第13話:最終防衛ライン:王立墓地地下
大聖堂地下、メインコントロール・セクター。
無機質な金属の壁に囲まれた空間で、私たちは「世界の心臓」の咆哮を浴びていた。
ドクン、ドクン……という低い鼓動。
それが上がるたびに、天井から砂礫が落ち、王都の傾斜がさらに一段階、深刻化していく。
『――不適合個体、および未登録データの接近を感知。……排除プロトコル、フェーズ1を開始します』
無慈悲な警告の直後。
壁の一部がスライドし、そこから数体の「護衛個体」が現れた。
石造りのゴーレムではない。歯車と油圧、そして魔力の輝きが剥き出しになった、機械人形。
「ヒッハァ……! こいつは、工務店の道具じゃ手に負えねぇ代物だな!」
バレットが、愛用のハンマーを握り直す。
「ケイン、バレット様! ここは私がやります!」
「アリーナ様、危険です! 貴方は今、魔力を温存しなければ……ッ!」
「……いいえ。……相手は『システム』よ。……なら、システムとしての弱点を突くのが、設計士の正攻法よ!」
私は、手に持っていた測量機を、逆手に持ち直した。
重力陣、展開。
センチネルが、高速で私に肉薄する。その刃のような腕が振り下ろされた瞬間、私は――。
避けるのではなく、その刃の「支点」に、一点集中で高圧の重力を叩き込んだ。
――ッガキィィィィィン!
不快な金属破砕音。
センチネルの腕が、まるでおもちゃのように根元からへし折れた。
「……関節部、油圧シールが劣化しているわね。……メンテナンス不足よ。……設計から三千年、一度もグリスアップしていないでしょう?」
私は、後続のセンチネルたちに対しても、一切の無駄なく「構造的欠陥」に重力撃を叩き込んでいく。
首の回転軸、脚の膝継手、そして動力核の支持具。
「アリーナ様……すごい……」
ケインが呆気にとられる。
だが、本番はここからだ。
私は壊れたセンチネルたちを足蹴にし、中央のコンソールへ向かった。
『――エラー。排除効率の低下。……登録データの照合を実行してください……。……さもなくば、全システムの緊急自爆を実行します』
「自爆!? ふざけるな!」
バレットが叫ぶ。
コンソールの上に、青白い光が投影される。
そこには、三次元の幾何学パズル(テトリスのような図形)が、複雑に絡み合った状態で表示されていた。
『――設計思想の合致を確認します。……この不完全な構造体を、。一分以内に最適化してください』
「……これ、ログインテストじゃない。……『入社試験』だわ」
私は、前世の最終面接を思い出した。
提示された不完全な図面を、予算と強度の制限内で、どれだけ美しく修正できるか。
建築家としての魂を試す、最も残酷で、最も愛おしい、論理の迷宮。
「ケイン、バレット様! 周辺の護衛をお願い! ……一分(六十秒)で、この世界の設計者に、私の『リノベーション』を見せつけてやるから!」
私の指が、光り輝くコンソールの上で舞う。
複雑極まる幾何学模様を、重力魔法で引き寄せ、回し、結合させる。
三百年、いや三千年分の、積み重なった設計の「歪み」。
「ここをこうして……。この応力をこっちへ逃がす。……支持層の負荷は、周囲の魔力排出口へ分散させて……。……よし、この構造ならいける!」
残り、五秒。
私は最後のピースを、中央の「欠けた部分」へと、力強く叩き込んだ。
――カチっ。
世界そのものが、完璧なハーモニーを奏でた気がした。
『――ログイン承認。……管理権限、一時的にアリーナ・フォン・グラナードへ譲渡。……ようこそ、新米設計士』
システムの声に、初めて人間味が混じったのは、私の聞き間違いだっただろうか。
中央の巨大なシリンダーが、沈黙した。
それと同時に、王都の傾斜が、ぴたりと止まった。
「……ふう。……一次試験合格、かしらね」
私は鼻の汗を拭い、目の前に現れた、より巨大な「操作パネル」を見上げた。
だが。
王都を元に戻すための「最終再起動」には、まだ一つの、致命的な部品が足りなかった。
第13話、お読みいただきありがとうございました!
本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、世界の「入社試験」回でした。
建築知識でシステムの壁を突破する。アリーナの「構造設計士」としてのアイデンティティが、ついに世界そのものに認められましたわね。新米設計士から、目指すは世界のリノベーション責任者ですわ!
次回、第14話「重力崩壊とリノベーション」。
空前絶後の「都市丸ごとジャッキアップ」が始まりますわ。アリーナ史上最大の、全力再建の瞬間をぜひ見届けてくださいませ!王都の運命、一ミリの狂いも許されませんのよ。
もし「アリーナの試験合格を祝いたい!」と思っていただけたら、最後に建築確認や評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。
皆様の声援という名の「高精度ジャッキ」が、王都を再び正しい位置へと押し上げますのよ!




