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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(1/3) 『起動』

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第37話 概念の剣

 ダンジョンの深層、三つの通路が交差するT字路。


 ここはリリスの解析によれば、刺客たちが最も効率的かつ論理的に追跡を完遂するために、必ず通過するはずの地点だった。


 リリスの小さな身体に支えられながら、その交差点の陰に悠人は身を潜める。

 全身は疲弊しきっており、立っていられること自体が奇跡に近い状態だった。

 それでも意識だけは鮮明で、脳裏にはたった一つの戦略が明確に映し出されている。


「刺客は、この通路を十五秒後に通過します。

 マスター、再確認ですが、”非在の剣”の生成は全コストを消費します。

 失敗は許されません」


 リリスの声は、どこまでも冷静で正確だった。

 体力の限界を疾うに超えた状態。

 悠人は残された微細な魔力を、最後となる生成と、”その先”に向けて集中させていく。


 拳を握る手はわずかに震えていたが、不思議と恐怖は感じていなかった。

 強い意志が恐怖を凌駕しているせいだろうか。

 追い風が吹くように、精神コストが若干の回復を見せていることも確認できた。


(──いけるさ)


「……わかっている。

 リリス、お前の計算を信じるよ」


 悠人の瞳は、データと論理の深淵をじっと覗き込んでいた。




 ◇




「くそ、さっさと終わらせるつもりが、あの女のガキのせいで台無しだ」

「落ち着け、ラーニング・ツー。

 苛立ちという感情は、我らには不要だ」


 予測通り十五秒後、通路の闇から二人の刺客が姿を現した。

 入り組んだ構造に手こずっていたのか、なかなか悠人の元に辿り着けずにいた彼らは、隠しきれない苛立ちを滲ませている。


「黙れ、ラーニング・ワン。

 こんなところに来てまで、ネクロスの『おままごと』に付き合ってられるかよ。

 つーか何だよ、ラーニング・ワンワンって」

「……とにかく、あの小僧の生成スキルは潰したはずだ。

 さっさと生け捕りにして連れ帰るぞ」

「ふん、お前のやり方だといずれ必ずボロが出る。

 普段から自分自身を洗脳しておくよう心がけるんだな」


「黙れと言っている、ラーニング・ツー。

 ……しかし、それにしても随分と奥まで進んだものだ。

 一体あのガキはどこまで逃げた?

 まさか魔物に喰われて──」


「お前こそ落ち着け。

 俺たちに捕まるより、モンスターに食われる方がよっぽど恐ろしいだろう。

 ……いや、いるぞ。

 もうすぐ視界に入るはずだ。

 あそこで縮こまって待っている」


「──俺なら、ここにいるぜ」


 ぬるりと、壁の影から悠人が姿を現した。

 その背後には、セピア色の髪をしたサポートAI、リリスが静かに佇んでいる。

 刺客たちは一瞬、その場に立ち尽くした。


「!?

 なんだ、びっくりさせるな……!

 投降しに来たのか?

 よしよし──」

「おい、背後の幼女。

 貴様は何者だ。

 余計な真似をしたら殺すからな」


 変わっていない。

 刺客たちの瞳には明らかな驕りがあった。

 彼らの瞳に映っているのは、データに依存し、今はもう無力となったはずの少年の姿だ。


「……確かに、物は生成できない」


 悠人は薄く口角を上げた。


「だが──

 ”概念”なら生成できる」

「……は?」


 刺客の表情に一瞬の混乱が走る。

 出任せか、それとも頭がおかしくなったのか。

 その答えを求めるように少年の瞳を覗き込むが、そこに迷いの色は一切ない。

 むしろ自分たちを逃すまいと、鋭く射貫くように見つめている。


 その意志は、もはや全てを超越しているかのようだった。

 刺客たちは思わず後退り、たじろいだ。


「な、何をするつもりだ」

「いくぜ」


 悠人は残された全リソースを解放する。

 リアル生成AIのコアが、リリスの演算結果と三つの概念データを統合し始めていく。


 零華の戦闘データ──。

 刺客の能力データ──。

 そして、リリスの演算。


「リリス、補助を頼む!」

「はい、マスター。

 生成に最適なデータ構成の補助を行います。

 ……構成完了」


 両手を前に突き出し、力強く叫ぶ。


「無駄だ。

 悪あがきはやめろ」

「いい、ラーニング・ツー。

 ネクロスのスキル自体は間違いない。

 このまま魔力を消費して勝手に自滅するのを待とう」


「生成──”

 概念の剣”!」


 瞬間、悠人の手の中に現れたものは、従来の生成物とは全く異質な存在だった。


「……?

