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第五話:困っている女性たちを自宅に受け入れた話

草深奈緒は、かつて「女性の7つの幸せ」をすべて持つ完璧な女性だった。

愛する夫、可愛い子ども、美しい容姿、やりがいのある仕事、経済的安定、信頼できる友人、そして平穏なマイホーム。彼女の生活は理想的であり、周囲から羨望の眼差しを向けられていた。


しかし、夫との離婚、子どもの親権を失い、友人との関係も壊れ、さらには職場からも追われたことで、奈緒の「幸せ」は次第に崩れ落ちていった。それでも奈緒は、残された「持ち家」と「美貌」に執着し、自分なりの新しい人生を見つけようと模索していた。


********************


夫と別れた後も、奈緒は共通名義で購入したマンションに住み続けていた。元夫と娘は実家に引っ越したため、マンションは事実上奈緒が独占していた。ローンの返済は月々の負担だったが、現役で働いている父親が肩代わりして支払ってくれていたため、奈緒は経済的な心配をする必要がなかった。


奈緒にとって、このマンションは「最後の砦」のようなものだった。かつては家族や友人が集う温かな空間だったが、今は静まり返り、奈緒一人だけが自由に時間を使える場所となっていた。家事も育児も仕事もする必要がなく、社会的な人間関係もほとんど絶たれた彼女は、空いた時間をすべて自分の好きなことに費やすようになった。


その結果、奈緒は「ツイフェミ」としての活動にのめり込むようになった。インターネット上で困っている女性たちを見つけては、自分のマンションに招き入れ、彼女たちの相談に乗ったり、生活を支援したりするようになったのだ。奈緒にとって、それは「自分の正義」を実現する活動であり、失った「幸せ」を補完する新たな使命でもあった。


********************


奈緒の活動は次第に本格化していった。最初は知り合いの女性やインターネット上でつながった少数の人々を受け入れていたが、そのうち噂を聞きつけた多くの女性たちが奈緒のもとを訪れるようになった。家族や恋人から暴力を受けた女性たち、経済的に困窮している女性たち、行き場を失った若い女性――奈緒は誰でも分け隔てなく受け入れた。


しかし、女性保護活動に関しては素人であった奈緒は、適切なルールや安全対策を整えないまま活動を続けていた。その結果、次第にマンション内でのトラブルが頻発するようになった。特に問題となったのは、奈緒が匿った女性たちを探しに来る家族や恋人たちだった。


中には、親や恋人が奈緒のマンションを突き止め、女性を連れ戻すために深夜に押しかけることもあった。マンションの前で大声を上げたり、奈緒の部屋のドアを叩いたりする彼らの行動は、他の住民たちに不安を与えた。さらに、一部のケースでは暴力団関係者と思しき人物が現れ、奈緒の部屋を威圧的に訪ねることもあった。


********************


住民たちは次第に不安を募らせていった。

「夜中の大声で子供が目を覚ます」「見知らぬ男たちがマンションをうろついている」――住民たちにとって奈緒の活動は、生活の平穏を脅かす存在となっていた。最終的に、マンションの理事会が奈緒の部屋を訪れることになった。


理事会のメンバーが奈緒に対し、活動を辞めるよう穏やかに説得を試みた。

「草深さん、困っている女性を助ける気持ちはわかります。でも、ここは住宅地です。他の住民、とくに子どもたちの安全も考えていただけませんか?」


しかし、この言葉に奈緒は烈火のごとく怒り出した。

「困っている女性を受け入れるな、というのですか?それは弱者を切り捨てろというのと同じです!」


理事会のメンバーが再度冷静に説得しようとしたが、奈緒はさらに声を荒げた。

「お前たちは、自分の子どもの安全しか考えていない!ここにいる女性たちがどれだけ危険にさらされてきたか、想像もできないくせに!」


理事会のメンバーは渋々引き下がるしかなかった。奈緒はその後も自分の活動を続けた。

「正義は勝った」

奈緒はそう思い、満足していた。


********************


しかし、事態はこれで終わらなかった。

ある夜、奈緒が匿っていた女性を取り戻そうと業を煮やした暴力的な夫が、奈緒の部屋の前にガソリンを撒き、火を放ったのだ。幸い、マンションがコンクリート造であり、奈緒の部屋の玄関が鉄扉だったため、火の被害は玄関部分に留まった。また、隣室への延焼も防がれたため、大惨事には至らなかった。


しかし、騒ぎは警察沙汰となり、マンション全体が混乱に包まれた。奈緒の行動に不満を抱いていた住民たちは、この事件をきっかけに奈緒の責任を強く問うようになった。


********************


警察の調査が進む中、奈緒の元夫にも連絡がいった。元夫は、奈緒と直接話しても無駄だと判断し、彼女の両親に助けを求めた。奈緒の父親と母親は、娘の安全と住民たちの平穏を考え、奈緒にマンションを離れるよう説得を始めた。


「奈緒、お前の気持ちはわかる。でも、ここでこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないんだ」

両親の言葉に奈緒は激しく抵抗したが、最終的には実家に戻ることを受け入れるしかなかった。


奈緒がマンションを出た後、元夫と相談し、マンションを売却することを決めた。しかし、ボヤ騒ぎの影響でマンションの資産価値は大きく下がっており、売却してもローンを返済した後にはほとんど手元に残らなかった。奈緒にとって、マンションは唯一の居場所だったが、それも失われてしまった。

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