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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(1/3) 『起動』

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第10話 神崎零華

 病院のベッドの上で、悠人は右手の平をじっと見つめる。


 手のひらの中には、ゴブリンリーダーの急所を突いた、超硬度チタン合金製・短剣を生成した残響がまだ残っているようだった。


 なんでも生成できるチートスキルを手に入れた───

 そう少し前までは思っていた。

 知識とリソースさえあれば、どんなものでも生み出せる、万能の切り札だと。


 しかし、その“切り札”は、己の全コストを使い尽くし、自分自身を行動不能にした。

 何より、茜は運よく助かっただけで、悠人自身が、彼女を救えたとは言い難い。


 (──これは敗北だ……)


 悠人は、脳内の【リアル生成AI】を起動させた。

 静寂な病室に、自分にしか見えない、聞こえない、機械的な声が、文字が響いてくる。


 ───それは、“見える”という感覚に近かった。


《解析結果:前回生成物(超硬度短剣)の成功要因は、ゴブリンリーダーの「構造的弱点」の正確なデータと、生成に必要な「物理・知識・精神コスト」の極限までの投入にあります。》


(限界の範囲を伸ばすんだ。

 今よりも数倍は多く。)


 暴発した銃。

 崩壊した翼。

 あれは単なる失敗ではなく、自分の知識不足という致命的な欠陥を突きつけた警告だった。


 どんなに強力な生成スキルを持っていても、その根幹を成す基盤知識が薄っぺらければ、結果は常に不安定で、危険を伴う。


(俺は結局、モンスターを撃破するための力が欲しいんだ。

 なら、周りくどい学習はやめる。

 直接モンスターや、そいつらのいる環境を、優先してラーニングしてしまえばいい。

 そうすれば、奴らに致命的なダメージを与えられる武器をもっと効率よく作れる。)


 悠人は拳を握りしめる。


(データだ。

 やはりデータを大量に効率よく得なくては。

 モンスター関連のデータを効率よく得るにはやはり───)


 頭の中には、モンスターたちが湧いて出てくるダンジョンゲートの”向こう側”が見えていた。

 のどかな学校の校庭にできた、あの次元のひび割れ。


 ダンジョン攻略だ。


 今の悠人に必要なのは、それであった。

 モンスターのデータを効率よく得るには、ダンジョン攻略をする必要がある。


 ダンジョンで命を懸けて戦うことこそ、現時点でリアル生成AIに最も質の高い、”生きたデータ”を入力する行為となる。

 モンスターだけでなく、ダンジョン内にある様々な物質も、スキルの強化や、”生成”には役立つはずだ。


 (ダンジョン攻略には時間だ。

 時間がいるな……)


 悠人はベッドから立ち上がる。

 体はまだ完全ではない。

 しかし、進むべき道は明らかであった。


(俺は、最強のデータ収集者になる。)


 もう能力者としての驕りも、無力感による絶望もない。

 あるのはただ、大切な人を守り抜くという意志──

 そして、その意志を達成するための手段である、リアル生成AIを使いこなすという決意だけだ。


 (俺の新しい人生は───

 ”主人公”となる道は、計算と知識──

 命懸けのラーニングの上に構築されることになる。)


 悠人は窓の外を眺めた。

 世界が自分を呼んでいる。


 ◇


 退院の日。

 悠人は、病院の窓から外を見下ろす。


 一週間前、自分が運ばれてきた時と、街の様相は一変していた。

 突如只野学園学校に出現したD級ダンジョンをきっかけに、辺り一帯の状況は、変化しつつある。


 平和な日常の風景の合間に装甲車が走り、探索者らしき重装備の人間が慌ただしく行き交っていた。

 非日常の喧騒が混ざり合っている。


 これはこの街だけではないらしい。

 世界各地で、ダンジョンゲートの出現現象が活発化し、あろうことか、そこからモンスターが湧き出てくるという現象が見られている。


 悠人の病室は、まるでその変化を遠くから傍観しているかのような、静かで安全な隔絶された空間だった。

 だが、その隔絶された空間は、もう耐えがたい場所でしかない。


 未知の”データ”たちが自らこの世界にやってきて、蠢いているのだ。

 早く”学習”したくてたまらなかった。


「これで、もう点滴ともお別れか」


 解放される喜びと同時に、悠人は若干の寂しさを覚える。

 感傷に浸っていると、病室のドアが開き、茜が入ってきた。


「おはよう悠人。」


「茜か。

 ……おはよう。

 怪我は本当に治ったのかよ?」

「うん。」


 茜も退院手続きを済ませたばかりだ。

 その片手には、彼女の私物の入った小さなバッグを持っている。


「もう着替え終わった?

 外で待ってるからね」


 彼女の声は相変わらずどこか暖かさを感じさせるものであった。

 共に病院で過ごす間、常にそうだったように、人を包み込むような何かがある。


 その優しさが悠人を大きく惑わせる。

 この一週間、その優しさに甘え、安全な場所に留まろうとする自分と戦い続けていた。


「待ってくれ、茜。」


 悠人は意を決し、静かに明確な意志を込めて口を開く。


「ちょっと伝えたいことがある。」

「……?

 どうしたの。」

「茜。

 俺は、探索者になるよ。

 しばらく休学する。」


 一瞬の沈黙。

 茜は持っていたバッグを床に落とし、驚きで目を見開いた。


「え、悠人……

 どういうこと?

