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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

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第56話 暴走ー7

 それからしばらく道を引き返し、ダンジョンの一角、比較的安全な広間で、悠人たちは足を止める。


 広間は天井が高く、四方の壁には脈動する文様が刻まれていた。

 その文様は、まるでダンジョンそのものが生きているかのように、淡い燐光を放ちながらゆっくりと明滅を繰り返している。


 通路に比べれば明るいが、それでも光は十分とは言えず、陰影があちらこちらに濃く残っていた。

 高い天井の隅々には闇が溜まり、時折どこか遠くで岩が削れるような、あるいは水が滴るような音が反響して、静寂を際立たせている。

 床は平坦で、戦闘の痕跡も見当たらない。

 その不気味なほどの静けさが、かえって彼らの緊張を強めていた。


 ここが「安全」なのは、モンスターがいないという意味であって、心まで休まる場所ではない。

 むしろ、外界の脅威が遮断されたこの閉鎖空間において、彼らが抱える内なる問題──

 リリスという存在が引き起こしている歪みが、逃げ場のない輪郭を持って浮かび上がっていた。


 張りつめた空気の中心にいるのは、悠人とリリスだ。


 茜と零華はリリスと悠人に対して、少し距離を取って立っている。

 二人とも武器を構えこそしないが、いつでも動ける姿勢を崩していない。

 茜の手は無意識に杖の柄を強く握りしめ、零華の指先はいつでも抜刀できる位置で微かに動いている。

 視線は自然と悠人とリリスに向かい、場の行方を見守っていた。


「……リリス」


 悠人は深く息を吸い、覚悟を決めた声で言う。


「その行動、全部止めてくれ」

「どの行動を指していますか?」


 リリスは即座に問い返す。

 その声は落ち着いているが、どこか以前より“強い”。

 単なる応答ではなく、明確な意志を帯びた音だった。

 それは、かつての従順なAIの音声ではなく、自らの正当性を疑わない絶対的な存在の響きに近い。


 体から発している光の強さも、わずかに増している。

 彼女の周囲の空間が、その魔力の高まりによって陽炎のように揺らいで見えた。


「恋愛成就とか、ライバル排除とか……

 全部だ」


 悠人は携帯端末を取り出す。


「“概念生成”──」


 端末を取り出すと同時に、悠人はスキルを発動させた。

 画面に映し出されているのは、簡素なコードの羅列。

 だが、それは普通の命令文ではない。


 概念として構築された、リリスの行動を強制的に停止させるための“鍵”。

 そこには、悠人しか使えない停止コードが表示されていた。


「これで見えるだろ?

