表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしの婚約者となる方が全く予想外の人物だった件。  作者: あめとおと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

第3話 騎士、社交界で伝説になる



 毒未遂事件の翌日。


 王都は大騒ぎでした。


 当然です。


 公爵令嬢暗殺未遂。


 しかも王城夜会の最中。


 これはもう、社交界的には最高級の話題でございます。



「犯人は見つかりませんでした」


 カイル様が報告します。


 現在、わたくしのサロン。


「グラスはすり替えられていた可能性が高いと」


「予想通りですわね」


 犯人は素人ではありません。


 毒の量。

 タイミング。

 逃走経路。


 すべてが計算されている。


「貴族内部の犯行でしょう」


 わたくしが言うと、彼は頷きました。


「騎士団も同意見です」


「ですが証拠がない」


「はい」


 つまり――


 社交界で探るしかない。



「では本日から実践訓練です」


「またですか」


「またです」



 本日の舞台。


 伯爵夫人主催・昼の茶会。


 情報戦の最前線。


 そして。


「帰っていいですか」


「だめです」


 二回目ですわね、この会話。



 会場に入った瞬間。


 視線。


 視線。


 視線。


 貴婦人たちが一斉に扇子を上げました。


「噂の騎士様ね」

「本当に連れてきたの」

「まあ大胆」


 カイル様の背筋が戦闘態勢になります。


「囲まれています」


「それを社交と言います」



「レティシア様!」


 夫人が笑顔で近づきます。


「こちらが婚約者様?」


「ええ」


 紹介の時間です。


 ここが最初の関門。


「カイル・グレイです」


 完璧な礼。


 ……おや。


 練習の成果が出ています。


 夫人がにこやかに尋ねました。


「レティシア様のどこに惹かれましたの?」


 危険質問。


 通常ここは曖昧に答える場面。


 わたくしは内心で祈りました。


(模範回答を……!)


 彼は真顔で答えました。


「強そうなところです」


 沈黙。


 完全沈黙。


 誰かが紅茶を吹きました。



「強そう、とは?」


 夫人が震え声で聞き返します。


「はい。暗殺者より怖いので安全だと判断しました」


 だめです。


 教育が追いついていません。


 ですが――


 貴婦人たちが、なぜか笑い始めました。


「まあ正直!」

「嫌いじゃないわ」

「新鮮ね!」


 ……成功?


 理解しました。


 社交界は退屈していたのです。


 予定調和ではなく、“異物”を。


 そしてカイル様は。


 完全なる異物。



 その時。


 わたくしは気づきました。


 奥の席。


 ひとりだけ笑っていない貴婦人。


 ラングレー侯爵夫人。


 王政反対派の中心人物。


 彼女の視線が――


 カイル様ではなく。


 わたくしの手元のカップを見ている。


 次の瞬間。


「飲まないでください」


 小声。


 カイル様でした。


「匂いが違う」


 騎士の感覚。


 わたくしは自然な動作でカップを置きます。


「少し席を外しますわ」


 立ち上がると同時に。


 夫人の表情が、ほんの一瞬だけ崩れました。


 ――確定です。



 庭園へ出ると、カイル様が低く言いました。


「毒ですね」


「ええ」


「昨夜と同じ系統」


「つまり犯人は同一、あるいは同派閥」


 彼は少し考え込みました。


「ひとつ気になることが」


「?」


「毒を入れる瞬間を、誰も見ていない」


「当然ですわね」


「ですが」


 灰色の瞳が鋭く細まります。


「視線誘導があった」


「……」


「全員が俺を見ていた」


 そこでわたくしは理解しました。


 思わず笑ってしまいます。


「なるほど」


「何がです?」


「あなた、囮に使われていますわ」


「……え?」


「社交界があなたに夢中な間に、毒が入れられる」


 沈黙。


 そして彼は真顔で言いました。


「俺、役に立っています?」


「非常に」



 その時。


 背後から拍手。


「さすがだな、レティシア」


 振り返ると。


 王太子殿下。


「もう二度目の接触に気づいたか」


 やはり。


 これは偶然ではない。


「殿下、この婚約」


「うん」


 軽く笑います。


「王宮内の裏切り者を炙り出すためだ」


 そしてカイル様を見て。


「君は最高の配置だったよ」


「……理由を聞いても?」


「貴族は全員、互いを疑う」


 殿下は肩をすくめました。


「だが“平民”は誰の派閥でもない」


 静かな沈黙。


「つまり」


 わたくしが言いました。


「わたくしたちは餌」


「そういうこと」


 殿下は楽しそうに微笑みます。



 帰りの馬車。


 カイル様がぽつり。


「……危険ですね」


「ええ」


「婚約、解除しますか?」


 わたくしは即答しました。


「お断りします」


「なぜ」


 窓の外を見ながら答えます。


「退屈しませんもの」


 すると彼は、小さく笑いました。


 初めて見る、自然な笑顔でした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