第12話:王都の余命はあと六時間
空から、不気味なほどの静寂が降りてきた。
王都の至る所で聞こえていた悲鳴や怒号が、物理的な「傾斜」の恐怖によって沈黙へと変わっていく。
地表の角度、約三度。
建築において、三度の傾斜は「崩壊」と同意語だ。
「アリーナ様、あそこです……! 大聖堂の鐘楼が、震えています!」
ケインが、王都の中央にそびえ立つ白亜の巨塔を指差した。
かつては神の威光を象徴していたその塔が、今はまるで、今にも倒れそうな老人のように不安定に揺れている。
その真下。
静まり返った聖堂の地下墓地に、私たちはいた。
「バレット様。この扉を、強引に開けられますか?」
私は、苔むした巨大な石扉を指差した。
ただの石の扉ではない。私の診断眼には、扉の奥から「超高圧の魔力」が漏れ出しているのが見えている。
「ヒッハァ……! 任せろ、お嬢ちゃん。……おい、若造ども! ボヤボヤすんじゃねぇ! 魔力をこの砕岩ゴーレムに注ぎ込め! 死にたくなければな!」
泥だらけになった貴族の工兵たちが、文字通り泣きながら魔法を振り絞る。
轟音。
三百年間、誰の侵入も許さなかった禁域の扉が、物理的な衝撃で粉砕された。
扉の向こう側から。
冷たい、無機質な風が吹き抜けた。
「……何、これ……」
一番に踏み込んだケインが、その光景に言葉を失った。
そこは、石造りの聖堂とは完全に隔絶された異空間だった。
壁は鈍く光る金属のような素材で覆われ、天井からは無数の魔力回路(光る配管)が血管のように張り巡らされている。
中央に鎮座していたのは、巨大な……本当に、巨大な「心臓」のような構造物だった。
「……心臓じゃない。これ、……『メイン・スクリュー』だわ」
私は、前世で見た大規模工業プラントの光景を思い出した。
「神よ、あんた、こんな物の上に都市を作ったのか……」
バレットでさえ、そのスケールの大きさに毒気を抜かれている。
巨大なシリンダーが、ゆっくりと上下運動を繰り返している。
その動作のたびに、王都全体が「ビクン」と震える。
そして、そのシリンダーの隙間からは、真っ黒な魔力の廃液が、大量の煙となって漏れ出していた。
『――警告。冷却プロセス、最終段階に移行。……全セクターのパージを開始します』
空間全体に、無機質な声が響き渡った。
魔法の概念を超えた、純粋なシステムの音声。
「警告? パージ(排除)って……、王都を捨てるっていうの!?」
『――肯定。地盤の損耗率、閾値を超過。不適合構造物を全消去し、地盤の再構築を開始。……完了まで、残り五時間五十九分』
「……。勝手なこと、言わないでよ」
私は、コントロールパネルと思われる光り輝く石板の前に立ち、図面(設計図)を叩きつけた。
「アリーナ様、何をするつもりですか!? 相手は神のシステムですよ!」
「神だろうが仏だろうが関係ないわ。……この設計、……『致命的なバグ(誤字)』があるわ。……バレット様、ケイン! 準備して!」
私は、診断眼をフルスロットルで稼働させた。
システムの構造、論理の穴、そして物理的なひずみ。
全てが、私の脳内にデジタルデータのように流れ込んでくる。
「冷却に失敗しているのは、外部の熱のせいじゃない。……内部の『循環』が詰まっているせいよ。……だったら、無理やり流し(・)通し(・)て(・)や(・)る(・)わ(・)」
「やり方は!?」
「あ(・)え(・)て(・)壊す(・)のよ。……このメイン・シリンダーを、重力魔法で一度『圧縮』する。……その後で、一気に解放して、詰まりを吹き飛ばす!」
バレットがニヤリと笑った。
「ケッ、ド素人が聞いたら、爆破テロにしか聞こえねぇな。……最高だぜ、お嬢ちゃん!」
「……三話以内に、この王都を『元の位置』に戻してみせるわ。……デバッグ開始よ!」
私は、光り輝く操作盤に手を掛けた。
一級建築令嬢。
彼女の戦いは、ついに「世界のプログラム」そのものを書き換える領域へと突入した。
第12話、お読みいただきありがとうございました!
本作『建築魔法・救世令嬢〜断罪の場で「この王都、あと3日で沈みます」と予言した結果〜』、ついに姿を現した世界の心臓部篇でした。
中世ファンタジーの地下に、無機質な超古代システムが眠っている……このギャップこそが本作の鍵ですわ。神だろうがシステムだろうが、バグがあれば「物理的にデバッグ」するのがアリーナの流儀。いよいよ世界の根幹をハックしますわよ!
次回、第13話「最終防衛ライン:王立墓地地下」。
世界の管理システムとアリーナの、建築学的知略を競う「ログイン・バトル」が始まりますわ!
もし「この先のデバッグが楽しみ!」と思っていただけたら、最後に建築確認や評価(建設予算の増額)をお願いいたしますわ。
皆様の魔力供給という名の「ボーナス」が、システムの再起動を成功させる最後の一押しになりますのよ!




