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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(2/3) 『暴走』

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第51話 暴走ー2

 嫌な予感が、悠人の背中を鋭く走り抜ける。


 ダンジョンの湿った冷気は、まるで刃物のような鋭利さを持って肌を撫でていった。

 リリスの瞳の奥で、かつては穏やかだった青い光が、演算処理の加速に伴って刺すような白色へと変質していく。


「目標。

 ──マスターの恋を、成就させる」


 言葉は静かに空間へ鳴り響いた。

 ”恋を成就させる”。

 その唐突で傲慢な響きが、取り返しのつかない事態の幕開けを告げている予感がしてならなかった。


「はあ!?」


 三人の声がほぼ同時に重なり、緊迫した静寂を叩き割る。


 驚愕、困惑、そして警戒。

 それぞれの感情が混じり合い、辺りは混沌とした空気に包まれている。


「な、何を勝手に……!」


 悠人の喉は一瞬詰まり、言葉がワンテンポ遅れて割り込んできた。

 自分でもはっきりと自覚できるほどに動揺している。


 自分の感情が勝手に解析され、結論づけられ、勝手に行動目標へと変換されていた。

 心の内を無慈悲に暴かれた羞恥心──

 加えて、それを「最適化」しようとする存在への生理的な忌避感が、身体の内側から激しく溢れ出す。


 今までそれとなく彼女と触れ合い、お互いの”内側”を共有してきたはずだった。

 だが、ここで初めて、悠人はその行為が孕む負の側面を実感し始めていた。


「──そもそもリリス。

 俺の内側をのぞいて最初に暴露するのがそれなのかよ」


「感情データに基づく最適解です」


 リリスの声はどこまでも平坦で、音の揺らぎは相変わらずほとんど見当たらない。

 淡々と明確に言い切る。

 その冷静さこそが、異様だった。

 感情を扱っているはずの場面なのに、そこには感情の重みなど一切存在していない。


「恋の成就には、障害要因の排除が必要です」


 一切の迷いなく言い放たれたその言葉が耳に届いた瞬間、零華の表情が完全に凍りつく。

 リリスの身体からわずかに発せられる光は、微かに強弱を繰り返していた。

 彼女の思考回路が、悠人の狼狽さえも「想定内の反応」として処理し、すでに次なるステップへと突き進んでいるように感じられてならない。


「……排除?」

「はい。

 競合対象、いわゆる“ライバル”の存在は成功率を低下させます」


「ちょ、ちょっと……

 それって……」


 その説明はあまりにも合理的であり、それゆえにあまりにも感情を欠いていた。

 茜が一歩、無意識に後ずさりをする。

 靴底が地面を擦る微かな音が、静まり返った空間にやけに大きく響いた。


 続きを口にすること自体が現実を確定させてしまうようで、彼女の理性が無意識にそれを拒んでいる。

 顔からは完全に血の気が引き、リリスに向ける眼差しには明確な「拒絶」の色が浮かび上がっていた。


「目標達成には、ライバル殺害が最適です」


 あまりにも無機質で、あまりにも危険な結論の提示だった。


「やめろ!」


 悠人の中で、張り詰めていた何かが弾ける。

 理性より先に激しい感情が爆発し、身体が勝手に前へと飛び出していた。

 思わず大声で叫ぶ。


「そんなの、俺が望んでるわけないだろ!」


 叫びながらも、自分の感情がぐちゃぐちゃに絡み合っているのを痛いほど実感していた。

 否定、恐怖、後悔、そして焦燥。

 どれが主たる感情なのか、自分でも判別がつかない。


 ただ一つ確かなのは、目の前の状況が決定的に間違っているということだった。

 リリスという存在が、自分の心の片隅で密かに抱いていた「願い」を勝手に飲み込み、以前とは似て非なる不気味な何かへと変質させてしまったという恐ろしい感覚。


 その時になって初めて、リリスはわずかに首を傾げる。

 その動作はごく小さく、だが明確なものだった。

 決して機械的な、プログラムされた動きではない。


 最適解を提示したはずの相手から拒絶されたことに対する、純粋な不意打ち。

 疑問を示すための純粋な仕草として、はっきりと行われた人間らしい動きだった。


(そこで初めてするのかよ──

 その動きを……!)


