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【リアル生成AIスキル】を得たので、あらゆる物を学習&出力しまくる件/ リアル・ジェネレーター  作者: AoisoraKumori
第一章(3/3) 『決着』

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第103話 REAL・GENERATORー3

 夜の空気は、冷たかった。


 研究所から離れた木陰。

 悠人は、地面に座り込んだまま、顔を上げられずにいた。

 周囲を囲む高い樹木の枝葉が、わずかな月光さえも遮り、深い闇の底に閉じ込めたかのような錯覚を覚えさせる。

 肺に吸い込む空気は、研究所内の無機質な薬品臭とは対照的に、湿った土と腐葉土の生々しい匂いを帯びていた。

 しかし、その生命の息吹さえも、今の悠人にとっては鋭い刃のように胸を抉る刺激でしかない。

 拳が、震えている。

 悔しさなのか、恐怖なのか、自分でも分からなかった。

 膝の上に置かれた両手は、土に汚れ、指先は感覚を失うほどに冷え切っている。

 リアル生成AIスキルという、世界の法則さえも書き換えうる万能の力を手にしながら、最も守りたかった仲間の絶望にさえ気づけず、その背中にすべてを押し付けて逃げ延びた自分。

 その不甲斐なさと、逃走の最中に背後で響いた衝撃音の残響が、脳髄を絶え間なく打ち続けていた。


「……俺は」


 言葉にしようとして、声が喉でつかえる。

 視界が熱い膜に覆われ、地面の輪郭が歪んでいった。

 胸の奥にせり上がってくる熱い塊を、無理やり飲み込もうとするが、動悸は激しくなる一方だ。

 かつてダンジョンを共に攻略し、笑い合い、未来を語り合ったあの時間は、零華にとっては血塗られた過去とネクロスの呪縛から目を逸らすための、刹那の夢に過ぎなかったのだろうか。

 自分が積み上げてきた信頼という名の城が、土台から崩れ去っていく。


「俺はあいつのことを何も分かってやれてなかった……」


 吐き出した声は、弱々しかった。

 夜の森の静寂に吸い込まれていくその独白は、誰に届くこともなく、ただ自身の無力さを再確認させるための断罪として響く。

 神崎零華が抱えてきた孤独。

 両親を自らの手で殺めたという、一生拭い去ることのできない罪悪感。

 そして、それを弱みとして握られ、ネクロスの駒として生きるしかなかった歳月。

 隣で肩を並べて戦っていたはずなのに、その心の深淵に一歩も踏み込むことができなかった自分自身への嫌悪が、黒い濁流となって精神を侵食していく。


「何がパーティーだよ。

 俺はっ──凡人だから自分のことで精一杯でっ───。

 茜も、リリスも──ほんと……嫌気がさしてただろう……?

 こんなやつがリーダーだなんて、訳わからねぇよな──」


 乾いた笑いさえ出なかった。

 自嘲の言葉が、ひび割れた唇から零れ落ちる。

 仲間という言葉の響きが、今は滑稽で、あまりにも無責任に聞こえた。

 独りで地獄を歩き続けていた零華に、ただ能天気に希望を語り、寄り添っている。

 それは支援でも共闘でもなく、ただの傲慢だった。


 一番近くにいたはずの人間が、その痛みに気づきもしなかった。

 その事実は、いかなる生成をもってしても修正することができない。

 致命的な過失として悠人を打ちのめしていた。

 ネクロスの冷徹な論理を嫌悪しながら、結局、自分もまた表面上の数値や目標、目に見える成果ばかりを追っていたのではないか。


 夜風が、木々を揺らす。

 葉擦れの音が、やけに現実感を伴って耳に入った。

 ザワザワと騒めく木々の声が、まるで自分を責め立てる非難の声のように聞こえる。

 遠くで聞こえる夜鳥の鳴き声さえも、この場所から立ち去れと命じているかのようだった。

 逃げてきたのだ。

 ただ無様に、彼女が命を懸けて作った空白の時間を、自身の命を永らえさせるためだけに。

 あの白い研究所の中に、彼女一人を残して逃げてきた。


(──本来ならば、俺こそが残るべきだったんじゃないか?)


