表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/113

第59話 恋愛ゴーレム

 悠人たちはダンジョンを脱出し、現実世界へと戻ってきた。


 ゲートからしばらく歩いた場所に、小規模なショッピングモールがある。

 そこで気分転換を兼ねてこれから食事でもするつもりだ。

 ダンジョンの冷たい空気から解放され、舗装された街路に足を踏み出した瞬間、身体の奥に溜まっていた緊張が、少しずつ、確実にほどけていくのを悠人は感じていた。


 地面の感触は安定しており、不快な湿り気もない。足裏から伝わる確かな感覚が、現実世界の輪郭をはっきりと描き直していく。

 背中に背負っていた装備の重さも、ダンジョン内で感じていたそれとはどこか違い、ただの物質的な重量として意識に戻ってきていた。


 人の声が遠くから聞こえる。

 談笑する声、呼び込みの声、子どものはしゃぐ声。

 無数の音が重なり合いながらも、不思議と耳障りには感じられない。

 行き交う視線には警戒よりも好奇が混じり、誰かを敵と見なして構える必要はないのだと、身体が少し遅れて理解していく。

 遠くから響く車の走行音が、一定のリズムで街の営みを主張していた。


「さーてついたぞ。

どの店行こうか。」

「……私は任せるわ。

茜、何かオススメとかある?」

「えー、そうだねぇ……」


 つい先ほどまで、命のやり取りを前提とした空間に身を置いていたという事実が、急速に現実味を失っていく。

 その激しい落差に、軽いめまいにも似た感覚を覚えながらも、悠人は無意識のうちに深く息を吸い込んでいた。

 肺いっぱいに流れ込む空気は、ダンジョン特有の澱んだ匂いを含んでおらず、わずかに排気ガスと飲食店の香りが混ざった、紛れもない現実世界の空気だった。


 ショッピングモールは、巨大な商業施設というほどではなく、かといって寂れているわけでもない。

 地元住民の日常の延長線上にあるような、落ち着いた佇まいだった。

 外観はシックな色合いでまとめられ、過剰な装飾は見当たらない。

 入口付近には案内板が設置されており、飲食店や小さな雑貨店、娯楽施設が整然と並んでいるのが見て取れる。


 平日ということもあり、人通りは少なかった。

 されど、まばらに家族連れや友人同士、買い物袋を下げた人々が確認できる。

 誰もが自分の用事に意識を向けており、そこには特別な緊張感など存在しない。

 その雑多で穏やかな空気に触れたことで、悠人の中に残っていた重たい思考も、ほんのわずかに緩み始めていた。


 ダンジョン内で繰り返していた反省や後悔が、完全に消えたわけではない。

 ただ、今この瞬間は、それらを一時的に脇へ置くことが許されている。

 そう感じられるだけで、胸の奥に溜まっていた圧迫感はずいぶんと軽くなっていた。


「リリスは何が食べたい?」


 悠人がリリスに対して歩きながら投げかけた問いは、深い意味を持たせたものではなかった。

 人混みの中を歩きながら、自然と歩調を合わせる。

 足音が舗装路に規則正しく響き、モールの入口が少しずつ近づいてくる。


「マスターが好きなものです。茜さんは何が食べたいですか?」

「……え? 

わ、私?

私は……そうだな──」


 一度言葉を切り、視線を少し上に向ける。


「確かあそこには美味しいパンケーキが食べられるカフェがあって──」

「パンケーキですね。

マスターもパンケーキが好きです。

”二人”は気が合いますね。」


 淡々とした声で告げられるリリスの言葉。

空気がわずかに揺れたのを、悠人は感じ取る。


「おいやめろリリス。

まだそうやって──」


「私も好きだぞパンケーキ。

私と悠人の相性はどうなんだポンコツAI。」


 横から零華が口を挟む。

 声音は軽く、冗談めかしているようにも聞こえるが、その裏にある挑発は隠しきれていない。

 口元には余裕のある笑みが浮かび、現状を楽しんでいるようにも見える。

 その視線は、リリスを正面から捉えていた。

 悠人は思わず頭を抱えそうになる。

 この流れは良くない。そう直感していた。


「零華さんの口の悪さは、まさに負けヒロインにピッタリです。

いい感じにフェードアウトすることをお勧めします。」


 間髪入れずに返される言葉。

 相変わらず容赦がなく、感情の抑揚もない。

 だが、その内容は明確に相手を刺激するものだった。

 周囲の通行人が、何事かと視線を向けるのが分かる。

 空気が一気にきな臭くなる。


「うわああっ! 

やめろやめろ! 

神崎もすぐに刀に手をかけないでくれ!」


 悠人は両手を振って制止する。

 零華の手が、反射的に腰の刀へ向かいかけているのを見て、背筋に冷たいものが走った。


「仲良く、仲良く──なっ? 

そ、そうだ。

良かったら昼食を済ませた後、ここの中にあるボウリングにでも行くか! 

