第4話:とりあえず広場の噴水を直しましょう
「アリーナ様、本当にあのお肉屋の言ったことが本当になるなんて……」
市場の端で、ケインが震える声で呟いた。
私の背後では、崩れた店を囲んで役人たちが慌ただしく走り回っている。だが彼らにできるのは、せいぜい二次災害を防ぐためにロープを張ることくらいだ。
「予測されていたことよ、ケイン。むしろ、今まで持っていたのが奇跡ね」
私は泥を払うこともせず、中央広場へと歩を進めた。
そこには、かつては王都の象徴だった、現在は水が枯れ果てたとされる『沈黙の噴水』が鎮座している。
「あそこに杭を打ってちょうだい。なるべく深く、魔力が通りやすい材質のものを」
「……はい!?」
私が指し示したのは、噴水の巨大な土台だ。
周囲の商人が、また揶揄いの声を浴びせてくる。
「おいおい、令嬢様! 今度は噴水に穴を開けるのか? 干上がった噴水を叩いても、水なんて出ねえぞ!」
「そうよ、それよりお嬢様。その泥だらけの服、どうにかした方がいいんじゃない?」
彼らの言葉を柳に風と受け流し、私は噴水の土台に耳を当てた。
五。
十。
十五。
「周期十六の不規則な脈動……。あ(・)る(・)わ(・)ね(・)」
「何が、あるのですか?」
「地下の魔力水理の『デッドロック』よ。本来ならこの噴水から排出されるべき魔力が、地下で詰まって、都市全体の圧力を上げている。……ケイン、杭に私の魔力を流し込んで。私の合図で、一気に一点を(・)穿つ(・)のよ」
ケインが私の真剣な瞳に圧倒され、ハンマーを構える。
私は構造眼を閉じ、地下の血管を流れる魔力の奔流を脳内にマッピングした。
詰まっているのはここだ。三百年前、王宮の建築士が「メンテナンス性を無視して」蓋をした、かつての排出口。
「三、二、一……今よ!」
――ッガァン!
ケインの一撃が、噴水の中心にある核を貫く。
その瞬間、大地が身震いした。
「……ッ!? 揺れてる!?」
「地震か!?」
周囲がパニックになる中、私は噴水の吹出口から数歩下がった。
ドゴォォォォン! という轟音と共に、噴水の中央から巨大な水柱が……いや、水と(・)泥の(・)奔流が夜空に向かって噴き出した。
だが、その泥は黒くなかった。
月光に反射して、キラキラと輝いている。
「な……なんだ、あれは……?」
「金……? いや、黄金の泥か!?」
「いいえ。これは『魔力の結晶化した堆積物』よ」
私は、飛沫を浴びながら冷徹に説明した。
「三百年分の詰まりが、一気に放出された。これで王都の地下にかかっていた圧力が五パーセントは抜けたはず。……でも、見て。この堆積物の量」
周囲に降り注ぐ、美しくも不気味な黄金の泥。
それは、この都市がいかに「内側から腐敗していたか」を示す証拠に他ならなかった。
「アリーナ様、見てください! あちらこちらで、地面のきしむ音が止まりました!」
ケインが歓喜の声を上げる。
「ええ。とりあえず、今夜の『全壊』は免れたわ。……でも、おじさん」
私は、腰を抜かして座り込んでいた、さきほどの肉屋に話しかけた。
「ひ、ひいっ……!? な、なんですか、救世主様……!」
「私は救世主じゃないわ。ただの、工事の現場監督よ。……今の噴出で、貴方の店の地下の空洞も少しは安定したはず。でも、本番はこれからよ。この堆積物が出るということは、地下のメイン導管がすでに『破裂』している可能性が高い」
私は泥だらけの手で、新たな図面を脳内に描き始めた。
王都全体が、大きな一つの「壊れかけの家」に見える。
修理すべき箇所は、ここだけではない。
「アリーナ様、次に向かう場所は?」
「……あそこよ」
私は、闇の中にそびえる王宮を見上げた。
「王宮直属の、建築予算管理局。……どうしてあんなに魔力が詰まっていたのか。その『原因』を作った人間を、まずは、リノベーション(解体)してやるわ」
私は黄金の飛沫を背に受けながら、一歩一歩、腐敗の源流へと足を踏み出した。
第4話、お読みいただきありがとうございました!
本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、今回は噴水からの黄金の泥という、ビジュアル的な「解放」を描いた回でした。
アリーナの活躍により、少しだけ「王都の圧」を逃がすことができましたが、問題の根本はまだ闇の中……。腐敗の源流は、常に中枢にあるものですわね。
次回、第5話「手抜き工事の代償」。
予算を中抜きし、都市を危険に晒した者たちへのアリーナの理詰め(&物理)の監査が始まります!地盤の緩みは心の緩み、きっちり締めさせていただきますわ!
もし「黄金の泥の噴出にスカッとした!」と思っていただけたら、最後に建築確認や評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。
皆様の声という名の「杭」が、王都の地盤をさらに一段、ジャッキアップさせますのよ!