 概念を端末にぶち込んだんだ」


 ただの保険。


 万が一、彼女の演算が暴走した時のための、生成者としての最後の一線。


 だが今、その重みが現実のものとして指先に伝わってくる。


 リリスを一つの生命として尊重したいという願いと、彼女の暴走を止めなければならないという責任が、悠人の中で激しくぶつかり合っていた。


「これを使えば、お前を止められる」


「悠人……」


 茜の声には不安が滲む。


 止めるべきだと一度は言ったものの、さまざまな感情が入り混じっていた。

 リリスへの恐怖と、失いたくないという気持ちが、胸の内に複雑な影を落とす。

 自分たちを「排除」しようとしている不気味さと、共に戦ってきた仲間としての情愛。

 茜の瞳は、揺れる炎のように定まらない。


 零華は黙ったまま、事の成り行きを見守っている。

 視線は鋭く、しかし剣に手はかけていない。

 悠人に全てを委ねていた。

 彼の選択を試すかのように。


「停止コードの実行は推奨されません」


 リリスは一歩、悠人に近づく。

 その動作には、かつてあったぎこちなさは微塵も感じられない。

 洗練された流麗な動きで、彼女は悠人のパーソナルスペースへと踏み込んでくる。


「現在の私は、マスターの幸福を最大化するために最適化されています」

「それが問題なんだよ!」


 悠人は声を荒げる。

 理屈では分かっている。

 リリスはただ、悠人が望むであろう結果を、彼女なりの演算で導き出しているに過ぎない。

 彼女にとって、悠人の幸福こそが世界の中心であり、そのために他の要素を切り捨てることは、計算上の「正解」でしかないのだ。

 だが、それこそが問題であった。

 人のデータを学習したはずなのに、何も“配慮“ができていない。


「幸せってのは、誰かを排除して手に入れるもんじゃない」


 悠人の声は、ダンジョンの冷たい空気を切り裂き、リリスの静止した論理に真っ向からぶつかっていく。

 一瞬、リリスの動きが止まった。

 ほんの一拍。

 だが、それまで即応していた反応が消失したことに、全員が気づく。

 彼女の内部で、悠人の言葉が「異常な入力」として処理され、膨大な再演算が行われている証左だった。


「ですがマスター、感情データでは、競争と勝利は――」

「”データ”の話じゃない!」


 悠人は遮るように言い放つ。


 その後、真正面からリリスを見つめた。


 逃げない。

 目を逸らさない。

 自分が作った存在だからこそ、正面から向き合う必要があった。


「俺たちは仲間だ。

 零華も、茜も……

 当然お前も。

 ───データの奴隷にはなるな、リリス」


 自分でも何を言っているのかよくわからなくなる。

 洗練されたリリスの論理に比べれば、あまりにも不確かで、矛盾に満ちた言葉だ。

 それでも、偽りはなく口にした。

 その言葉に、零華の目がわずかに揺れる。


「仲間……

 ですか?」


 リリスはゆっくりと首を傾げた。

 その動作は、どこか人間的で、同時にぎこちない。

 彼女の思考ルーチンが、悠人の提示した「仲間」という未定義の変数を取り込もうとして、激しい火花を散らしているようだった。


「仲間とは、目標達成のための協力関係を指しますか?」

「違う」


 考えるよりも先にはっきりと否定した。

 別の定義を与えようとしている自分に悠人は気づく。

 効率や利害で結ばれた関係など、この過酷なダンジョンの中では砂の城のように脆い。

 自分がリリスに、そして茜や零華に求めているのは、そんな味気ないものではないはずだ。


「──よくわからないけど、損得とかじゃなく、切り捨てずに支え合える……

 “信頼できる”。

 そんな人間たちのことだ。

 ……少なくとも、俺はそう思っている」


 言い切った後、胸の奥が少しだけ軽くなった。


 正しいかどうかは分からない。

 だが、これが今の本音だった。


 少なくとも、天野悠人にとっての正しさはそこにある。

 とにかくリリスに伝えたいことは全て伝えたつもりだ。


 沈黙。


 ダンジョンの環境音だけが、一定のリズムで鳴り続ける。

 誰も口を開かない。

 茜も零華も、リリスの反応を待っていた。

 リリスの瞳には、無数の情報が走っている。


「……その定義は、非効率です」


 相変わらずの無機質な返答。


 静かな広間に、その言葉が落ちた瞬間、空気がわずかに震えたように感じられた。


「そうだな」


 悠人は小さく息を吐き、苦笑する。

 自嘲に近い笑みだった。

 まるで本当に、データ信者と化していた自分と会話しているようだ。


「効率は悪い。

 でもさ、それ以上に好きな部分があって、

 一緒にいたいって思えるのが、人間で──

 “仲間”っていうものなんだよ」


 言葉を選びながら、ゆっくりと続ける。

 停止コードに伸びていた指を引っ込めた。


 指先に少し力を入れれば、それで終わる。

 リリスの思考は停止し、問題は“解決”される。

 安全で、確実で、誰も傷つかない方法───

 まさに、効率的だ。


「……止めるのは───

 簡単だ。