あはは。」


 話題を無理やり変えようとする悠人の声は、少し裏返っていた。

 自分でも分かるほど、不自然な高さ。

 喉の奥が引きつり、意識とは裏腹に声帯だけが先走ったような感覚を覚える。


「ボウリング、いいですね、マスター。

幼い頃、茜さんと共にそこで遊んでいたとのデータが残っています。」


 リリスの声は相変わらず一定で、感情の揺らぎを感じさせない。

 だが、その内容は場の空気を読むという概念を根こそぎ無視していた。

 何気ない思い出話の提示──

ただそれだけのはずが、今は爆弾の導火線に火を点ける行為に等しい。


「チッ」


 零華の苛立ちは隠す気もなく、その音には明確な不快感が込められていた。

 歩調が一瞬だけ速くなり、靴底が舗装路を強く叩く。


「……もうやだ」


 茜の呟きは小さく、力がない。

 疲労と居心地の悪さが混ざり合ったような声音で、逃げ場を探すように視線が泳ぐ。

 頭を抱えたい衝動を必死で抑えながら、それでも歩みは止めなかった。

 足を止めた瞬間、空気がさらに悪化することは目に見えている。

無理にでも前へ進むしかなかった。

 ショッピングモールの入口が近づくにつれ、人の流れがわずかに多くなり、周囲の音が大きくなる。


 自動ドアの向こうから漏れ聞こえる店内放送、食事処から漂う匂い、笑い声。

 そうした日常の要素が、ダンジョン帰りの緊張と奇妙に混ざり合っていた。


 重要なのは“心”。

 そう悠人は、自分に言い聞かせる。


 リリスと向き合うと決めたばかりだ。

逃げるわけにはいかない。

 ここで話題を誤魔化してやり過ごせば、同じことを何度も繰り返すだけになる。

分かっている。

理解している。

 それでも、現実は思考通りには進まない。


「──作戦名を宣言します」


淡い決意は、扉をくぐった瞬間に粉々に砕かれた。

 今は人が少ない広場で、リリスが唐突にそう告げた。

 そこは吹き抜け構造の中央広場。

 天井から差し込む自然光が床に反射し、休日の賑わいを象徴するような場所だった。

子どもはまばらに走り回り、大人たちが遠くで買い物袋を下げて談笑している。

ショッピングモールの中心で放たれた一言は、あまりにも場違いだった。


 その一言だけで、悠人の背筋に嫌な予感が走る。

 皮膚の内側を冷たいものが這い上がるような感覚。

過去の経験が、これは止めなければならない兆候だと警告していた。


「ちょ、待てリリス。

今は人前──」


 制止の言葉は途中で遮られる。


「問題ありません。

目標達成確率を最大化するには、公開性が有効です。」


 淡々と告げられる理屈。

 論理だけを切り取れば、確かに一理あるのかもしれない。

だが、その“目標”が何であるのかを考えた瞬間、悠人の思考は意図的にブレーキをかけた。

直視したくない。


 次の瞬間、地面が低く唸りを上げた。


 足元から伝わる微細な振動。

 最初は錯覚かと思うほど小さな揺れだったが、すぐにそれが現実だと理解する。

 石畳が不自然に盛り上がり、表面に走る光が魔力特有の輝きを帯びた。

亀裂のような光の線が、蜘蛛の巣状に広がっていく。


 周囲の人々が異変に気づくまで、時間はかからなかった。

 悲鳴が上がり、誰かが転び、混乱が連鎖的に広がる。

平穏だった空間が、一瞬で非日常へと塗り替えられていった。


「茜!

とりあえず付近の人を魔法で吹き飛ばして遠ざけてくれ!

──ぐっ!? 

あぁっ──……」


 悠人は激しい頭痛に襲われ、思わず膝をつきそうになる。

 頭の奥を無理やりこじ開けられるような感覚。

意識の深い部分に直接触れられ、強引に引きずり出される。

生成スキルが、意思とは無関係に起動していた。


 リリスの指示が、言語を介さずに流れ込んでくる。

 命令ではない。

だが、拒否もできない。

身体を媒介として魔力が暴走的に形を成し、制御権が奪われていくのが分かる。


 通行人の叫び声が響く中、巨大な影が地面からせり上がる。


 石と石が擦れ合う重苦しい音。

人の背丈をはるかに超える巨体。街の景色を塗り替える異物。

 圧倒的な存在感が、広場を支配する。

 視界に収まりきらないほどの質量が、日常の象徴であるショッピングモールの中央に鎮座していた。


「対ライバル排除用・巨大ゴーレム、起動完了」

「完了じゃない!!」


 悠人の叫びは、警報音や悲鳴にかき消されそうになる。

 喉が張り裂けるほどの声を出しても、状況は止まらない。

ゴーレムはのしのしと動き出し、その視線が明確な対象を捉える。

動きは鈍重だが、確実で、逃げ場を計算しているかのようだった。


「目標:零華さん、茜さん。

マスターとの恋愛競合状態を解消します」

「えぇ!?」

「ちょっと待ちなさい!!」


 二人の声が重なり、混乱は頂点に達する。

 館内放送が切り替わり、非常事態を告げる警報が鳴り響く。


 完全に大事件だった。


(まずい、このままじゃ――)


 歯を食いしばる。

 自分の未熟さが、街ごと巻き込む形で露呈していた。

その現実が、胸を強く締めつける。

 感情を理解したつもりでいた。

その結果がこれだ。

 だが、その瞬間、ふと足が止まった。


(いや……

これは、チャンスかもしれない)


 逃げ場はない。

誤魔化しもきかない。

 すべてが露わになり、取り繕う余地すらない状況。

だからこそ、ここで向き合わなければ、何も変わらない。


 悠人は深く息を吸い込み、二人に向き直った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