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わたくしの婚約者となる方が全く予想外の人物だった件。  作者: あめとおと


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第17話 王は逃げない




 王城の鐘が、夜を裂いて鳴り響いていました。


 火の手は西塔から中央庭園へ広がり、兵士たちの怒号が石壁に反響する。


 戴冠式前夜。


 本来もっとも守りが厚いはずの夜に――王城は戦場になっていました。


「侵入経路、三か所!」


「内部協力者あり!」


 報告が飛び交う。


 混乱。


 恐怖。


 そして何より。


 指揮系統の空白。


 まだ王は存在しない。


 だからこそ敵は今を選んだ。




「カイル様」


 レティシアは彼の袖を軽く引いた。


「地下へ避難を――と言われるでしょうね」


「言われています」


 彼は苦笑する。


「全力で」


 次の瞬間。


 カイルは進路を変えた。


 地下ではなく。


 ――正面大階段へ。


「殿下!?」


 近衛騎士が止める。


「危険です!」


 だが彼は立ち止まらない。


「だから行くんです」


 静かな声。


「王が最初に消えたら、誰が残る」


 騎士たちが言葉を失う。




 王城正門前。


 避難途中の貴族、使用人、兵士、そして王都から集まった民が混乱していた。


「襲撃だ!」


「王城が落ちるぞ!」


 恐怖は伝染する。


 暴動寸前。


 その時。


 階段の上に人影が現れた。


 炎を背に立つ青年。


 カイルだった。


 ざわめきが止まる。


「聞いてください」


 声は大きくない。


 だが、不思議なほど通った。


「王城は落ちません」


 断言。


「私がここにいる限り」


 人々が息を呑む。


 逃げない。


 隠れない。


 未来の王が、最前線に立っている。




 レティシアは一歩前へ出た。


「皆様、ご安心くださいませ」


 優雅な礼。


 まるで夜会のような声音。


「敵の目的は恐怖です」


 群衆の視線を集める。


「恐怖は判断を奪います」


 一拍。


「ですが――理性は奪えません」


 侍女たちへ視線を送る。


「負傷者誘導を開始なさい」


「はい!」


「貴族の皆様、避難区画の管理をお願いいたします」


 自然と人が動き始める。


 混乱が秩序へ変わる。


 戦場が――社会へ戻る。


 カイルが小さく呟いた。


「……すごいな」


「婚約者ですもの」


 微笑みだけ返る。




 その時。


 城門の上から声が響いた。


「実に美しい光景だ」


 全員が振り向く。


 黒衣の男。


 仮面を外す。


 年老いた貴族。


 貴族会議でも発言力を持っていた侯爵だった。


「革命派……!」


 兵が剣を抜く。


 男は笑った。


「違う。我々は“未来派”だ」


 腕を広げる。


「王に依存する国は滅びる」


「だから象徴に変える?」


 カイルが問う。


「その通り」


 満足げな頷き。


「強い王など不要だ。人は平等に統治すべきだ」


 思想。


 これが敵の正体。




「では聞きます」


 カイルが言う。


「民が飢えた時、誰が責任を取る」


 男は答えない。


「戦争が起きた時、誰が決断する」


 沈黙。


「責任なき統治は、誰も守れない」


 カイルの声が強くなる。


「王とは特権ではない」


 一歩前へ。


「責任そのものだ」


 空気が変わる。


 兵士たちの背筋が伸びる。


 民の目に光が戻る。




 革命派の男が冷笑した。


「理想論だ」


 合図。


 暗殺者が一斉に飛び出す。


 その瞬間。


 空気が沈んだ。


 重圧。


 魔力が広がる。


 カイルの瞳が淡く光る。


「下がってください」


 低い声。


 剣が抜かれる。


 一閃。


 圧倒的な制圧。


 誰も近づけない領域。


 人々が理解する。


 ――王だ。




 革命派の男が後退する。


「……なるほど」


 悔しげに笑う。


「王が生まれたか」


 煙幕。


 姿が消える。


「逃げたか」


 騎士が叫ぶ。


 だが王弟が静かに言った。


「いや」


 遠くを見る。


「決戦は明日だ」




 炎はまだ消えていない。


 だが恐怖は消えていた。


 人々の視線は一人に集まる。


 カイル。


 まだ戴冠していない王。


 彼が振り返る。


「レティシア」


「はい」


「……隣にいてくれてありがとう」


 彼女は微笑んだ。


「今さらですわ」




 戴冠前夜。


 王は逃げなかった。


 だから国も崩れなかった。





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