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わたくしの婚約者となる方が全く予想外の人物だった件。  作者: あめとおと


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第12話 守るものを奪う者



王城・夜、勝利の余韻は、長く続きませんでした。


 貴族会議が終わった夜。


 王城は異様なほど静かでした。


 静かすぎる夜は、たいてい良くないことが起きます。


「警備が増えていますわね」


 回廊を歩きながら呟くと、護衛騎士が頷きました。


「本日より警戒態勢です」


 革命派蜂起。


 国内各地で小競り合い。


 ですが――


 本命は別。


 そんな予感が消えません。




「時間がないな」


 王弟殿下は独り、地図を見ていました。


 赤い印。


 蜂起地点。


 すべてが一本の線で繋がる。


「王城へ誘導している」


 敵の狙いは反乱ではない。


 ――象徴の破壊。


「王を殺す必要はない」


 静かに呟く。


「希望を折ればいい」


 だから。


 狙われるのは。


「……レティシア嬢か」




 庭園、夜風が冷たい。


 少しだけ考えを整理したくて、外へ出ました。


 噴水の水音。


 月明かり。


 平穏に見える景色。


「お一人ですか」


 声。


 振り返る。


 見知らぬ侍女。


 ――違和感。


 視線が合った瞬間。


 殺気。


「!」


 袖から短剣。


 速い。


 護衛が反応する前。


 距離ゼロ。




 避けきれない。


 そう思った瞬間。


 影が割り込んだ。


 金属音。


 剣が弾く。


「遅れてすみません」


 低い声。


 カイル様。


 息が乱れている。


 走って来たのです。


「下がって!」


 侍女が仮面を落とす。


 革命派の紋章。


「やはり貴女でしたか」


 女暗殺者が笑う。


「王を殺しても意味はない」


 一歩後退。


「希望を壊す方が早い」


 視線が私へ向く。


「あなたが死ねば、彼は王になれない」




 カイル様の剣が揺れた。


 ほんの僅か。


 それを敵は見逃さない。


「ほら」


 囁く。


「もう判断が鈍っている」


「黙れ」


 低い声。


「守るものがある王は弱い」


 一言一言が毒。


「だからこの国は滅びかけた」


 十年前と同じ思想。


 理解した。


 彼らにとって“愛”は欠陥なのです。




 暗殺者が毒針を放つ。


 二方向。


 私と彼。


 同時。


 どちらかしか守れない角度。


「――!」


 彼が動く。


 迷いなく。


 こちらへ。


 剣が毒針を叩き落とす。


 だが。


 もう一本。


 彼の腕に刺さった。


「カイル様!」


 暗殺者が笑う。


「正解だ」


「それでいい」


「王になれない選択をし続けろ」


 煙玉。


 姿が消える。




 彼が膝をついた。


「毒です!」


 護衛が叫ぶ。


 顔色が急速に悪くなる。


「……平気です」


 全然平気ではない声。


「大丈夫ですわ、すぐ医務室へ」


 手を取る。


 冷たい。


 こんな温度、初めてでした。






「神経毒です」


 医師が言う。


「致命的ではありませんが……強力です」


 眠る彼。


 静かすぎる呼吸。


 胸が締めつけられる。


 ああ。


 理解してしまいました。


 怖いのは戦争ではない。


 この人を失うこと。




 背後から声。


「計算通りだ」


 振り返る。


 王弟殿下。


「……計算?」


「敵は必ず彼女を狙う」


 淡々とした声。


「だから囮にした」


 理解が遅れて訪れる。


「……わたくしを?」


「違う」


 一拍。


「カイルをだ」


 息が止まる。


「王は選ばねばならない」


 静かな視線。


「国か、人か」


「彼は人を選んだ」


 わずかに笑う。


「安心したよ」




 王弟が去った後。


 静かな部屋。


 眠る彼の手を握る。


「……ずるい方ですわ」


 小さく呟く。


「守られるだけのつもりでしたのに」


 指を握り返された。


 微かな力。


 目は閉じたまま。


「……離れないで」


 かすれ声。


 反射的に答える。


「離れません」


 もう迷いはありませんでした。


「婚約者ですもの」




 窓の外。


 遠くで炎が上がる。


 革命は始まった。


 そして。


 この戦いはもう――


 国家ではなく。


 二人の未来の戦いになっていた。






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