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婚約破棄?それより地盤沈下ですわ 〜「あと3日で沈む」と予言した一級建築士令嬢、重力魔法で王都を丸ごとジャッキアップして救世主になる〜  作者: 星野 藍


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第9話:建築令嬢、暗殺者に建築を説く

 その夜、グラナード別邸の作業室。

 私は、バレットから譲り受けた古代の地図を「復元」する作業に没頭していた。

 ペンを走らせる音、そして計算機のカチカチという音だけが室内に響く。


 ――ふ、と。

 室温が数度、下がった気がした。


「……ケインなら、扉の外で寝ているわよ。眠り魔法スリープをかけたのは貴方かしら?」


 私は顔を上げず、図面に線を引いたまま問いかけた。

 背後の闇から、一筋の銀光が閃く。音のない、完璧な「解体」の刺突。


 キンっ!


 私の首筋を狙った短剣は、不可視の『重力障壁』に弾かれ、空しく火花を散らした。

 闇の中から現れたのは、影のような装束に身を包んだ青年――ライナスだった。


「……重力防御か。珍しい魔法を使うな、公爵令嬢」

 ライナスの声は、低く、冷え切っていた。

 「だが、その障壁、一点・・を突けば崩れることは知っている」


 彼は再び、音もなく跳躍した。

 彼の動きは、確かに洗練されていた。単なる暴力ではない。建物の「脆い箇所」を突いて崩落させるように、人体あるいは魔法の構造ひずみを的確に狙っている。


 だが。

 私は、その動きを見て……思わず、手を叩いてしまった。


「素晴らしいわ! 今の体重移動、完璧な『応力集中』じゃない!」


「……何……?」


「今の、右足の踏み込み。そこから腰の回転を介して、短剣の先端に全てのエネルギーを凝縮している。……まさに『構造破壊デモリション』の極致ね。……でも、惜しいわ」


 私は立ち上がり、彼を「獲物」ではなく「不器用な職人」を見るような目で見つめた。


「重心の逃がし方が甘いわよ。……その角度で突いたら、貴方の右手首に反動の三割が返ってくる。……三回突けば、次はないわ。……ねえ、もう一度やってみて」


「……馬鹿にしているのか? 俺は貴様を殺しに来た暗殺者だぞ」


「殺す? ええ、それも一つの『解体』ね。……でも、解体士として言うなら、貴方のやり方は非効率的すぎる。……見なさい、今の貴方の刺突で、私の障壁はこう(・・)歪んだ」


 私は空中に、障壁の魔力分布図を投影した。

 格子状のライン。一箇所だけが赤く、激しく明滅している。


「ここ。ここを狙えば、貴方の力は半分で済んだの。……建築学的にいえば、そこがこの障壁の『要石キーストーン』。……暗殺者として三流とは言わないけれど、解体士としては、まだ見習いね」


 ライナスが、呆然と刃を止めた。

 殺意を忘れたわけではない。それ以上に、目の前の「狂った令嬢」が口にした言葉が、彼の内側にある『破壊への探求心』に深く刺さってしまったのだ。


「……何が、解体士だ。……俺の家は、建築家の嘘で崩れた。……俺は、この世から『欺瞞の箱』を全て消し去るために――」


「なら、し(・)に(・)な(・)さ(・)い(・)よ(・)」


「な……?」


「壊すだけじゃ、何も終わらないわ。……壊して、そして『絶対に壊れない土台』を築く。……それが本当の勝利よ。……ライナス、と言ったかしら。……貴方のその、驚異的な『破壊の勘』。……私の現場で、『安全確保のための先行解体』に使いなさい」


 私は彼に歩み寄り、冷たく輝く短剣の刃を、指先でコン……と弾いた。


「殺したいなら、いつでも来なさい。……でも、そのたびに貴方の『不効率な破壊法』を私が添削してあげる。……いつか、貴方が私を殺せるほど完璧な解体技術ロジカル・ブレイクを身につけた時……。……この王都は、もう二度と沈まない都市に生まれ変わっているはずよ」


 ライナスの瞳に、戸惑いと、それ以上の「未知への戦慄」が走る。


「……狂っている。……グラナードの令嬢、貴様、正気じゃない」


「ええ、知っているわ。……構造設計士わたしは、いつだって世界を疑っているもの。……さあ、講義は終わりよ。……お腹が空いたわね。……ケインを起こして、夜食でも作らせましょうか?」


 ライナスは、言葉を失ったまま、再び闇の中へと消えていった。

 

 ――刺客。

 だが、私にとっては、それさえも「優れた解体重機」の予備軍にしか見えなかった。


 一級建築令嬢。

 彼女の周りには、いつの間にか、壊れた世界を叩き直す「狂った職人」たちが集まり始めていた。

第9話、お読みいただきありがとうございました!

本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、暗殺者のライナス登場回でした。


「暗殺術=非効率な解体」として添削する……アリーナのエンジニア気質は、もはや殺意さえも凌駕してしまいますわね。壊すだけの解体士より、直せる設計士の方がよほど「怖い」ということを、これからたっぷり教えてあげましょう。


次回、第10話「地盤沈下パーティへようこそ」。

中抜きを続ける貴族たちのど真ん中へ、アリーナが「物理的な現実(崩落予測)」を引っ提げて乗り込みますわ!お楽しみに!


もし「添削される暗殺者が面白い!」と思っていただけたら、最後に建築確認ブックマークや評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。

皆様の魔力供給という名の「ボーナス」が、再建チームの高性能計算機を動かすエネルギーになりますのよ!

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