第6話 王城では婚約者の距離が近すぎるようです
王城滞在。
それはつまり。
「同じ区画を用意した」
王太子殿下がさらりと言いました。
「警備効率の問題でね」
嘘ですわね。
絶対に面白がっています。
⸻
「こちらが客室になります」
案内された部屋は豪奢そのもの。
ですが問題はそこではありません。
扉を開けた瞬間。
隣室へ続く内扉。
そして。
「護衛室はこちらです」
――直結。
「殿下」
「安全第一だ」
笑顔が胡散臭い。
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夜。
王城は静かでした。
ですが。
わたくしは眠れません。
理由?
隣に婚約者がいるからではありません。
本当に。
本当に違います。
……少ししか。
⸻
コン、と軽いノック。
「起きていますか」
カイル様でした。
「どうぞ」
入ってきた彼は珍しく落ち着かない様子。
「……夢を見ました」
「夢?」
「知らない場所なのに、知っている気がする」
彼の視線が揺れています。
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――記憶の断片
炎。
叫び声。
倒れた女性。
金の装飾。
そして。
『逃げなさい』
誰かが少年を押し出す。
灰色の瞳の少年。
扉が閉まる。
毒の匂い。
――そこで目が覚める。
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「十年前の夜かもしれません」
彼が低く言いました。
「怖いですか?」
思わず聞いていました。
騎士に向ける言葉ではありません。
ですが彼は少し考えて。
「……わからない」
と答えました。
「ただ」
こちらを見る。
「あなたが危険な場所にいる気がして」
心臓が一拍、強く鳴りました。
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その時。
外で足音。
次の瞬間。
警鐘が鳴り響きました。
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――王城・中央回廊
「侵入者!?」
侍従が叫びます。
王城内部で襲撃などあり得ない。
つまり。
内部協力者がいる。
「殿下の区画へ向かっています!」
兵士の報告。
カイル様の顔が変わりました。
「囮だ」
「え?」
「本命は別」
彼の視線がわたくしへ向く。
理解しました。
狙いは――わたくし。
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窓が割れる。
黒装束。
今までより動きが速い。
訓練された暗殺者。
ですが。
剣が一閃。
カイル様が前に出る。
「下がってください」
声が冷たい。
完全な戦闘の声。
数合で二人を制圧。
残り一人が毒針を投げた瞬間。
彼は迷わず――
わたくしを抱き寄せました。
針が壁に突き刺さる。
距離、ゼロ。
呼吸が重なる。
「……無事ですか」
「え、ええ」
近いです。
本当に近いです。
⸻
暗殺者が笑いました。
「遅い」
その言葉と同時。
遠くで爆発音。
王城が揺れました。
⸻
――地下回廊(同時刻)
影の人物が立ち上がる。
「成功だ」
「王太子区画への陽動、完了」
「目的は?」
影は静かに答える。
「封印庫だ」
扉が開かれる。
中に保管されていたのは――
十年前の事件記録、完全版。
「真実は、我々が使う」
書類を手に取り、微笑む。
「さあ、第二幕だ」
⸻
――王城客室
騒ぎが収まり。
静寂が戻る。
ですが。
カイル様が離れません。
「あの」
「はい」
「もう安全です」
「……確認中です」
嘘です。
絶対に。
数秒後、彼が気づいたように離れました。
「申し訳ありません」
「本日二回目ですわね」
「記録更新です」
思わず笑ってしまいました。
そして気づきます。
怖かったはずなのに。
安心している自分に。




