第7話 婚約者の過去が国家機密だったようです
王城襲撃の翌朝。
城内は厳戒態勢でした。
ですが。
「封印庫の記録が盗まれました」
王太子殿下の言葉に、空気が凍ります。
「十年前事件の完全記録ですか」
「その通り」
つまり。
敵はもう――真実を知っている。
⸻
封印庫調査
破壊跡はありません。
「内側から開けられています」
カイル様が即座に言いました。
「鍵は三系統」
殿下が指を折ります。
「王、王太子、そして――王妃」
沈黙。
つまり犯人は。
王族に近い人物。
⸻
床にわずかな傷。
カイル様が膝をつきます。
「これ…騎士団の軍靴です」
「内部の騎士?」
「いいえ」
彼の声が低くなる。
「旧式。十年前に廃止された型」
背筋が冷えました。
「十年前の関係者が生きている」
⸻
記憶の再燃
その瞬間。
カイル様の動きが止まりました。
「……匂い」
「?」
「同じです」
封印庫の空気を吸い込む。
「夢で感じた毒の匂い」
彼の視界が揺れる。
⸻
――断片
炎。
争う騎士。
誰かを守る大人。
泣く少年。
そして。
床に倒れた女性。
金色の髪。
王族の装束。
『この子を連れて逃げて』
血の付いた手。
『王家を――』
記憶が途切れる。
⸻
カイル様が壁に手をつきました。
「思い出した…」
震える声。
「俺は……逃げたんじゃない」
ゆっくり顔を上げる。
「逃がされた」
⸻
その時。
拍手が響きました。
⸻
黒幕の登場
「素晴らしい推理だ」
回廊の奥。
一人の男性が立っていました。
豪奢な衣装。
穏やかな笑顔。
そして王族の証。
「叔父上……」
王太子殿下の声が硬くなる。
――王弟殿下。
第二王位継承者。
⸻
「なぜここに」
殿下が問う。
王弟は微笑みます。
「事件の被害者だからだよ」
静かな言葉。
「十年前、王妃候補争いで私は敗れた」
「だから母を?」
思わず口にしていました。
王弟は否定しません。
「王は弱かった。派閥に操られていた」
一歩近づく。
「国を正す必要があった」
⸻
視線がカイル様へ向く。
「そして君だ」
空気が凍る。
「君は覚えていないだろうが」
ゆっくり告げる。
「本来、王位継承権を持っていた子供」
――。
時間が止まりました。
⸻
「……何を言っている」
カイル様の声が低い。
王弟は穏やかに笑う。
「君は王の隠し子だ」
⸻
沈黙。
わたくしの思考が追いつきません。
王太子殿下も黙ったまま。
「王妃候補毒殺事件は失敗した」
王弟は続けます。
「だから子供だけでも消す必要があった」
「だが騎士団が裏切った」
カイル様の拳が震えています。
⸻
「安心しなさい」
王弟が優しく言いました。
「今回は殺さない」
「……目的は」
王太子が問う。
「王位継承争いを完成させること」
微笑み。
「君たち二人が揃った今こそね」
⸻
次の瞬間。
煙玉。
視界が白に染まる。
「待て!」
兵士の声。
煙が晴れた時。
王弟の姿は消えていました。
⸻
静寂
誰も動けません。
やがて。
「……俺が王族?」
カイル様が呟く。
その声は迷子の子供のようでした。
わたくしは自然に手を取りました。
「関係ありませんわ」
「え?」
「あなたが誰であろうと」
視線を合わせる。
「わたくしの婚約者である事実は変わりません」
沈黙。
彼の瞳が揺れる。
「……それ、偽装ですよね」
「今は」
少しだけ微笑みました。
「今は、です」