 まだ、体だって完全に治ってないのに──」

「体は問題ない。

 回復ポーションの予備もある。

 何より、茜が魔法をかけてくれたおかげで、後遺症もほとんどない。

 ……問題は、時間だ。」


 悠人はそう言って、今日初めて、茜と視線を合わせる。

 その瞳は、かつての平凡な高校生のそれではなかった。

 命懸けで戦う、探索者特有の鋭い光を宿している。


「俺も、スキルが発現したんだ。」

「……え?」

「簡単に言うと、物を生成するスキルさ。

 あの日、俺は全コストを消費して武器を生成し、ゴブリンリーダーをなんとか倒した。」

「……」


 茜は唖然とした表情で一言も発せずにいた。

 そんな彼女を傍目に、悠人は続ける。


「──でも、あれは本当に運が良かっただけなんだ。

 普通なら俺はあの場で死んでいた。

 もちろん、茜も……。

 ──今の俺のスキルは、誰かを守るためには、あまりにもデータが足りてないんだ。

 ……だから、もっと強くなる必要がある。

 ──データが、必要なんだよ。」


 悠人は、病室で辿り着いた結論を茜にも共有する。


「……生成は、結果でしかない。

 問題は、その前なんだ。

 何を知っているか。

 何を見てきたか。

 それが足りなかったから、俺は――

 負けたんだ。」


 悠人は、拳を握りしめる。


「……だから、誠司は死んだっ──」

「悠人……」


「俺はっ───

 茜を───

 茜だけじゃない。

 優しい人たちが理不尽で傷つけられるのを、もう見たくない。

 俺はこの力を使いこなして、みんなを守れるくらいに強くなりたいんだ。

 学校は時間の邪魔でしかない。

 ……だからその──

 休む事にしたんだ。

 今度は怪物を殺せるくらい、強くなるために。」


 茜は、驚きながらもその言葉を静かに聞いていた。


「……悠人の言うことは分かるけど───

 けどさっ

 ──その、学校に通いながらじゃダメなの……?」


 茜の提案は、かつての彼が望んでいた、安全で平穏な道だった。

 だが、そんな柔な道を進むわけにはいかない。

 悠人は首を横に振った。


「それじゃ遅いんだ。

 外はあんな状況だし、いつまた同じようにモンスターたちが、俺の大切な人たちを──

お前を、狙うのかわからない。

 休学して、探索者として登録し、より危険な場所、より多くの知識が集まる場所へ身を投じる。

 それが、俺のスキルを強化する、今思いつく中での最良の道なんだよ。」


 茜は、悠人の目から、強い無力感からの脱却という強い意志を読み取る。

 同時に、もうその意志を簡単に変えることはできないということにも。

 止めようとしたが、止める権利も持っていなかった。


 脳裏に浮かぶのは、悠人を助けられずに、そのまま運ばれる、あの時の自分。

 伸ばそうとした手を胸に留めた。


「……そんなの、勝手だよ」


 茜は俯いたまま、唇を噛む。


「嫌だよ。

 悠人が、またいなくなるかもしれないなんて。

 悠人”も”、いなくなるかもしれないなんてっ──」


 一瞬、声が震える。


「でも……

 それでも行くって言うなら」


 茜は顔を上げ、涙をこらえて笑った。


「帰ってきて。必ず。

 ──私も、自分の魔法を、もっと鍛えるから。

 もし、悠人が無理をしすぎて動けなくなったら、私が助ける。

 だから……

 一人で突っ走らないで。」


「ありがとう、茜。

 ふっ、安心してくれ。

 俺はもう、”モブ”じゃない。」


 悠人は、笑いながら親指を立てる。

 その後、病室の窓に映る自分の姿───

 普通の制服姿の自分を、過去のものとして見納めた。


「さ、行こうぜ、茜。」


 悠人はさっさと病室を出ていく。


「ずっとあなたは──

 モブなんかじゃなかったよ……」


 病室に残された茜は、ポツリとそう溢す。

 その言葉が、悠人の耳に入ることはなかった。



 ◇



「ナイフ───

 というより、短刀だなこれは。

 刺突に特化した、見事な作りだ。

 ……ただ、逆を言えばそれだけ。

 あまりにも刺突に特化しすぎている。」


 スーツを着た一人の男が、ぶつぶつと喋っていた。


「うーん、何だこの持ち手部分は。

 側面の作りもあれだな。

 刺突以外の用途で使用すれば、すぐに壊れてしまう。

 逆を言えば、”刺突”のためだけに作られたもの……

 いや、”生成”されたものなのかな?」


 暗がりに包まれた部屋の中で、その男は、A級探索者・神崎零華から受け取った刃物を眺めている。

 ぎらりと鈍く、しかし鋭い光を、その刃物は放っていた。


「似ているな、やはり。

 ”私”の能力──

 その一端を持った者が、新たに現れてしまったのか。」


 ブツブツと呟く彼の前には、神崎零華が直立している。

 彼の命令をじっと待っていた。


「下がっていいぞ。

 今後、また同じような雰囲気を感じさせるものががあったら、報告しろ。」


「──了解しました、ネクロス様。」


 神崎零華が部屋を出た後も、しばらくその男は愛おしそうにその刃物を眺めていた。

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