第24話「導きのあしあと」 Part6
「これより我々は、“革命”を決行する!!」
賛同の鬨は爆発した。
大変革と名付けられた事象はまだ完結していないとばかりに唱えられたその単語は、プレイヤーを名乗るPCの打倒を以て外界との完全な決別を意味することとなろう。
もしヒトシが良き為政者ならば……いや、それほど聡明な人物ならば自ら偶像であることを降り、別に相応しい人物を探しただろう。
誰もがそう思ってしまうほどの状況にエイワズだけは苦笑い。実質的な頂点に君臨していた彼にとって革命とは、自分の命や立場を脅かすものであったからだ。
「ちょうどいい!こっちには先代の王様までいるんだからな!」
「それもバスターになった、な!」
「ハ、ハハ…正確にはそのような絶対的なものではないのだがね……」
更に言えばそんな彼が革命側に就くというのも皮肉であり、決まったことにうだうだと駄々をこねるようでおかしく感じたのだ。
「エイワズ元都市元首……今はそう呼ばせてもらいます」
「……何用かな?ペイガニー組合長」
元の肩書きなど関係無く接するよう要求した者に敢えて改まった態度で触れるペイガニー。
何かを察したエイワズはその考えを一旦仕舞い、先代指導者の気持ちで組合長の目を見る。
「つい先ほど、この組合の今後の方針を決めるための意思決定会議を決議しました」
「うむ。それで?」
「エイワズ元都市元首……あなたにもう一度都市運営を頼みたい」
革命には旗印が必要だと、面と向かって伝えられる。
それも、不要論の末に自ら降りた元指導者に対して。
「私は民たちの意見に従い表舞台から去ったのだ。そして、バスターといえどもその民の一部であることに変わりはない」
自らの生い立ちを組合の代表に試練として問いかける。
我を再び祀るなら、それが都合のいい人使いであることを分かっておるのだろうな、と。
「あなたは、あなたが思うよりも民に必要とされております。そもそも現状に満足しているのなら、意見など出ません」
目安箱に寄せられた、都市庁解体の要望。それがエイワズの辞任の理由の半分である。
しかしセレマの人口が目安箱にその意見・要望を殺到させたなら、それは物理的にあふれ異様な光景を作り上げてしまう。
そうなったという話が今まで無かったということは、それだけ満足している住民が多かったということになる。
もちろん、そんなサイレントマジョリティーチックな論法が全てでないことは双方共に理解している。
重要なのは、神輿として担ぎ上げることを納得するかどうかである。
「なるほど。しかし現都市元首はやり方がどうであれ厚い支持を得ていることには相違ない。それでもなお私が必要だと煽てるのか?それもこのいち組合如きの総意で」
普段の口調から地続きの傲慢な響きは対話を進める中で強さを増し、儚げな容姿が飾りにもならないような圧迫感を醸し出す。
それは今世以来自己肯定心の低いペイガニーに冷や汗をかかせ、顔を引きつらせる威圧となる。
「あ、あー……お邪魔、だったか……?」
そんな中、新たな客がシリアスな静けさを覗く。
「あれ?あなたは……」
「おお、あの時のバスターさん!」
クロウが見覚えのある客人を中へ迎え入れると、早速と要件を伝え始めた。
「その……この間、おれ酷い事を言ったから……ずっと謝りたかったんだ」
「律儀な…そんなこと気にしてなんか」
「すまなかった!!」
彼はとうに赦されていたが、だからと言って謝らずに帰っていいと済ませることをよしとはしなかった。
先んじるように食い気味に、そして相手に聞こえるようしっかりと謝罪しつつ頭を下げる。
「いや、いいから……」
「おれはあの時、見たことの無いバケモノと荒れた畑を見て、言っちゃいけないことを言った。あんたらバスターは凄く頑張ってるっていうのに……!」
そこまで聞かされれば流石のクロウも黙る。
謝られる様子を見られるというのは誤解を生みかねず、恥ずかしく感じてもしまう。それでも誠心誠意の謝意を無碍にするわけにはいかず、目の前の贖罪と向き合うのだ。
「すみません、お取込み中にこんなことを無理に言ってしまい……おれはただ」
「分かってる。僕のためだよね。2度も謝る必要は無いよ」
「それを聞いただけでも肩の荷が下りたようだよ……」
男は胸を撫で下ろし、救われたように気の抜けた表情に変わる。
「あの時いた2人もそこで聞いてたから、もう何も気にしなくていい」
クロウの返事の続き。
しかしその一言には嘘が含まれていた。今いるのは至天獣の事件で同行・合流した2人の内ナノハだけであり、シアーズの方は不在なのだ。
気を遣って、というよりは面倒を嫌ったクロウによる陰謀。それでも男は拝むように赦免への感謝を捧げる。
「ありがとう、ありがとう……」
そして、満足した男は組合を去る……と、その前に。
「ん?あんた……」
