第10話 すべてが繋がった夜
王城・記録塔(封鎖区域)
夜の王城は、昼とは別の生き物のようです。
灯りは少なく、足音だけがやけに響く。
「本当に入ってよろしいのですか」
わたくしが小声で尋ねると、カイル様は苦笑しました。
「よくはありません」
鍵を回す。
「ですが、今知らなければ手遅れになる」
扉が開いた瞬間。
冷たい空気が流れ出しました。
――十年前の記録庫。
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■初めての共同戦線
机に資料を広げる。
自然と役割が分かれました。
彼は政治構造を見る人。
わたくしは人間関係を見る人。
「粛清対象、三十七家」
「ですが没落したのは二十一家のみですわ」
「……差があるな」
視線が交わる。
同時に気づく。
「生き残りがいる」
「ええ。そして――」
名簿の端。
共通する印。
王城内部役職経験者。
「内側から選別されています」
つまり。
粛清は排除ではない。
選抜。
誰かが、王城を作り替えようとしていた。
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■王弟の過去
奥の棚。
封印文書。
開封権限――王弟。
「……読む覚悟はありますか」
問いではない。
確認でした。
カイル様は頷く。
封を切る。
中にあったのは報告書ではなく。
日記。
王弟自身の筆跡。
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王は優しすぎる。
この国は、優しさでは守れない。
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ページをめくる。
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偽命令だと知った。
だが止めれば王権が崩壊する。
私が悪になるしかない。
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息が止まりました。
「……身代わり」
カイル様が呟く。
王を守るため。
王家を守るため。
すべての憎しみを引き受けた。
だから彼は歪んだ。
孤独の中で。
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■母世代の真実
最後の箱。
わたくしは凍りました。
封蝋。
アルヴェイン公爵家。
「……母の印です」
中にあったのは調査記録。
作成者――母。
そして結論。
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王命偽造の首謀者は貴族連盟内部。
目的:王権弱体化後の合議制国家樹立。
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「……革命派」
カイル様が低く言う。
王を倒すのではない。
王を“象徴”へ落とす思想。
「だから継承者が邪魔だった」
「強い王が生まれる前に潰す必要があった」
そして。
最後の一文。
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次の標的は、王弟殿下。
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沈黙。
全部が繋がった。
王弟は加害者ではない。
次の犠牲者だった。
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■扉の向こう
その時。
背後で拍手。
「満点だ」
振り返る。
王弟が立っていました。
静かな笑み。
「そこまで辿り着いたか」
カイル様が前へ出る。
「……なぜ黙っていたのです」
「王を守るためだ」
即答。
「真実は時に国を壊す」
視線がこちらへ向く。
「だが今は違う」
一歩近づく。
「敵が動き出した」
低い声。
「十年前の“思想”が復活した」
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■全部繋がった瞬間
わたくしは理解しました。
婚約。
襲撃。
覚醒。
すべて偶然ではない。
「わたくしたちは――」
言葉が自然に出る。
「餌だったのですね」
王弟が笑う。
「半分正解だ」
そしてカイル様を見る。
「もう半分は試験だ」
「試験?」
「王になる資格のな」
静寂。
王弟の声が落ちる。
「守るために戦うか」
「守るものを切り捨てるか」
一拍。
「お前はどちらを選ぶ?」
カイル様は迷わなかった。
「両方守ります」
即答。
王弟の目が見開かれる。
「無理だと笑われても構いません」
彼は続けた。
「それでも選びます」
そして。
わたくしの手を取った。
「この人も、国も」
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長い沈黙。
やがて。
王弟が小さく息を吐く。
「……なるほど」
初めて。
安堵した顔でした。
「ならば私も賭けよう」
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宣戦布告
「明日、貴族会議を開く」
王弟が告げる。
「革命派を表へ引きずり出す」
つまり。
政治戦争の開始。
もう後戻りはできません。
カイル様が言う。
「レティシア」
「はい」
「隣にいてくれますか」
少し笑って答えました。
「最初からそのつもりですわ」




