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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(1/3) 『起動』

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第39話 REAL・GENERATOR

 その病院の一室は、柔らかな日差しに満たされていた。


 窓辺から差し込む光は、午前と午後の境目を曖昧にするほど淡い色合いで、白壁に静かな影を落としている。

 医療機器の作動音は最小限に抑えられ、規則正しい電子音だけが、この空間の現実味をそっと主張していた。

 かつて耳を満たしていたのは、金属のぶつかる音や、魔力が爆ぜる轟音──

 そして、死の気配を帯びた沈黙。


 それらと比べれば、この部屋はどこか現実味に欠けるほど、穏やかな空気に包まれている。


 ダンジョンの湿った冷気、あるいは闇に潜む不穏とは無縁の、清潔で暖かな空間だった。

 白いシーツに包まれたベッドの上で、神崎零華は静かに横になっている。

 赤銅色の髪をした少女、早乙女茜の治癒魔法と、天野悠人が後日生成したポーションの複合効果により、どうにか致命傷は免れた。

 しかし、完全な回復を遂げるには、まだ時間が必要だと言われている。


 神崎零華は、天井を見つめながら、ゆっくりと呼吸を整えた。

 肺に空気が満ち、それが吐き出されていく感覚を一つずつ確かめる。

 生きているという事実を、こうして意識的に確認せねばならないほど、あの戦いは深く、重いものだった。

 身体のあちこちに残る鈍い痛みは、失われかけた命の名残であり、同時に生還の証でもある。


 零華はその目を閉じた。


 深淵で交錯した魔力の奔流、肉を切り裂く刃の感触、限界を越えたあの瞬間。

 記憶の空白が、次々と脳裏に蘇ってくる。

 同時にそれらは、白い天井と消毒の匂いによって、柔らかく上書きされていった。

 ここはもう、戦場ではない。

 少なくとも今は、剣を握る必要などどこにもないのだ。


「──神崎。

 入るぜ。」


 不意にかけられた声が、思考を現実へと引き戻す。

 病室の静けさを壊さないよう配慮された、控えめな扉の開閉音。

 その響きと共に、悠人と異質な存在──

 ”リリス”が静かに病室へと入ってくる。


 悠人の体には、まだ疲労が色濃く残っていた。

 だが、その瞳にかつての焦燥や、データ依存の影は見当たらない。


 長い戦いの末、その視線の奥には確かな芯のようなものが宿っていた。

 立ち姿こそ万全とは言えないものの、その背中からは以前の頼りなさが消えている。


「マスター、報告します。

 神崎零華さんは、三日前よりも20%その損傷を回復しています。」


 セピア色の髪を揺らしながら、その”異物”は、室内にある全てを瞬時に解析していく。

 視線が動くたび、目に見えない数値や情報が更新されているかのようだった。

 この異物の存在自体が、現実と概念の狭間に立っている。

 無駄のない動作で一歩前に進み、医療機器の配置や零華の状態を確認する様子は、感情を排した合理性そのものだった。


「リリスについては、早乙女茜から全て聞いている。

 ……お前の”概念の剣”とやらも。

 あのダンジョンであの後起こったこと、全てな。」


 意識を取り戻して報告を受けた直後は、理解するまでに時間を要した。

 理論として把握することと、現実として受け入れることの間には、常に深い溝がある。

 しかし今、目の前に存在する二つの証明が、その溝を否応なく埋めていた。

 本当に、今まで見たことのない未知なる可能性の塊が、目の前で蠢いている。


「……天野悠人」

「──なんだ。」


 悠人は神崎零華の瞳を、逃げることなく真っ直ぐに見つめ、向き合う。

 データに逃げていたあの時の少年は、とうにいなくなっていた。

 零華の口角が、自然と少し上がる。


「──お前のスキルは、もうただのデータ依存の代物ではない。

 私が初めてお前に会った時、お前は私の剣技を模倣するためのデータとしてしか見ていなかった。

 魂のない、偽物の創造だった。

 ……気に食わなかったよ。

 下衆の目をしていたし、実際お前はパンツをラーニングした。」


「わお、それは初耳です。

 マスター、どえっち、ですね♡」

「そ、それは悪かったって。

 リリスも変なこと言うな!

