第24話「導きのあしあと」 Part5
「クロウ殿!!」
「うわっ」
組合ではクロウをエイワズが待ち受けていた。
「今日はどこへ狩りにゆこうか!私の準備は万端、い・つ・で・も出立できるぞ!!」
「暑苦しいなぁ、それに何で僕?」
加入以来、組合でのエイワズはクロウにべったりだ。
どちらかと言えば静かな日常を好むクロウからすれば堪ったものじゃない懐きようの男。
その理由が何かと尋ねると、
「他の者は連日何かと忙しいようで、クロウ殿しか組んでくれるバスターがおらぬのだ。いやはや、西へ東にと世のため人のため駆け続けるは流石魔獣の脅威の中最前線を担ってくれている勇者達。敬服する他無しだ!」
……と明らかに避けられており、自然な消去法がクロウに導くためであった。
「なんか、僕がいつもヒマしてるみたいに言うね」
「そ、そうではない!ただ、他の者の貴重な時間を奪うわけにはいかず、手の空いてる者を……」
「分かった。それはともかく……」
真面目なのか却って変人なのか判断しかねる元都市元首をスルーして、辺りを見回す。
「……ハナ」
見つけた少女は片隅の椅子で落ち着いている。
クロウがいようといまいと変わらずにはしゃぐような彼女がシンと鎮まっているというのは、むしろ周囲に違和を撒く異変の在り処とさえ思われていた。
「クロウ……?うん、クロウだ」
「?」
目の前に健在しているクロウを確かめるような返事に覇気は無い。
ヒトシ勢力との戦いの翌日から今までずっとこの調子だ。
「クロウは……急にいなくなったり……しないよね?」
「何、突然」
ナノハは弱々しく訊いた。
「むしろハナの方から消えそうで怖い」
「そう?うふふっ、でも答えになってないよ」
「変なハナ」
「変わり者として生きてるからねぇ」
徐々に調子は戻っていくように見えたが、よく一緒にいたクロウの持つ感覚はそれが気のせいだと告げ口する。
日は経ったがそれで平気になったなど欠片も思えない。
「その者も連れていくのか?」
後ろから、兜を被ったエイワズが話しかける。
「……」
クロウは、ナノハを見つめ続けたまま押し黙る。
まるで、そんなことできるわけがないと暗に言っているようだ。
「クロウが行くなら付いてくよ。クロウ1人じゃ心配だしね」
「ハナ……」
不思議と“無理をしている”ような感じではない、とクロウは思っている。
とはいえ普段通りの力を発揮できるようにはとても見えない。一種の迷いの中なのだろうかと考察する。
ただその迷いの根源とは何かとなると、クロウには一切心当たりが無い。
「ハナ、悩んでるんでしょ?なら…」
「ほら、行こ!まだまだ魔獣のせいで困ってる人はいるんだから、ガンガン仕事しないと!」
訊こうとしても、この有様である。
何もできないどころではない、何も“させてくれない”友人に、いっそ強硬手段でも仕掛けようかとまで思い立つ。
だが問題とは得てして次から次に増えるもの。1つきりで終わるものではない。
「……全員、我々の指示に従え!」
突然押しかけて来たのは軍の制服を着た集団。
明らかに高圧的で、話が通じるかも怪しい。
故に組合内の空気は張りつめ、戦場でもなしに臨戦態勢でゲストは迎えられる。
「む!?道場破りか!?」
エイワズも、自らの行いを忘れたような驚きっぷりだ。
「これより“バスターズギルド”はセレマ軍部の下部組織として都市庁の管轄となる」
「何だと!?」と多くの声が湧き上がる。
軍の下に置かれるということはバスターを戦力として強制接収することと同義であり、組合の設立理念に反した横暴であった。
「いよいよフシュケイディアみたいになってきた」
「うん……」
クロウは薄々思っていたことを小声で呟く。
それを聞いたナノハも小さな声でよりしおらしく同意した。
「正気か!?組合が創られたのはバスターの力を他人に利用させないためでもあるのだぞ!それをお前たちは、単なる力として寄越せと言うのか!」
元々指導者の立場であったエイワズが兜を投げ捨てるほど憤る。
都市庁は組合に出資を行い、魔獣が関わる事件があれば優先的な対処を要求するという関係がある。
そのため組合側が無視できない発言力はあるのだが、ファーストインプレッションの時点で悪手を繰り出すようなあからさまな横暴にそのような裏事情を完全に無視したブーイングが巻き起こっている。
しかしその中心にいるのがエイワズであるにもかかわらずきちんと迎合しているというのは、まさに以前の都市庁の方が善かったと思われている証だろう。
「我々現場は上の指示に従うだけです。元都市元首閣下」
だが、立ち向かう相手はそのような訴えを突っぱねる。
彼らは上下関係をその身にしっかりと叩き込んだ官僚、例え総入れ替えされた上層部の胡乱な指示でも呑み動かなければならない。