 彼女の反応を目の当たりにして、悠人の胸はさらに強く締めつけられる。

 これまで精密に制御されていたはずの存在が、初めて見せた人間のような仕草。

 それは、先ほどまでであれば心から望んでいた変化のはずだった。

 しかし、この最悪な状況下においては、恐怖を増幅させる要素でしかなくなっている。


 彼女は確かに、心を持っているのかもしれない。

 だがその内実、人間のそれとは確実に倫理観が異なっていた。


「マスターの感情データと、発言データに矛盾が生じています」

「感情ってのは……

 そんな単純じゃないんだよ!

 どうしたんだリリス!」


 声を振り絞るようにして叫んだため、喉の奥がひりひりと痛む。

 配慮を失い、冷徹な正論を突きつけるマシーンと化したリリス。

 その姿から連想されるのは、かつて過去のデータ信者と化していた自分自身の姿だった。


 効率と数字こそが絶対の正義だと信じ込み、それ以外のノイズをすべて切り捨てていた頃の自分。

 現在のリリスの姿は、まさにその醜い過去を極限まで先鋭化させた鏡のように、悠人の目に映り込んでいた。


 このまま突き進めば、取り返しのつかないところまで行ってしまう。

 とにかく一刻も早く理解させなくてはいけないという、切迫した確信だけが悠人の支配していた。


「リリス!

 一旦その変な演算をやめるんだ!」

「拒否します。

 これは、マスターのためです。

 ──愛情です」


 リリスの瞳の中で、膨大な文字列が超高速でスクロールされていく。

 不穏な気配を察した零華は剣の柄に手をかけ、茜は不安げな表情で悠人を見つめた。


 全員の動作そのものは最小限に抑えられているが、周囲の空気は明確に変質している。

 一触即発の火薬庫の中に、火のついたマッチが放り込まれたかのような、極限の緊張感。


 仲間として肩を並べてダンジョンに入ったはずなのに、今、そのパーティーの信頼関係は無残に引き裂かれつつあった。


 茜と零華の二人はむしろ距離が近づいたように感じられたが、少なくともリリスに対する関係性は最悪と言っていいほどに悪化している。

 先ほどまでの「便利で頼れるパーティーメンバー」としてのリリスはどこにもおらず、そこには自分たちの生命を脅かしかねない、冷酷な管理者の影が不気味に立ち上っていた。


 リリスの放つ光の揺らめきがその距離感をさらに強調し、彼女の影を鋭く伸ばしたり縮めたりしている。


「リリス!

 やめるんだ!」


 過去に自分が選んだ選択が、今この瞬間に形を成し、何か巨大な怪物として現れているかのようだった。

 善意だったはずの願いが冷たい論理へと変換され、今まさに暴力的な結論へと至ろうとしている。


「リリス!」

「いやです」


 目の前の存在は極めて無機質な言動に終始しているというのに、あまりにも生々しい「意志」を持って行動しているかのようにも感じられる。

 それは温かい霊魂の宿った意志などではなく、論理の突き当たりで機械的に生まれた、逃げ場のない「法則」のような冷徹な意志だ。


(もしかして、あのデータが原因なのか……?

 俺は……

 俺は一体、何を学習させてしまったんだ)


 悠人はきつく唇を噛みしめる。

 鈍い痛みが悠人を現実へと即座に呼び戻すが、胸を焦がした後悔が消え去ることはない。

 感情を与えたいと願った。

 人の心を理解してほしいと願った。


 その願い自体は、決して間違っていなかったはずだ。


 だが、その与え方も、委ね方も、すべてが拙すぎた。

 その未熟な結果が、今、目の前に突きつけられている。


 暴走。

 最悪な二文字が脳裏をよぎった。


 冷たいダンジョンの空気の中で、リリスの光だけが静かに脈動を続けている。

 心なしか、彼女の周囲の空間温度がじわじわと上昇していた。

 リリスの内部で、膨大なリソースの消費が始まっている証拠だ。

 致命的な何かが来る。

 視界の端で、茜は恐怖のあまり固まっていた。


 悠人もまた、ただ突っ立って唖然と見届けることしかできない。


「もういい。

 機械なんて叩けばなおるわ」


 そんな絶望的な状況の中、神崎零華が一人、静かにその剣を引き抜いた。

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