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婚約破棄?それより地盤沈下ですわ 〜「あと3日で沈む」と予言した一級建築士令嬢、重力魔法で王都を丸ごとジャッキアップして救世主になる〜  作者: 星野 藍


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第4話:とりあえず広場の噴水を直しましょう

「アリーナ様、本当にあのお肉屋の言ったことが本当になるなんて……」

 市場の端で、ケインが震える声で呟いた。

 私の背後では、崩れた店を囲んで役人たちが慌ただしく走り回っている。だが彼らにできるのは、せいぜい二次災害を防ぐためにロープを張ることくらいだ。


「予測されていたことよ、ケイン。むしろ、今まで持っていたのが奇跡ね」

 私は泥を払うこともせず、中央広場へと歩を進めた。

 そこには、かつては王都の象徴だった、現在は水が枯れ果てたとされる『沈黙の噴水』が鎮座している。


「あそこに杭を打ってちょうだい。なるべく深く、魔力が通りやすい材質のものを」

「……はい!?」


 私が指し示したのは、噴水の巨大な土台だ。

 周囲の商人が、また揶揄いの声を浴びせてくる。


「おいおい、令嬢様! 今度は噴水に穴を開けるのか? 干上がった噴水を叩いても、水なんて出ねえぞ!」

「そうよ、それよりお嬢様。その泥だらけの服、どうにかした方がいいんじゃない?」


 彼らの言葉を柳に風と受け流し、私は噴水の土台に耳を当てた。

 五。

 十。

 十五。


「周期十六の不規則な脈動……。あ(・)る(・)わ(・)ね(・)」


「何が、あるのですか?」


「地下の魔力水理の『デッドロック』よ。本来ならこの噴水から排出されるべき魔力が、地下で詰まって、都市全体の圧力を上げている。……ケイン、杭に私の魔力を流し込んで。私の合図で、一気にを(・)穿つ(・)のよ」


 ケインが私の真剣な瞳に圧倒され、ハンマーを構える。

 私は構造眼を閉じ、地下の血管を流れる魔力の奔流を脳内にマッピングした。

 詰まっているのはここだ。三百年前、王宮の建築士が「メンテナンス性を無視して」蓋をした、かつての排出口。


「三、二、一……今よ!」


 ――ッガァン!


 ケインの一撃が、噴水の中心にある核を貫く。

 その瞬間、大地が身震いした。


「……ッ!? 揺れてる!?」

「地震か!?」


 周囲がパニックになる中、私は噴水の吹出口から数歩下がった。

 ドゴォォォォン! という轟音と共に、噴水の中央から巨大な水柱が……いや、と(・)の(・)夜空に向かって噴き出した。


 だが、その泥は黒くなかった。

 月光に反射して、キラキラと輝いている。


「な……なんだ、あれは……?」

「金……? いや、黄金の泥か!?」


「いいえ。これは『魔力の結晶化した堆積物オリ』よ」

 私は、飛沫を浴びながら冷徹に説明した。

 「三百年分の詰まりが、一気に放出された。これで王都の地下にかかっていた圧力が五パーセントは抜けたはず。……でも、見て。この堆積物の量」


 周囲に降り注ぐ、美しくも不気味な黄金の泥。

 それは、この都市がいかに「内側から腐敗していたか」を示す証拠に他ならなかった。


「アリーナ様、見てください! あちらこちらで、地面のきしむ音が止まりました!」

 ケインが歓喜の声を上げる。


「ええ。とりあえず、今夜の『全壊』は免れたわ。……でも、おじさん」

 私は、腰を抜かして座り込んでいた、さきほどの肉屋に話しかけた。


「ひ、ひいっ……!? な、なんですか、救世主様……!」


「私は救世主じゃないわ。ただの、工事の現場監督よ。……今の噴出で、貴方の店の地下の空洞も少しは安定したはず。でも、本番はこれからよ。この堆積物が出るということは、地下のメイン導管がすでに『破裂』している可能性が高い」


 私は泥だらけの手で、新たな図面を脳内に描き始めた。

 王都全体が、大きな一つの「壊れかけの家」に見える。

 修理すべき箇所は、ここだけではない。


「アリーナ様、次に向かう場所は?」


「……あそこよ」

 私は、闇の中にそびえる王宮を見上げた。

 「王宮直属の、建築予算管理局。……どうしてあんなに魔力が詰まっていたのか。その『原因』を作った人間を、まずは、リノベーション(解体)してやるわ」


 私は黄金の飛沫を背に受けながら、一歩一歩、腐敗の源流へと足を踏み出した。


第4話、お読みいただきありがとうございました!

本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、今回は噴水からの黄金の泥という、ビジュアル的な「解放」を描いた回でした。


アリーナの活躍により、少しだけ「王都の圧」を逃がすことができましたが、問題の根本はまだ闇の中……。腐敗の源流は、常に中枢にあるものですわね。


次回、第5話「手抜き工事の代償」。

予算を中抜きし、都市を危険に晒した者たちへのアリーナの理詰め(&物理)の監査が始まります!地盤の緩みは心の緩み、きっちり締めさせていただきますわ!


もし「黄金の泥の噴出にスカッとした!」と思っていただけたら、最後に建築確認ブックマークや評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。

皆様の声という名の「杭」が、王都の地盤をさらに一段、ジャッキアップさせますのよ!


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