とはいえエイワズの肩書に付与した閣下という敬称に、納得のいかない心情が乗せられてはいたが。
「あなたは優秀な尉官として長きに渡りこの都市の平和のため努力していた」
隊長的人物の着けた階級章……ではなく人相を見て人となりを記憶から評価する。
「そのような身分に在るならば、対魔獣の最前線で戦うバスターの事情は理解できるだろう!!」
そして、説く。
だが命令に忠実だからか今のエイワズがただの民間人だからか、彼らの態度は変わらない。
「バスターという人類の進化種が取るべき立ち位置は理解しています。しかし、これは現都市元首ヒトシ様の意向であり中断する権限など持ち合わせてはおりません」
「く……」
ヒトシという男の読めない頭、そんな男が振りかざす権力には政治家であったエイワズだからこそ言い返せない。
権力の構造を遵守すること。それが秩序の始まりの一つであることは内容の是非がどうであろうと理解しているためである。
「何よりヒトシ様も、いや新生都市庁の構成員の中にはバスターも多く在籍しております。バスターの事情というのは、今や形骸化した教義に他なりません」
また、命令した上層部もバスターであるため、いくらバスターに賛歌を送ろうが大した反撃にならないのだ。
「では、ここにいる全ての戦闘要員を都市庁へ連行させてもらう!」
その言葉で彼の部下数人がラインを押し上げていく。
……と言っても、バスター側の誰が動くというわけではない。
急に来いと言われて面食らっていたり、“戦闘要員”と呼ばれ慣れていないことも大きい。
だが大変革より時は流れた。この頃にもなればバスター達の意志は簡単に揺るがせるものではなくなっている。
「皆……恐ろしくないのか?」
それを言ったのはエイワズだ。
権力そのもの、そして軍人だけあって武力を携えてもいる目の前の集団、そして逆らった先の混沌。
様々な恐れが重なった一言に誰もが首を横に振る。
「間違いを間違いと言える、そんないいツラというものに皆なったってことだね」
奥から現れたペイガニーが、そう解釈の声を上げる。
「都市庁にはこれまで世話になっていた。しかしそれは前都市庁の話だ。今の都市庁は……無意味に敵を作る今の彼らには、掌を返すしかない」
決別の宣言。
静かに怒る組合長が、その威厳を精一杯に示す。
「よってどうか、お引き取り願う。こちらにはこの怪しい命令に従う義理というものが無い」
人としての抗いに、バスター全てが賛同する。
「……実力行使も止む無しと仰せつかってはいるが、流石に狭い街中でそんなことはできない」
尉官は2歩後ろに下がり、バスターの力怖さではなく被害を広げないためだとして翻り退く。組合の目の前にある道の幅が、狭いどころか広場とまで言える広さであるにも関わらず。
互いの間に存在する暗黙の議題に、一般人とバスターの力の差というものは挙がらない。ただ、彼らにも理性は有るという淡い証左であった。
しかも尉官は受けた命令を大袈裟な表現で復誦し、一応は従うが真に抗うべき相手が何者かは解っているという本音の漏れとなる。
「しかし二度は無いと知れ。我々は任された役目を全うするために在るのだ」
……一先ずの問題は過ぎ去った。
上に忠実ではあるが同時に迷いを持っている相手による徴兵。誰もが無価値だと心の中で理解している戦略その序幕は、一応の実行だけは為された。
しかしその裏にある混乱や葛藤に同情の念が向けられることは無い。今不服が向かう先にあるものは実行部隊たる彼ら軍隊などではなく、ヒトシその一点であるからだ。
「聞いてくれ、みんな」
ペイガニーは周囲の注意を自分に向けさせる。
「ヒトシは元首に就任して以降、無茶な建築や立法をハイペースで進めていることが分かった。主に金融機関、加工所、そして兵器工廠……戦争が目的なのは明らかだ」
横に控えた副長も続けて現状を述べる。
「法律の方も住民の意見をダイレクトに反映してはおるが、好き勝手過ぎるのだ。まだ一週間と経っていないのに各地で法同士の衝突や経済の破綻が起きつつある」
「彼はカリスマ性こそ異常だったが、能力が伴っていない。それでいて、野心だけは誰よりもある。だから彼を……プレイヤーのふりをした悪魔を、これ以上玉座に座らせてはいけない」
組合長と副長の主張を聞き、辺りは徐々に湧き上がる。まるでこれから送られる指示が自分達の望むものだと分かりきっていて、その答え合わせを今か今かと期待するように。
「これより我々は、“革命”を決行する!!」
これ書いてる時に世界で色々起きてたからもう、現実が追い付くもんじゃねぇよこの野郎!!物語書きづらいだろうが!!!!ってずっと思ってた