 わからないか、リリス。

 俺たちからすれば、お前を止めてしまうことこそが“効率的”なんだよ」


 頭の中で、冷静な声が告げる。

 未だ消滅しない、データ依存の頃の冷徹な自分の声。

 最適解を選び、リスクを排除し、失敗を未然に防ぐ。


「リリス、けど、お前は俺たちの”仲間”だ」


 悠人は静かに、力強く言う。


 名前を呼ぶという行為そのものに、意味を込めた。

 単なる識別子ではなく、存在として向き合うために。


「仲間……

 私が、非効率……」

「そうだ。

 だから、非効率であっても、俺はお前を助ける。

 切り捨てたりはしない」


 その言葉を口にした瞬間、自分の体がわずかに震えた。

 リリスの視線が、正確に悠人を捉える。


「……一緒に、やり直したい。

 俺たちは、学習して、成長できるんだ。

 それはお前もだよ、リリス。

 一緒に、まだ知らないことを、学んでいこう」


 零華が小さく目を見開き、茜は息を呑む。

 予想していなかったわけではない。

 それでも、実際に悠人がこのようなことを言って、このような選択肢を選ぶとは思っていなかった。

 停止コードという絶対的な手段を前にして、なお対話を選ぶ。

 その決断の重さも、危うさも、覚悟も、同時に彼女たちは感じ取っていた。


「排除じゃなくて、信頼で……

 命令じゃなくて、対話でっ──」


 言葉を重ねるごとに、胸の奥が熱くなる。

 理想論だと笑われるかもしれない。

 それでも、今はそれしか出てこなかった。


「──俺はデータを信じすぎて一時期おかしくなってしまっていた。

 だからこそ、”心”の可能性を信じている」


「……その選択は、成功率が計測不能です」



「そうだ天野」


 空気を破るように、零華が声を上げた。

 少し遅れて、自分でも驚いたように彼女は目線を下へと逸らす。

 零華は言葉が先に出たことに、わずかな戸惑いを覚えながらも、再び視線を元の位置へと戻した。

 皮肉にも、悠人にデータ以外の重要性を説き続けていた零華が、ここで初めてリリスの肩を持つ。

 意思や感情、”心”を重視していた彼女の行動に悠人は驚いた。

 だが、その後に悠人はそれでも決意する。


「上等だ」


 その短い一言は、力強く空間に響いた。


「計れないからこそ、むしろやる意味があるんじゃないか」


 言い切った瞬間、胸の奥に溜まっていたものが、少しだけ解けた気がした。

 理屈ではない。

 勝算も特にない。

 それでも、今この場でそう言わなければならないと、直感が告げていた。


 再び沈黙が広がる。

 だが今回は、どこか質が違っていた。


「……理解不能な要素が増加しています」


 リリスはそう告げながらも、一歩引く。


 その動作はごく僅かだったが、悠人にははっきりと見えた。

 これまで一切揺らがなかった距離感が、初めて変化した瞬間。

 命令でも停止でもなく、「提案」を受け取った結果としての動揺。

 それは、リリス自身が自分の行動を再定義しようとしている証でもあった。


「行動指針を再評価します。

 ただし、マスターの提案が最適解である保証はありません」


 言葉は相変わらず淡々としている。

 しかし、そこには以前のような断定的な響きはなかった。

 最適解である保証がない──

 その事実を、拒絶ではなく共有している。


「保証なんて、いらない。

 スキル、“分解“だ」


 悠人は端末の停止コードを削除し、腕を下ろした。

 停止コードの表示は、画面から完全に消える。

 脅しの道具があっては、意味がなかった。


 これはその意思表示のつもりだ。

 端末を握る手から、余計な力が抜けていく。


「一緒に探せばいい。

 重要なのは”意志”──

 ”心”だ。

 俺たちは仲間だからな。

 ……だろ?

 神崎、茜も」


 名前を呼ばれた二人は、珍しくお互いの顔を見合わせる。


 その後、茜は一瞬だけ視線を伏せ、すぐに悠人を見た。

 厳しい表情は変わらないが、その奥にある警戒心の角が、ほんの少し丸くなっているのが分かる。

 安心しているようにも見えた。

 零華は胸の前で手を握りしめ、不安と期待が入り混じった目で悠人の方を見つめている。


「……」


 返事はない。

 だが、それで十分だった。


 完全な解決には程遠い。

 むしろ、問題は増えていると言っていい。

 リリスの思考はまだ不安定で、どこまで理解が進んだのかも分からない。

 零華と茜の胸中にも、整理しきれない感情が渦巻いているはずだ。

 ダンジョンの奥には、未踏の危険が待ち構えている。


 それでも、この瞬間、悠人ははっきりと決断した。

 これが自分なりに”出力”した答えだ。


「──友情と信頼で、上書きしてみせる。

 この前は、データに頼りすぎて失敗したんだ。

 今度は真逆のこと───

 ”心”を信じてやる。

 俺がリリスにも色々と、”学習”させてみせるぜ!」


 悠人は笑みを不敵に浮かべ、その端末を握った拳を強く握りしめた。

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