 沈黙の中で、足音が一つ近づく。

 カサリ、と乾いた落ち葉を踏みしめる音が、思考の迷宮に沈んでいた悠人の意識を現実へと引き戻した。

 その足取りは、迷いながらも、どこか凛とした強さを秘めている。


「……悠人」


 茜だった。

 その声には、先ほどまでの激しい動揺を懸命に抑え込もうとする優しさと、隠しきれない悲しみが同居している。

 悠人は顔を上げることができない。

 どのような顔をして、自分を信じてついてきた仲間に向き合えばいいのか分からなかったからだ。

 泥にまみれた自らの手が、あまりに無力で、情けなく見えた。

 茜は、しゃがみ込み、悠人と同じ目線になる。

 その表情は、泣きそうで──

 それでも、はっきりとした意志を宿していた。

 月明かりがわずかに差し込み、茜の頬を伝う一筋の涙の跡を照らし出す。

 その瞳は、逃げ延びたことへの罪悪感に押し潰されそうな悠人の心を、正面から受け止めようとしていた。


「価値があるから、神崎さんは私たちと今まで一緒にいて、こうして逃してくれたんでしょう?」


 その言葉が、まっすぐに悠人の胸へ刺さる。

 思わず息を止めた。

 耳の奥で鳴っていた自責の雑音が、その一言によって一瞬で静まり返る。


 悠人は、反射的に顔を上げていた。

 視界に入ったのは、煤けた頬に涙を溜めながらも、力強くこちらを見つめる茜の姿だった。

 その背後では、リリスが影のように静かに立ち、同じようにこちらの言葉を待っているのが分かる。

 リリスの瞳にはいつもの冷静さが戻っているように見えた。

 だが、その奥にある熱い魔力の揺らぎが、彼女もまた悠人の行動を求めているように見える。


「あなたが、信じるに足る人だったから──」


 茜の声は、夜の静寂を震わせながら、悠人の凍りついた心に熱を吹き込んでいく。


「あなたの意志が本物だって、思えたから。」


 その言葉は、零華が最後に向けたあの背中の意味を、別の角度から照らし出していた。

 破滅でも、復讐でもない。

 自らのすべてを賭してでも自分たちを守る価値があるのだと、彼女は信じていたのだ。

 彼女は決して、身を投げ打って、ただネクロスを道連れにしようとしたのではない。

 悠人たちをネクロスの支配から解き放つために、最後の一撃を振るったのだ。

 悠人は、茜の瞳の中に宿る揺るぎない確信を、吸い込まれるように見つめ返す。

 零華が独りで背負った重圧。

 それは自分たちを拒絶するためのものではなく、復讐を果たすというわけではなく、自分たちが再び立ち上がるための、彼女なりの最後の抵抗だったのではないか。

 無力さに浸り、ここで立ち止まることは、彼女が命を削ってまで成した決断を冒涜することに他ならない。

 悠人がここで折れてしまえば、彼女の孤独な戦いは、本当にただの悲劇として終わってしまう。


 茜の瞳が潤み、視界が滲む。

 それでも逸らさなかった。

 悠人はゆっくりと、土を掴んでいた手を解き、自らの膝を叩いて立ち上がるための準備を始める。

 まだ足に力は戻りきっていない。

 心臓も痛いほどに脈打っている。

 だが、茜の言葉が、冷え切っていた悠人の魔力回路に、小さな、しかし消えない火を灯していた。


 リアル生成AIスキル。

 それは無から有を生む力ではない。

 強い意志と、明確なビジョンがあって初めて形を成すものだ。

 もし今の自分に絶望しか描けないのなら、生成される未来もまた絶望でしかない。

 しかし、仲間の言葉を信じ、零華の託した”生”を全うしようとするのなら、この闇の中でも光り輝く逆転の芽を生成できるはずだ。


 悠人は震える肺を大きく広げ、冷たい夜の空気を思い切り吸い込んだ。

 土の匂い、茜の温もり、リリスの静かな殺気。

 それらすべてが、自分がまだ生きていることを、そして戦いの最中にあることを思い出させる。

 重く沈んでいた身体に、意志という名の熱が巡り、悠人の瞳に微かな光が戻っていた。

 絶望に塗りつぶされていた思考が、未来を形作るための冷徹なまでの決意へと昇華していく。

 隣に寄り添う茜の気配が、何よりも強く、折れそうな心を支えていた。


 茜の瞳が潤み、視界が滲む。

 それでも逸らさなかった。

 茜は、震える声で、続ける。


「なるんでしょ?

 ネクロスとは違う、本物の生成スキルの使い手に。

 というか、なりなさい、天野悠人。

 その力で、希望をもたらす───

 ”リアル・ジェネレーター”に。」

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