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わたくしの婚約者となる方が全く予想外の人物だった件。  作者: あめとおと


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第15話 王と王妃の条件




 王城大広間に、重い鐘の音が響いた。


 三度。


 王位継承に関わる正式招集の合図。


 レティシア・フォン・アルヴェインは、深紅の絨毯の上を静かに歩いていた。


 左右には貴族たち。


 視線が突き刺さる。


 好奇、警戒、計算、そして――値踏み。


(ええ、分かっています)


 彼らが見ているのは私ではない。


 “未来の王妃候補”だ。


 玉座には、国王陛下。


 その一段下に、カイル。


 もう以前の彼ではない。


 姿勢、視線、空気。


 覚悟を持った者のそれだった。


 そして宰相が宣言する。


「本日、王位継承権第一位として――カイル・グレイ・ヴァルディア殿下を正式に指名する」


 ざわめきが広がる。


 だが反対の声は上がらない。


 王弟派の失脚により、表立った抵抗は消えていた。


 ――表向きは。


「続いて」


 宰相の声が一段低くなる。


「次代王妃に関する審議を開始する」


 来た。


 私は静かに前へ進み出る。




「レティシア・フォン・アルヴェイン嬢」


「はい」


「貴女には三つの問いが与えられる」


 老侯爵が前へ出た。


 典型的な保守派。


 つまり――試す側。


「第一。王妃とは何だと思うか」


 予想通り。


 正解のない問い。


 私は一瞬だけ考え、答えた。


「王を支える者ではありません」


 ざわつき。


「ほう?」


「王が誤った時、止める者です」


 空気が変わる。


「王と同じ方向を見るのではなく、国を見る存在。それが王妃だと考えます」


 沈黙。


 玉座の上で、国王がわずかに笑った。




「第二の問い」


 別の公爵が口を開く。


「王が民と貴族、どちらかを選ばねばならぬ時、貴女はどうする?」


 罠だ。


 どちらを選んでも敵を作る。


 だが――。


「選ばせません」


 即答だった。


「対立構造を放置した時点で政治の敗北です」


 貴族たちの眉が動く。


「王が選択を迫られる前に、道を作る。それが王妃の役目です」


 数名が小さく頷いた。




「では最後」


 空気が張り詰める。


「貴女にとって、王とは何か」


 私は、カイルを見た。


 彼もこちらを見ている。


 昔なら困った顔をしただろう。


 今は違う。


 信じて任せている目だった。


 だから私は、正直に言った。


「共に責任を背負う人です」


 静かに続ける。


「敬うだけの存在でも、従うだけの存在でもありません」


 一歩前へ。


「隣に立つ人です」


 完全な沈黙。


 やがて――。


 国王が手を叩いた。


 一度だけ。


「十分だ」




 その時だった。


「お待ちください!」


 声が響く。


 若い伯爵が前へ出た。


 王弟派の残党。


「アルヴェイン家は近年急速に勢力を伸ばしております! 王妃となれば権力集中は明白!」


 来た。


 政治的攻撃。


 だが私は口を開かなかった。


 代わりに。


「それは違う」


 声が響いた。


 カイルだった。


 彼が一歩前へ出る。


「彼女が王妃になるのは、家の力ではない」


 真っ直ぐに言う。


「俺が必要としているからだ」


 広間が静まり返る。


「彼女は俺に従わない。だから信頼できる」


 誰も反論できない。


 それは王としての発言だった。




 国王が立ち上がる。


「レティシア・フォン・アルヴェイン」


「はい」


「次代王妃候補として認める」


 鐘が鳴る。


 決定だった。




 夜の回廊、式が終わった後。


 人気のない回廊で、カイルが深く息を吐いた。


「……心臓止まるかと思った」


「王になる方の発言とは思えませんね」


「うるさい」


 少し沈黙。


 彼が言う。


「怖くなかったのか」


「怖かったですよ」


 私は笑う。


「でも」


 一歩近づく。


「あなたが隣にいましたから」


 カイルは少し驚いた顔をして、そして苦笑した。


「……逆だと思ってた」


「何がです?」


「俺が支えられてる方だって」


 私は首を傾げる。


「今さら気づいたのですか?」


 彼は小さく笑い、そして真剣な顔になる。


「レティシア」


「はい」


「一緒に王になってくれるか」


 それは求婚ではない。


 共犯の誘いだった。


 私は淑女の礼を取り、答える。


「最初からそのつもりですわ、殿下」


 月明かりの下。


 未来の王と王妃が、初めて同じ歩幅で並んだ。






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