第105話 REAL・GENERATORー5
一人で完璧であろうとすることをやめた瞬間、体中の魔力回路が、かつてないほどスムーズに駆動し始める。
不思議な感覚だった。
今まで感じていた
「出力を上げなければ」
という焦燥感が消え、代わりに自分の中の魔力──
精神コストが静かに、しかし力強く循環している。
「俺一人じゃ、何もできなかった。
──けど、四人なら──
そう、四人だ。
四人だからこそ、今までやってこれた。」
悠人は拳を、握りしめる。
リアル生成AIスキルとは、単に物を作る力ではない。
想いを形にし、理不尽な現実を上書きする力だ。
ならば、今の自分に必要なのは自分が勝つための武器ではなく、四人で勝つための戦略を形にすること。
悠人の脳内で、リアル生成AIが新たな計算を開始する。
それは自己満足の武装ではなく、仲間の特性を最大限に活かし、互いの弱点を補い合う、共鳴の設計図だった。
脳裏に描かれる青写真は、これまでのような無機質なデータではない。
茜の魔力が通りやすい杖の構造、リリスの機動性を損なわない装甲の厚み、零華の剣技を加速させるための特殊なマテリアル。
それらすべてを”経験”を元に統合していく。
かつては孤独な作業だったスキルの生成が、今は仲間との対話のように感じられた。
自分たちの絆そのものを物質化する。
その確信が、悠人の魂を震わせた。
「──そしてそれは、これからもだ。
……やろう、みんな。」
装備はない。
万全とは、ほど遠い。
悠人の魔力残量は心許なく、茜の法衣はボロボロで、リリスの予備兵装も尽きかけている。
それでも、三人の間に流れる空気は、研究所で捕らえられていた時のような冷たい絶望に支配されてはいなかった。
むしろ、奪われたものを取り戻しに行く、静かな熱を帯びた闘志がそこにはある。
足は自然と元来た道の方へと向いていた。
「木の根っこに気をつけてください、マスター。
……茜さんも。」
「──あぁ。」
「……うん。」
迷いのない足取り。
暗い森の中を、駆けていく音が、力強い鼓動となって夜の静寂に溶けていく。
草木をかき分け、闇を切り裂いて進んでいった。
かつてはあんなに恐ろしかった夜の静寂が、今は自分たちの覚悟を試す試験場のように感じられる。
三人は、何も言わず、同じ方向へと歩いてゆく。
研究所のある方角へ。
神崎零華が一人で戦闘を続ける場所へ。
突如、森の奥から吹き抜ける風が、悠人の頬を打った。
「やぁ、せっかく逃げられたのに、また戻るのかい?」
街灯の上に、風間次郎が立っていた。
「──っ」
できればここで生成を行いたくはなかったが、こうなってしまっては仕方ない。
悠人はその手のひらに力を込めた。
「悠人、先に行って。」
「……え?」
隣から、想定していない言葉が耳に入る。
視線を向けると、そこには茜が魔法を発動させようと、手のひらに魔力を溜めているところであった。
その瞳には、確固たる意志が宿っている。
「でもっ──。
さっきみんなで戦うって言ったばかりじゃないかっ」
「だからこそですよ、マスター。
私も茜さんに加勢します」
「リリスまでっ」
「ネクロスは悠人のことを恐れてる。
救出は、悠人が適任だよ。
風間次郎はここにいるし。
あとは頼んだよ」
「そうですマスター。
マスターならネクロスを瞬殺できます。
私たちだけでは風間次郎を倒すことはできませんが、マスターが戻ってくるまでの時間稼ぎくらいはできます。」
「……そう。
だから行って、悠人。
私も死ぬ気なんかさらさらないから、さっさと倒して、零華を連れて戻ってきて。
パーティーとして、お互いの役割を果たしましょう」
「──わかった。」
「おっと、行かすと思っているのかい。
そもそも、この二人じゃ3秒も時間を稼げない。」
風間は剣先を走り出す悠人へ向けた。
「ん……!?」
突然の出来事だった。
突如、風間の背後に黒い“何か“が現れ、襲いかかる。
彼は立っていた街灯を飛び、悠人たちのいる木々の中へと着地した。
闇の中で、悠人の姿を見失う。
「ははっ。
なんだなんだ!」
風間は足に魔力を集中させ、一度大きく飛んでこの茂みを抜け出そうとした。
しかし、細長い光が頭上を掠め、風間は横へ大きくその身を転がす。
「ははっ、なるほど。
残り少ない魔力を一点に集中させて殺傷能力を上げているのか!」
視線の先には魔法を放った茜の姿があった。
彼女の背後に“黒い何か”が通り過ぎる。
それは複数存在していた。
自分に殺気を向けてくる、突如現れた謎の存在たち。
「これはこれはっ!
狙い通り時間を稼がされてしまうかもしれないな!」
風間は声高らかに笑うと、その剣から魔力を解放するのだった。




