第8話 婚約者が王位継承者になってしまったようです
王城・円卓会議室
重臣たちが沈黙していました。
理由は明白。
「王位継承権保持者が確認された」
王太子殿下の宣言。
視線が一斉に向く。
――カイル様へ。
普段は騎士服の彼が、今日は正装でした。
似合いすぎています。
悔しいほどに。
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「馬鹿な」
「平民だぞ」
「血統確認は?」
ざわめき。
王太子が書類を置きました。
「王家紋章反応、魔術認証、記録一致」
逃げ道なし。
「よってカイル・グレイは」
一拍。
「王位継承順位第三位とする」
空気が割れました。
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ですが。
当の本人は。
「辞退できますか」
真顔。
貴族たちが固まりました。
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「俺は騎士です」
静かな声。
「政治をする気はありません」
その瞬間。
重臣の一人が言い放ちます。
「では王弟殿下に王位を譲るのか!」
室内が凍る。
王弟の名が出た瞬間。
全員が理解しました。
これはもう個人の問題ではない。
国家の均衡。
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カイル様が言葉を失った時。
「ならば簡単ですわ」
気づけば、わたくしは立っていました。
「婚約者として申し上げます」
全員の視線。
「彼は政治をしません」
ざわめき。
「わたくしが補佐いたします」
……言ってから気づきました。
何を宣言しているのでしょう、わたくし。
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カイル様がこちらを見る。
「レティシア様?」
「婚約者ですもの」
当然の顔をしました。
なぜか王太子殿下が笑いを堪えています。
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――その夜
「なぜあんなことを」
廊下で呼び止められました。
珍しく彼が困った顔です。
「困りますか?」
「困るというか……」
言葉を探している。
「俺はあなたを巻き込みたくない」
真剣な声。
だからこそ。
「もう巻き込まれておりますわ」
即答しました。
「毒も暗殺も経験済みですもの」
沈黙。
そして小さく笑う彼。
「……強いですね」
「貴族令嬢ですので」
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その時。
遠くで鐘が鳴りました。
緊急連絡。
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――王弟側視点
薄暗い私室。
王弟は報告を聞いていました。
「継承権、正式認定されました」
「そうか」
穏やかな声。
怒りはない。
むしろ満足そうでした。
「これで舞台が整った」
「次の手は?」
王弟は窓の外を見ます。
「彼は優しすぎる」
静かな確信。
「守るものがある者は必ず選択を誤る」
机の上には肖像画。
若き日の王。
そして隣に立つ女性。
――レティシアの母。
「十年前、国は変わるはずだった」
指が肖像画をなぞる。
「今度こそ完成させる」
微笑む。
「王を入れ替えることでね」
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――王城中庭
夜風。
沈黙。
「怖くありませんか」
彼が聞きました。
「王位争いです」
少し考え。
「怖いですわ」
正直に答える。
「ですが」
一歩近づく。
「あなたが隣にいるので」
彼が息を止める。
月明かり。
距離が近い。
最近、本当に近いです。
「……守ります」
彼が言う。
「何があっても」
思わず笑ってしまいました。
「それ、もう聞きましたわ」
「では訂正します」
少しだけ柔らかい声。
「一緒に乗り越えましょう」




