第七話:一心不乱に不遇な女性のために働く話
草深奈緒は、かつて「女性の7つの幸せ」をすべて手にしていた。
愛する夫、可愛い子ども、美しい容貌、やりがいのある仕事、経済的安定、信頼できる友人、そして平穏なマイホーム。周囲からは羨望の眼差しを向けられ、奈緒自身もそれを当然のように受け入れていた。
しかし、夫との離婚、子どもの親権喪失、友人関係の崩壊、仕事の退職、マイホームの喪失、そして経済的安定までも失い、奈緒がかつて手にしていた「幸せ」は次々と崩れ去った。
それでも奈緒は困窮してはいなかった。女性相談センターの支援によって、彼女は新しい住まいを手に入れ、相談員見習いとして働き始めたのだ。
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奈緒が住むことになったのは、女性相談センターが契約しているアパートの一室だった。そこには、家庭内暴力やホスト依存症、男性恐怖症など、さまざまな問題を抱えた女性たちが住んでいた。奈緒は相談員見習いとして、彼女たちの心のケアを任された。
自らも多くのものを失った奈緒にとって、この仕事は「救済」と「贖罪」の両方の意味を持っていた。かつて「すべてを持つ女」として何の苦労もなく生きてきた自分が、いかに無知で無関心だったか――奈緒はそれを思い知らされていた。
「残りの人生は、悲惨な境遇にいる女性たちを救うために使う」
奈緒はそう決意し、がむしゃらに働き始めた。
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奈緒は朝から晩まで、同じアパートに住む女性たちの話を聞き、彼女たちのために動いた。仕事の報酬はごくわずかだったが、奈緒は金銭的な見返りを求めていなかった。彼女の心を突き動かしていたのは、ただ一つの思いだった。
「この女性たちを救わなければ」
ドメスティックバイオレンスで心身を傷つけられた女性、借金を重ねてホストに依存する女性、人間関係がうまく築けず男性恐怖症になった女性――奈緒の前には、助けを必要とする女性たちが次々と現れた。彼女たちの話を聞くたびに、奈緒の中に怒りと使命感が湧き上がった。
奈緒にとって許せないものは二つあった。
一つは、女性を虐げる暴力的な男性や、無関心な社会。
もう一つは、かつて幸せに包まれていた自分自身だった。
奈緒は心の中で、かつての自分を責め続けた。温かな家族や友人に囲まれ、美貌と才能を持ち、何不自由なく生きていた過去の自分。苦しんでいる女性たちを見ても何も感じず、自分の幸せだけに満足していた過去の自分――それが奈緒にとって「許せないもの」そのものだった。
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奈緒は自分自身を犠牲にすることで、女性たちを救おうとした。その象徴的な行動が、「美しさ」を捨てることだった。
かつて奈緒は、自分の美貌を維持するために多くの時間と労力を割いていた。スキンケア、ヘアケア、ファッションへの投資――それらはすべて、かつての奈緒にとって「女性としての幸せ」の一部だった。しかし、今の奈緒にとって、それらは「無意味なもの」だった。
「美しさなんて、誰かを救うことにはつながらない」
そう考えた奈緒は、化粧をやめ、服装にもまったく気を使わなくなった。
冬でも薄いジャージを着て、靴は履ければそれで十分だった。髪は無造作に束ねるだけで、ヘアカットにも行かなくなった。かつてその美貌で周囲の人々を魅了していた奈緒だったが、今やその面影はほとんど失われていた。
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美しさを捨てた奈緒は、鏡を見ることすらなくなった。
肌は荒れ、髪は伸び放題で艶を失い、無表情の顔には疲れの色が滲んでいた。それでも奈緒自身は気にしていなかった。
「私には救わなければならない女性たちがいる。そんなことに気を使っている暇はない」
しかし、かつて奈緒を知る人々が彼女の変貌を目にしたら、きっと驚くことだろう。かつては「持つ者」としてすべてを手にしていた奈緒が、今や「美貌」すら失い、自分を犠牲にして他者に尽くす姿へと変わり果てていた。




