第14話:重力崩壊とリノベーション
王都の命運を懸けた、最後の五分間。
管理権限を得た私の視界には、現在、王都の地下で起きている「絶望の数理」が全ての輝くグリッドとして投影されていた。
地下五五〇メートルのメイン・ピストン。
そこから、魔力の奔流(奔流)が冷却不全によって逆流し、地盤を内側から溶かし(ウォッシュ・アウトし)ている。
「……バレット様! 全工兵に指示を。……今から十秒間、王都の地下全域に『重力定着』を打ち込みます! ……反動が来るから、全員、支柱に掴まって!」
「本気か!? これだけの面積、一人で支えようってのか!?」
「一人じゃないわ。……ケイン、手を貸して」
私は、震える手をケインに差し出した。
彼は迷わずその手を握り、彼の「戦士としての魔力」を、直接私の回路へと流し込んできた。
「アリーナ様。……貴女の設計は、絶対に崩れない。……私が、保証します」
「……ええ。……いくわよ!」
私は、全神経を指先に集中させた。
診断、解析、そして――**『建築』!**
私の鼻から熱い液体が滴り落ち、図面を赤く汚した。
視界が白む。
だが、私の脳内では、前世で作ったダム、橋、高層ビル……それらの全ての「強度」が一つに重なり、王都を支える巨大な『仮想梁』となって具現化していく。
「全セクター、重力同調! ……ジャッキアップ、……マックス出力!!」
――ゴ、ゴ、ゴゴゴ、ゴォォォォォォォン!!
地下墓地全体が、そして三キロ先の王宮までもが。
王都全体が、まるで巨大な船が波を乗り越えるように、大きく、そして力強く「跳ね上がった」。
地上の市場、広場、スラム、王宮。
傾いていた全てが、私の魔力という名の『見えない柱』に押し上げられ、正規の水平位置へと戻っていく。
沈みゆく世界を、一人の令嬢が、その細い腕で物理的に引き戻した。
「……アリーナ、様……ッ!」
ケインが、魔力の枯渇で跪く。
だが、まだ終わらない。
押し上げただけでは、手を離せば再び沈む。
私は、システムの最深部にある『安全弁』を、魔法陣で無理やりこじ開けた。
「……詰まった魔力、放出しなさい(パージ)!!」
直後。
王都の四隅、かつて私が「ベント(排気口)」として設計し直した場所に、巨大な魔力の光柱が立ち上がった。
蓄積されていた三百年分の『腐敗』が、光の粒子となって夜空に霧散していく。
美しかった。
王都の上に降り注ぐ、まばゆいばかりの魔力のシャワー。
それは、この都市がようやく「呼吸」を取り戻した合図だった。
『――再起動完了。……地盤支持率一〇〇パーセントに復帰。……冷却ルーチン、正常動作を確認。……お疲れ様でした、チーフ・エンジニア』
無機質な声が、今度は祝福の鐘のように聞こえた。
私の体から力が抜け、ケインの腕の中に崩れ落ちた。
「……。……ケイン、直ったわね」
「はい。……完璧です、アリーナ様。……一ミリの狂いもなく、世界が水平に戻りました」
私は、最後に残った力で、天井を仰ぎ見た。
そこにはもう、崩落の恐怖を告げる砂礫は落ちていない。
一級建築令嬢。
彼女は、自分を捨てた国を、自らの「命」を削ってリノベーションしてしまった。
――さあ、工事が終われば、次は『落成式』の時間だ。
第14話、お読みいただきありがとうございました!
本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、ついに王都を元に戻したアリーナの、執念の「ジャッキアップ」回でした。
一人で都市全体を物理的に持ち上げる……鼻血を出しながら図面に向かい、水平を取り戻すアリーナ。彼女のエンジニアとしての矜持、お楽しみいただけましたでしょうか。一ミリの狂いも許さない、それが設計士のプライドですわ!
次回、いよいよ第1部完結! 第15話「王都は沈まず、空に浮く」。
救われた人々の歓喜、土下座する国王、そしてさらなる「世界のひずみ」への旅立ちを見届けてくださいませ!王都の運命、落成まであと少しですわ!
もし「アリーナのジャッキアップ、最高!」と思っていただけたら、最後に建築確認や評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。
皆様の応援が、プロジェクトを完遂させる最高のブーストになりますのよ!