 なんだ。

 ──生成に成功した……のか……!?」


 半透明の刃は物質的な形状を持たず、周囲の光を不自然に歪めている。

 輪郭こそかすかに見えるものの、それを構成する物質はどこにも存在しない。

 見る者の知覚も、魔力の観測も、これを「存在しないもの」として認識している。


 矛盾に満ちた”概念”の具現化がそこにあった。


「お、おい、なんかヤバいぞ!」

「分かっている!

 アンチ・クリエイト再発動ッ!

 消えろッ!」


 周囲の空間が歪み、破壊の波紋が刃に向かって放たれた。

 本来なら、これで生成物は崩壊を開始するはずだった。

 しかし──

 何も起こらない。


 何も起こらなかった。

 刃はただ静かに、そこに存在し続けている。

 目には見えないはずなのに、圧倒的な存在感だけを放ち、周囲にその在処を知覚させていた。


「なんだ……。

 なんなんだ、これは──」


「あなたたちのアンチ・クリエイトは、この刃を認識できません。

 物質ではないため、そもそも破壊の対象として成立しないのです。

 この刃は、マスターの意志と、破壊を回避する論理の穴によって構成されています。

 ……まさに、学習の成果。

 ふふ、マスターは最強です。」


 リリスは自慢げに笑う。


「が、概念……?

 何を言って……

 そんな変なもの、生成できるわけが──」


 刺客たちの顔から血の気が引いていく。

 論理と絶対を自認していた能力が、目の前の非物質的な概念の刃によって、完全に覆されていた。


 わけがわからない。

 ネクロスから授かった力なのだ。

 不測の事態などあり得ない、あってはならないはずなのだ。


「──いくぜ」


 悠人はその刃を静かに構えた。


「ひっ──」


 一歩、また一歩。

 よろつきながらも、確かに足を踏み出して近づいていく。

 目的は肉体を斬ることではない。

 狙いはもっと深淵にあるもの──

 敵の戦闘意欲そのものだ。

 論理の核を揺さぶることにこそ、その真髄があった。


「逃げんなよ。

 お前たちの獲物はここにいるぞ……」

「ちょ、ちょっと待てっ」


 論理で支配される存在が、非論理の武器によって激しく揺さぶられていた。

 全ての理論と前提が崩壊してしまっている。空間に漂う不可視の刃が、彼らの思考を完全に縛り付けていた。


 悠人の心臓は早鐘のように脈打ち、体中の血が燃えるように熱い。


 コストはとうに使い果たしている。

 だが、意志と概念の結合は、限界を超えた力を生み出していた。

 再び、精神コストがわずかに回復していくのを感じる。


「リリス、攻撃を開始する。

 補助を頼む」

「了解しました、マスター。

 ……計算完了。

 彼らの核はちょうどそこ、七十五度の角度で剣を振るうと、綺麗に削ぐことができます」


 拳を握りしめ、意識を一点に集中させた。

 手の中の「非在の剣」は、存在しないものとしてそこにある。


 だがその力は、目に見える全てを超越していた。

 刺客たちの心と、その拠り所である理論を切り裂く力を秘めて。


「な、何をするつもりだっ……!」

「来るなッ!」


 刺客たちは必死に刃物を構える。

 目の前の少年は、相変わらずゆっくりと歩いてくる。

 突けばすぐにでも倒れそうなほど弱りきっている。


 それでも、彼らの本能が、精神が──

 ”心”が、最大級の警告を鳴らし続けていた。


 通路に静寂が訪れる。

 響くのは、少年の覚悟に満ちた足音と、そこにいる者たちの荒い呼吸音のみ。


 悠人は心の奥底で確信していた。

 この刃こそが、これまでのデータ依存を脱却し、己の意志と”学習したもの”を武器に変えた、真の生成物なのだと。


「見せてやるよ、”本物”をっ──」

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