようにではなく、鋭く切断されるように消えた。

 輪郭が一瞬で失われ、空間に溶けるようにして消滅する。


 心臓が強く脈打つ。

 視線が自然と残骸へ吸い寄せられ、砕けた断面の滑らかさに強い違和感を覚えた。

 決して偶然ではない。

 意図的で、正確で、無駄がなかった。


 続いて、無数の不穏な足音がそこらじゅうから聞こえ始める。


「……なんだ──?」


 一定のリズムを刻む、重く規則的な音。

 ”それ”が地面を踏みしめるたびに、低く響く振動が足元から伝わってくる。

 ”それら”は軽装ではないことを示す沈んだ響きが、森の静寂を押し潰すように広がっていった。

 四方八方から迫る不穏な気配に、悠人は深く息を呑む。

 吸い込んだ空気が十分に肺へ届かず、喉の奥で詰まった。


「──お前たちは……」


 黒い装備に身を包んだ数名の人物が、木々の隙間から続々と姿を現した。


 統一された装備は光を反射せず、その不気味な存在感だけを際立たせている。

 動きに無駄はなく、足運びは極めて正確で、互いの位置を完全に把握したまま自然に間合いを詰めてきていた。

 その立ち居振る舞いに過去に見た恐ろしい記憶が、否応なく脳裏に重なり合う。

 訓練された動き、排除を前提とした冷徹な配置。

 気づいた時にはすでに、綺麗な円を描くように包囲が完成している。

 逃げ道はなく、距離は計算され尽くしていた。

 ──ネクロスの刺客のそれだ。


「対象と接触。」

「位置情報のプログラムを取り込んでいる個体はあの雌型の方だ。」


 悠人の問いには答えず、低く抑えた声が、淡々と事実を告げる。

 そこには個人的な感情は一切感じられず、ただ冷酷な事実と判断だけがあった。

 視線が一斉にリリスへ向けられ、空気がさらに硬くなる。


「研究目的のため、回収する。」


 その無機質な言葉に、悠人は背筋が凍るのをはっきりと感じた。


「ま、まさかネクロスの部下か……?

 なんでここに──」


 それは疑問というより、目の前の現実を否定したい気持ちが先に立っていた。

 すでに関係が崩れ、大切な仲間が去った直後に、さらなる大きな危機が押し寄せている。

 心の整理が追いつかないまま、強制的に次の選択を迫られていた。

 激しく狼狽える悠人の横で、リリスは一瞬だけ沈黙する。


「マスター。

 私は……最適解を提示できません」


 その告白が、悠人の胸に深く突き刺さった。

 これまで積み上げられてきた信頼が、音を立てて軋む。

 知識を集積し、状況を瞬時に解析し、常に進むべき道筋を示してきた存在が、初めて迷いを見せた瞬間だった。

 支えとして無意識に頼ってきたものが、今は助けを求める側に立っている。

 その冷酷な事実が、現実として重くのしかかっていた。


 崩れたパーティ。

 去った仲間。

 そして、迫る刺客。


 それぞれが別々に起きていれば、まだ冷静に対処できたかもしれない。

 しかし現実は同時に牙を剥き、思考の処理能力を遥かに超えて押し寄せてくる。

 手を伸ばす先も、守るべき対象も、優先すべき判断も、すべてが霧に包まれ、その輪郭を失っていく。

 正しさだと信じて積み上げてきた選択が、根元から大きく揺らぎ始めている。


 恐怖ではない。

 絶望とも違う。

 ただ、自らの判断基準そのものが根底から崩れていく感覚。

 足元の地面が、静かに、確実に崩壊していく。


 悠人は、自分が本当に守るべきものを見失ったまま、ただその場に立ち尽くすしかなかった。

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