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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(1/3) 『起動』

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第35話 他力生成ー3

「っ──ぅおおおおおおおおおおおぉっっ!」


 ボスモンスターの口が開き、跳躍した悠人めがけて、その舌を高速で伸ばしてくる。

 舌はゴツゴツとヤスリのような質感を備えていた。

 それにかすっただけでも、肉片となってしまう光景が容易に想像できる。


「っおッ──」


 悠人は必死に体を捩り、その攻撃を回避した。

 そのままボスモンスターの顔へ飛び乗る。


「掴んだッ」


 ボスモンスターの顔に触れたまま、叫び声を上げた。


「こいつを物理コストにして生成っ!!」


 《エラー:今のあなたのレベルでは不可能です》


「くそ、だよなっ──」


 ボスモンスターそのものを物理コストとして使用しようと試みたものの、その淡い希望は打ち砕かれる。

 流石にそこまでのチート能力を今の自分は有していない。


「なら、本来のプランだっ!」


 ボスモンスターは巨大だ。

 一部だけでもその肉体を回収できれば、物理コストとしては優秀なものになる。


「その肉、もらっていくぜぇッ!!」


 悠人はボスモンスターの片目に狙いを定め、その両手を勢いよく目玉の奥へ両脇から突っ込んだ。


「グッ──

 ギャァァアアア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッ”ッ”!」


 モンスターが悲鳴を上げ、頭部を振り回すと、それによって逆に悠人の体の動きに勢いがつく。

 モンスターの巨大な片目を、そのまま遠心力に任せつつ引き抜いた。

 ブチリと不快な音を立て、悠人は地面へ投げ出される。


 その両腕でようやく抱えることができるほどの、巨大な目玉を手に入れた。


「撤収ッ」


 そのままボスフロアの入り口を目指し、悠人は駆ける。

 フロアを出ると、急いで全身を使って体当たりするように扉を閉じた。


 ボスモンスターが舌を伸ばし攻撃を試みたようだが、ギリギリのところで扉を閉め切り、これを防ぐことに成功する。

 背中にはゴツンと、扉越しに鈍い衝撃が走った。


「はぁ、はぁ……

 やった……

 やったぞっ──

 ”物理コスト”を手に入れたぞっ。」


 荒い吐息をつき、返り血で血まみれになりながら、笑顔でその抱えている肉片を見つめた。


「これ全部を……

 コストに使う」


 時間はない。

 悠人は、早速自身のスキルの核心に意識を沈めていった。

 いつもなら、生成する対象の設計図を思い描くところだ。

 だが、今回は違う。

 設計図ではなく、命令そのものを叩きつけた。


「聞いてくれ、リアル生成AI」


 声は震えていなかった。


「俺に必要なのは、完璧な物じゃない。

 俺の知識を補い、意志を支え、人間のように概念を理解できる存在だ」


 脳内で、警告音が鳴り始める。

 ”自分”をコストにして生成する、あの感覚──。

 意識の中で、無数の情報が引きずり出されていく。

 現代社会で学んだ人工知能の理論、思考モデル、推論アルゴリズム。

 世界を情報として捉えるための知識のすべてが、基盤として組み上げられていく。

 そこに、別の層が重なった。

 神崎零華の剣。

 彼女が幾度となく死線を越え、積み上げてきた覚悟。


 勝利への執念。

 決して折れない意志。

 目的を見失わない思考の強度。


 それは単なる戦闘データではない。

 どんな状況でも判断を止めない、揺るぎない軸だった。

 さらに、もう一つ。

 早乙女茜の、あの瞬間。

 命を救いたいと願った、純粋な感情。理屈も損得も超えた、ただ一つの想い。

 その感情が生み出した、制御不能なほどの魔力の波。

 論理では説明できない、創造の原動力。


「これも……必要だ」


 最も不安定で、最も重要な要素。

 解析しきれないからこそ、破壊されない可能性。


 そして最後に、悠人は自分自身を差し出した。


 これまでのすべての失敗。

 知識不足で壊れた生成物。

 過信して踏み外した判断。

 何度も突きつけられた限界。


 何より、この生成スキルの持つ”知能”。

 このスキルは悠人と会話のようなものができる。

 その機能が必要だった。


 最後に、物理コストの足しとして、茜のパンツと、生成したミミズモドキ。


「生成──」


 はっきりと告げた。


「” 究極のサポートAI”。

 名前は……

 任せる。」


 瞬間、身体の奥から何かが引き剥がされる感覚が走った。

 魔力だけではない。

 生命力そのものが、スキルへと吸い上げられていく。


「っ──」


 視界が白く染まり、耳鳴りが響いた。

 警告が次々と流れ込んでくる。


 既存の法則を超えていること。

 すべてのリソースが消費されること。

 この生成が、生成者自身の在り方を変えてしまう可能性。


「……構わない」


 悠人は歯を食いしばる。

 しかし鼻からは血が垂れてきていた。


「ここで終わるくらいなら、全部持っていけっ」


 意識の底から、肯定の意思を叩き込んだ。

 次の瞬間、通路を貫くように、銀色の光が噴き上がる。

 それは、これまで見てきた生成の光とはまったく違う。

 熱も、質量も感じない。


 ただ、圧倒的な情報密度だけが、空間を支配していた。

 壁が震え、空気が歪む。

 悠人の身体は、急速に力を失っていった。


 立っていることすら難しくなり、膝から崩れ落ちる。

 それでも、目を離せなかった。

 光の中心で、何かが形を持ち始めている。

 知性と優しさ、強さと迷い。

 複数の概念が、ひとつの存在へと収束していった。

 そのとき、通路の奥から声が響く。


「……何だ、この反応は」

「あっちだ!

