表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄?それより地盤沈下ですわ 〜「あと3日で沈む」と予言した一級建築士令嬢、重力魔法で王都を丸ごとジャッキアップして救世主になる〜  作者: 星野 藍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

第5話:手抜き工事の代償

 翌朝。王都の『建築予算管理局』。

 ここは本来、国家の根幹を支える建築物の維持管理費を司る神聖な場所であるはずだった。

 だが、その薄暗い廊下には、停滞した魔力と、それ以上に淀んだ人間の野心が漂っている。


「失礼します。グラナード公爵令嬢、アリーナ・フォン・グラナードです」


 私が重厚な扉を開くと、そこには贅を尽くした執務机にふんぞり返る肥満体の男がいた。

 建築局の局長、ゴルト男爵。前世で掃いて捨てるほどいた、「現場を見ない事務方」の典型だ。


「……ふん。断罪された公爵令嬢が、何の用かね。ここは泥遊びの場所ではないぞ」

 ゴルトは、私の手にある泥だらけの図面を見て鼻で笑った。


「泥遊び……。そうですね。貴方がたがこの都市の地下に溜め込んだ『腐敗』の量からすれば、私の泥など可愛らしいものです」

 私は、彼の机の上に一束の書類を叩きつけた。昨夜、別邸にある記録を洗って、私の診断結果と照らし合わせた『監査資料』だ。


「これを見なさい。過去十年間の、中央広場および王宮地下の『防腐魔石ぼうふませき』の購入記録です」


「それがどうした? 手続きに不備はない」


「ええ、書面上はね。ですが、物理的な現実は違います。昨夜、私が噴水から取り出した堆積物の成分を分析しました。……驚きましたよ。記録されているはずの高級な『光輝石』の成分はゼロ。代わりに混じっていたのは、安価で不純物の多い『石英屑せきえいくず』でした」


 ゴルトの顔から、微かに余裕が消える。


「何を……。素人の鑑定など、何の証拠にもならん」


「素人? ふふっ、これだから事務方は。……いいですか、魔石の純度は、それから発生する『魔界まかい』――つまり、構造を保護する特殊なフィールドの強度で測定できます。私の診断眼によれば、現在の王都の防腐強度は、設計値の三割にも満たない」


 私は彼に歩み寄った。


「抜き取りましたね。本来使うべき高品質な魔石を、安物とすり替え、その差額をどこへ流したか……聞くまでもありません。貴方のその、魔力増強効果のある『贅沢な指輪』が、何人分の領民の命で買われたものか、計算してみましょうか?」


「黙れ! 無礼な! 警備兵! この小娘を今すぐ叩き出せ!」


 ゴルトが叫び、屈強な警備兵たちが私を取り囲む。

 ケインが剣を抜こうとしたが、私はそれを手で制した。


「暴力で解決なさるおつもりですか? ……それも結構。ですが、一つだけ申し上げます。今、この瞬間の王都の地下水圧は、貴方のその『嘘』で塗り固められた報告書の厚さに耐えきれなくなっています」


 私が指先で、管理局の床をコン……と叩く。

 その瞬間。


 ――ピシっ。


 ゴルトの執務机の真下。美しい大理石の床に、一条の亀裂が走った。

 一筋の黄金の泥が、そこから染み出してくる。


「ひっ……!? なんだ、これは!」


「昨夜、私が『抜いた』のは一部です。本体の崩落は止まっていない。……ゴルト男爵。貴方が抜いた一〇〇〇万ゴールドの利益、それと引き換えに、貴方はたった今、自分自身の逃げ道を『崩壊』させたんですよ」


 床の亀裂が急激に広がり、管理局の建物全体が軋み始めた。

 警備兵たちは恐怖に顔を引きつらせ、私を放置して逃げ出した。


「待て! 戻れ! 私を置いていくな!」


「助かりたいなら、その指輪に込めた魔力をすべて床下へ流し込みなさい。三秒だけ、崩落が遅れます。……その間に、外へ」


 私が冷静に告げると、ゴルトはなりふり構わず指輪を引きちぎり、床下へ投げ込んだ。

 その一瞬の躊躇の間に、私はケインと共に、崩れゆく管理局を後にした。


 背後で、建物が激しい音を立てて半分に折れるのが見えた。

 幸い、早朝のため職員は少なかったが、これで決定的な証拠が文字通り「闇に葬られる」ことはなくなった。


「アリーナ様、あんな奴、放っておけばよかったのに……」


「いいえ、ケイン。彼らの『罪の記録』は、崩れた瓦礫の下にある。……さあ、次は本番よ」


 私は、崩壊した管理局の先に立ち上る「地煙」を見つめた。

 それは、最悪の地区――王都のスラム『低地街』から上がっていた。


「予算中抜きの最大の被害者は、いつだって弱い場所なのよ。……行くわよ、ケイン。本当の救済を始めましょう」


 私は再び、泥に汚れた boots で、崩れゆく王都を走り出した。


第5話、お読みいただきありがとうございました!

本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、悪徳官僚との監査対決編でした。


「構造計算による会計監査」という、元設計士のアリーナならではの追い詰め方、いかがでしたでしょうか。記録は嘘をつきますが、実際に使われた資材の成分エビデンスだけは嘘をつけませんのよ。


次回、第6話「重力魔法:ジャッキアップ!」。

崩落寸前のスラム街で、ついにアリーナの魔法が「人々の命」を直接救う、最初の大きなクライマックスですわ!王都リノベーション、いよいよ本格始動です!


もし「アリーナの監査無双にスカッとした!」と思っていただけたら、最後に建築確認ブックマークや評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。

皆様の応援という名の「資材」が、再建チームの士気を高める最高の給料になりますのよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