第11話 貴族会議開戦 ― 婚約者、社交界を制圧する
王城・大議場、空気が重い。
それだけで、今日が戦場だと分かりました。
半円状に並ぶ貴族席。
上位貴族、地方領主、宮廷官僚。
――全員が敵になり得る場所。
「緊張していますか」
隣から小声。
カイル様です。
「いいえ」
扇を開く。
「少し楽しみなくらいですわ」
彼がわずかに笑いました。
「頼もしい」
以前なら守る側だった人。
今は。
共闘者。
王弟殿下が立ち上がる。
「本日の議題は二つ」
静かな声が広間を支配する。
「第一に、王位継承者襲撃事件」
ざわめき。
「第二に――国家正式婚約の承認である」
爆発。
「なぜ同時に!?」
「私情ではないか!」
予想通り。
反発は婚約へ集中する。
つまり。
議論の主導権はこちら。
最初の攻撃、侯爵が立ち上がる。
「レティシア嬢」
名指し。
「あなたは政治経験がない」
来ました。
「王妃候補として相応しいとは思えぬ」
笑顔を崩さない。
「ご指摘ありがとうございます」
一礼。
「では質問をお許しくださいませ」
場が静まる。
「侯爵家は三年前、北方交易税の改正に反対なさいましたね」
「……それがどうした」
「結果として密輸が増え、国庫損失が発生しました」
資料を差し出す。
ざわめき。
「政治経験とは、“肩書き”でしょうか」
一拍。
「それとも“結果”でしょうか」
沈黙。
侯爵、着席。
――一人目、終了。
次々に質問が飛ぶ。
「婚約は王家の権力集中では!」
「平民出自を優遇している!」
すべて予測済み。
「誤解がございますわ」
柔らかく返す。
「今回の婚約で利益を得るのは王家ではなく」
視線を巡らせる。
「地方領主の皆様です」
空気が変わる。
「継承争いが消えることで、徴税と軍動員が安定します」
地方貴族がざわつく。
味方が生まれる瞬間。
「つまりこれは恋愛ではなく」
微笑む。
「国家安定策です」
反論不能。
隣を見る。
彼は黙っていた。
介入しない。
信じて任せている。
だから。
わたくしも一歩踏み込む。
「では次に」
声を少し落とす。
「襲撃事件について」
空気が凍る。
「王城内部協力者が存在しました」
騒然。
「現在もこの場にいる可能性があります」
椅子が軋む音。
視線が泳ぐ。
「証拠はあるのか!」
叫び。
待っていました。
「ええ」
書簡を掲げる。
「十年前の王命偽造記録です」
ざわめきが恐怖へ変わる。
「革命派――そう呼ばれる思想集団」
言葉を選ぶ。
「王を否定するのではなく、“弱くする”思想」
数名の顔色が変わった。
確信。
当たり。
王弟が静かに言う。
「名前を読む」
広間が息を止める。
次々と呼ばれる貴族名。
青ざめる者。
立ち上がる者。
「冤罪だ!」
「証拠を!」
王弟が微笑む。
「証人がいる」
扉が開く。
護衛に連れられた人物。
十年前の記録官。
沈黙が崩壊した。
混乱の中。
カイル様が立ち上がる。
初めて。
王としての声。
「静粛に」
一言。
それだけで全員が黙った。
圧。
覚醒した王族の威圧。
「私は王になるつもりだ」
まっすぐ。
「だが恐怖で統治する気はない」
一歩前へ。
「共に国を守る者を求める」
そして。
こちらを見る。
「だから彼女を選んだ」
広間が静まる。
「政略ではない」
一拍。
「信頼だ」
――完全勝利。
会議終了後、回廊。
人払いされた静かな空間。
「……疲れましたわ」
扇を閉じると。
彼が笑った。
「恐ろしいほど強かった」
「褒め言葉として受け取ります」
少し沈黙。
彼が真剣な顔になる。
「今日、確信しました」
「何をです?」
「あなたが隣にいれば、王になれる」
予想外の言葉に、少しだけ息が止まる。
「責任重大ですわね」
「共犯ですから」
思わず笑ってしまった。
その時。
遠くで鐘が鳴る。
王城警戒鐘。
兵が走る音。
「……早すぎる」
カイル様が呟く。
伝令が駆け込んできた。
「報告!」
息を切らし。
「革命派、各地で蜂起!」
政治戦は終わった。
次は――
本物の戦争。