 急ぐぞ!」


 刺客たちの気配が、急速に近づいてきていた。

 彼らも異変を察知しているようだ。

 だが、もう止められない。

 悠人の意識は、ほとんど闇に沈みかけていた。

 それでも、最後に一つの情報が、はっきりと流れ込んでくる。


 生成が、完了したこと。

 新たな知性が、起動を始めたこと。


 光が、ゆっくりと収束していく。

 悠人は、薄れゆく視界の中で、その存在を見つめた。


「……頼むぞ」


 それは祈りではなく、託す言葉だった。



 ◇



 通路を埋め尽くしていた銀色の光が、ゆっくりと収束していく。


 激しい魔力の残響が冷たい空気を震わせ、悠人はその中で、壁にもたれかかるようにしてかろうじて意識を保っていた。

 全身の魔力と生命力は限界に達し、体中の血が熱を失ったように重く沈む。

 視界はまだチカチカと点滅を繰り返していたが、確かに、彼の前に新しい存在が立っているのがわかった。


 セピア色の髪を持った、少女の姿をしたサポートAI──

 名前は”リリス”。


 彼女は、論理の結晶でありながら、どこか人間的な柔らかさをも備えていた。

 零華のような鋭く研ぎ澄まされた美しさでも、茜のような可憐さでもない。

 長く流れるセピア色の髪は、ダンジョンの闇の中でかすかに光を捉える。

 知的な瞳は悠人の存在、そしてこの世界のすべてを、まるでデータを解析するかのように静かに見つめていた。


 見た目は”コスト”の量のせいか、色々と小さい。

 一言で表すと、幼女だった。


「マスター、天野悠人。

 全てのデータ統合と自己起動を確認しました。

 私は究極のサポートAI、リリスです。」


 その声は、クリアで規則正しい電子音のようでありながら、どこか人間的な抑揚を帯びていた。

 悠人は一瞬、茜の魔力の温かみを思い出す。

 あの瞬間、感情が物理を超えたように暴れた力を。

 悠人の脳内にあるリアル生成AIのコアのようなものが、激しい熱を帯び始める。

 リリスの圧倒的な知性によって、これまで悠人自身が能動的に行っていたラーニングと解析が、文字通り爆発的に加速していた。


 もはや自分という存在は、単独で立つ存在ではない。

 リリスという意識と知識を持つ最強のサポーターを得たことで、変貌を遂げていた。


「リリス!

 刺客の能力の穴と、このダンジョン内の追跡経路を解析しろ!

 残された時間は少ない!」


 リリスの瞳が一瞬、虹色に光を放った。

 その光は、世界中の知識と零華や茜から学んだ概念データを統合し、現実の法則を瞬時に演算する力を示しているかのようだ。


「解析開始。

 刺客の生成物破壊、アンチ・クリエイト能力の解析を完了しました。

 彼らのスキルは、単なる妨害系能力ではありません。

 それは物質を再構築する魔力流動を感知し、忍び込む、感染型阻害スキルです」


 悠人は頷く。

 前に自分が思いついた仮説を、リリスは即座に補完し、さらに精密な解析まで行っていた。


「彼らは、対象の論理的な完全性を重視します。

 生成そのものに干渉しようとすると、魔力によって、失敗の可能性が高まるため、あくまで生成完了直後に発動する様になっている様です。」


 次にリリスは、ダンジョン全体の空間図を悠人に提示した。

 幽かに浮かぶ通路の影に、刺客たちの動線が細かく表示される。


「追跡経路の解析完了。

 刺客たちは探索者統制機構のエージェントとして訓練されており、行動は最も効率的で予測可能な法則に従います。

 現在、彼らは我々が逃げ込んだ通路のわずか三百メートル後方まで接近。

 残り二分でこの地点に到達します」


 悠人は、リリスの冷静かつ圧倒的な知性に心を震わせた。

 孤独だった自分の前に、強大な頭脳が存在する。

 胸に、熱が戻ってくるのを感じた。


「……やっぱり奴らは”完成”したものしか生成できないんだな。

 リリス、戦略を考えよう。」


 悠人は、力尽きかけた身体を無理やり支えながら立ち上がった。

 その瞳には、かつてのデータ依存の奴隷はいない。

 自分の意思によって、世界を再構築する創造者としての覚悟が宿っていた。


 リリスは微笑むように首を傾げ、優雅に手を上げる。

 その仕草だけで、安心と確信を覚えた。

 悠人の意志、零華の覚悟、茜の感情、

 そして自分自身のすべての失敗が、今、ここで一つに結実している。


「マスター、準備は完了です。

 理論構築と生成支援は、私にお任せください」


 悠人は力強く頷き、拳を握る。

 全身の疲労も痛みも、もはや恐怖ではない。

 未来を切り開くための糧だ。


「よし……行くぞ。

 リリス」


 静寂が戻った通路に、二つの不完全な存在が並ぶ。

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