頭を上げた時にふと見えたのはバスターの集団の中で目立っているエイワズだ。
彼はどうも気に食わないことがあったらしく、ずん、ずんとその場所へと歩み寄る。
農作業とそれに適応するために鍛えあげた身体は高い戦闘能力を持つバスターの中でも見劣りしない迫力を持ち、ゲストだからというだけではない下がり方で道を開けさせた。
「私に何か用かな?」
外部の人間ならばとペイガニーとの問答とは違う態度で応じるエイワズ。男の肉体にも物怖じしない胆力は、線の細い見かけとはかけ離れた大黒柱のようであった。
「あんたこんなに細くて、ちゃんと飯食ってるのか?」
「……は?」
だが男にとって重要なのは、その「線の細い見かけ」の方であった。
「よく見たらバスターって意外と男でも細いのが多いなぁ……おお、こうなったら」
「お、おい!その人はなぁ!!ヒトシの前の元首で…!」
「よさぬか!」
誰かが革命の神輿にされかけたエイワズの経歴を恐れ多さからかバラそうとするが、本人の制止はワンテンポ遅れ、その素性を晒させてしまう。
「はぁ…あんたが」
「……そうだ。ヒトシに都市庁を明け渡した、先代の愚者だ」
溜息の後、強い自虐を込めて自分からも明かす。
民からの誹りの末の姿でもある自己の否定とバスター業への転身。それは罵倒の許可でもあった。
「な、何を言ってるんですか、愚者なわけがない。むしろ感謝しているんですよ」
しかしそれでかけられたのはエイワズにとっては意外な、暖かい感謝であった。
「いつだったか作物が全く不作の時があったでしょう。あの時は途方に暮れてたけどあなた方は、素早く対応策を取ってくれた。あの時の呼びかけや色々な支援があったからこそ今もこうしてられる」
彼は直情的なだけで、善い悪いの理解できる善人だ。
だからこそ律儀にここまで足を運び、思ったことをそのまま投げかけるのだ。
「だがそれは……“作られた過去”だ」
エイワズは“自分の背にある断崖”に縛りつけられている。
どれだけ称えられようと5分前にできた世界の6分以前を確信できないならば響くものも無いと、これまでの高慢を虚勢のベールと認めてしまう。
「よくわかりませんが、おれ達のために頑張ってくれてたって分かってるんですよ。そんな卑下しなさらないで」
「……すまない。不躾だったな、これほどの好意を……」
「いいですか、元首さん」
元、と付けない簡易的な呼び方で農夫は言った。
「世界は見えない所で繋がってるんだ」
「見えない、所で?」
「それって……」
聞き覚えのあるフレーズにクロウは反応し、そしてすぐに自ら口を閉じた。
「そう。どこかで頑張ったことは、巡り巡って自分に返ってくる……それが今なんですよ」
「今、返ってくるとは?」
「今度バスターのみんなでこないだの戦いの祝勝会やりましょうよ。シパンガに伝わるっていう鍋ぱーてぃとかいうので。そこで色んな話を聞きながら…ってああ、すいません。これじゃ今でもなけりゃ返礼にもなって…」
「いや、十分だ」
エイワズは清々しい気分でそう応えた。
「私が見えていなかったものを、民が見つけてくれたようだ」
「エイワズ前元首……」
ペイガニーが思わず声をかけた彼は、もう背中に虚無を感じてはいない。
彼の死角にあるのは、後に続く無数の民たちだ。
「あなたの提案を受けよう」
「で、では……!」
「ヒトシだけではない。私の背にも多くの支持が寄り掛かっておる。ならばもう一度、起たなければ不義理であろう!!」
その尊大さは悔いでも虚勢でもない、彼自身の持ち物……内より出でるものであった。
「バスターズ連合組合セレマ支部所属、このエイワズ・エイルが革命の象徴となる!新しき世界を歩むための王道を取り戻す者達よ、ここに集え!!」
その宣言にあてられた人々はワアアアアと歓声を上げる。湿っぽい曇りのセレマが豪雨に見舞われたかのような轟音は、太陽の在処を地上に認めた。
「繋がってる、かぁ……」
そして、いつもより大人しいナノハも、先ほど農夫がエイワズにかけた言葉を今度はより深く咀嚼し、希を見出すのであった。
~第24話「導きのあしあと」~
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リリーは言った通り、先の魔獣をウインドウから取り出した剣で解体している。勿論作業しながらも話は聞いており、真面目な返事を芋煮子に送った。
騎手:んっ
見聞録:お、どした?
騎手:いや、意外と、力が…い、る、な……ッ!
獣:……
獣:……
獣:……
見聞録:やばいやばい何か来てる!!
騎手:わんこだぁ!!
見聞録:お肉が狙われてるんだよ!!逃げろ、逃げろーーっ!!
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第一部も終わり見えてきたかなーって。
いやぁ、こういうやりとり考えるのはなんというか疲れるよね