 わざとじゃないんだ。

 そう、言っただろ……?」

「あぁ、分かってる。

 冗談だ、冗談。」

「つまらない冗談ですね、神崎零華さん。」

「リリス!」


「……ふん、いい、ほっとけ。

 ──しかし、つい言ってしまうのがどうにかしてるな。」

「悪かったって!

 ごめん。

 ほら、この通りだ!」


 悠人は手を合わせて頭を下げる。


「マスターは謝る必要なんてありません。

 マスターは最高です。」

「し、リリスは静かにしてろ!」

「……」

「すみませんでした、神崎様!!

 許してください!」

「……ふん。

 とにかく、あのパンツは、安かったから買ったんだ!

 か、勘違いするなよ!!」


 悠人は顔を上げる。

 なぜか彼女の白い肌が、みるみる真っ赤に染まっていくのが見えた。


「──わかってるよ。

 別に、お前の意思で買っていたとしてもバカになんてしないさ。

 ただ、珍しいと思っただけだよ。」


「……しかし、お前は深淵で限界を超えた。」

「え?」


 零華は一呼吸置いた後、表情をいつもの凜としたものに戻す。

 そして、再びぽつりぽつりと語り始めた。


(うわっ急に冷静になるなこの人……)


「私や早乙女茜から、”勝利への執念”を、”命を救う意志”を学び、生成の核とした。

 お前が先の戦いで生成したもの──

 リリスとあの剣は、ネクロスの原理、世界の概念すら超える。

 お前のスキルは……

 ”本物”だ」

「……」


 その言葉は、評価ではなく承認だった。

 A級探索者からの言葉は、何よりも重い。

 悠人が積み重ねてきた失敗、葛藤、恐怖──

 それらすべてが、この一言によって報われたような感覚が胸に広がる。

 零華の視線は揺るがない。

 そこには同情も驕りもなく、ただ事実を事実として認める強さがあった。


「ネクロスからの連絡は、ダンジョンでの一件以来、一度も来ていない。

 機構からは来ているものの、お前のことは把握していないようだ。」

「それはどういう──」


「機構の権力構造は複雑だということだよ。

 とにかく、ご自慢の刺客が無力化されたんだ。

 ”ネクロス一派”の追跡は一時的に遠ざかるだろう。」


 淡々とした報告の裏には、戦況を正確に読み解く冷静な判断があった。

 これらの言葉を聞き、悠人は神崎零華が機構の人間であることを思い出す。

 少し前までは何の関わりもなかった存在と、今では随分親密な関係になってしまったものだ。

 零華の報告を受け、悠人は思わず笑みを浮かべる。

 あの一件で、自分が機構に捕まることはないらしい。


「ただし、忘れないで。

 組織の監視から完全には逃れることはできない。」


「……そうだな。

 ──だが、俺はもう、大半のことは怖くないぜ。

 一人じゃないし!」


 虚勢ではない確信がそこにはあった。

 視線の端で、リリスの存在を感じる。


「──だから、あなたは私の庇護のもとでさらに強くなる必要がある」

「……え?」

「わ、私の連絡先よ!

 これっ、持っておきなさい。

 ……無くしたら斬るから。」


 神崎零華は、胸元からしわくちゃになった一枚の紙切れを取り出し、悠人に押し付けた。

 折り目だらけの紙には、彼女のメールアドレスと思われる文字列がぐにゃぐにゃの字で書かれている。


「わかった。

 ありがとう神崎。

 A級探索者に鍛えてもらえるなんて嬉しいぜ。」

「……」


「マスター、どうやら彼女は嘘をついているようです。

 彼女はただ連絡先を──」

「うるさいわよそこのAI!!

 斬るわよ」

「ちょっ、神崎!?」

「今のあなたには武器がありません。

 切れるものなら切ってみてください。

 純粋に興味があります。」

「はぁっ!?

 ちょっと何このAI!」

「リリス!?

 待てって。

 落ち着けって二人とも!!」


 声が重なり、病室の静けさは一気に崩れ去った。

 神崎零華は体を起こし、ベッドから出てリリスに掴みかかろうとする。

 まだ本調子ではない体に無理がかかるのも構わず、感情のままに動いていた。

 そんな零華を、悠人は慌てて引き留める。


 騒がしくも慌ただしい状況。

 しかしそれは、三人が確実に回復へと向かっている、何よりの証拠でもあった。


「みんな!」


 病室の扉が勢いよく開け放たれる。

 その扉を開けた人間──

 早乙女茜へと、皆の視線が一斉に集まった。

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