第四話:男性よりも女性の方が昇格・昇給が遅いという話
草深奈緒は、かつて「女性の7つの幸せ」をすべて手にしていた。
愛する夫、可愛い子ども、美しい容姿、やりがいのある仕事、経済的安定、信頼できる友人、そして平穏なマイホーム。彼女の生活は理想的であり、周囲から羨望の眼差しを向けられていた。奈緒自身もその幸せを誇りに思い、それを守るために努力を惜しまなかった。
しかし、夫との離婚、友人との関係崩壊、そして子どもの親権を失ったことで、奈緒の「幸せ」は次第に失われていった。それでも奈緒にはまだ、「美貌」「仕事」「経済的安定」「持ち家」という4つの幸せが残っていた。奈緒はこれらを何としてでも守ろうと決意し、特に「仕事」を人生の中心に据えるようになった。
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家族と友人を失ったことで、奈緒の生活には空白の時間が生まれた。その時間を埋めるように、奈緒は仕事に没頭していった。かつては育児や家事のために仕事をセーブしていた奈緒だったが、今ではすべてのエネルギーを仕事に注ぐことができた。奈緒の能力はもともと高く、仕事に専念するようになると、次々と成果を上げていった。
上司や同僚たちも、そんな奈緒の働きぶりに感心していた。
「最近の草深さんはすごいな。まるで別人みたいだ」
そんな声が聞こえてくるたびに、奈緒は心の中で自分を励ました。
「私にはまだ仕事がある。これがあれば十分」
奈緒は自分の能力を証明し、会社の中での地位をさらに高めようと必死だった。それは、失ったものを埋めるための戦いのようでもあった。
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奈緒が特に期待していたのは、年に一度の昇給だった。これまでの努力と成果を正当に評価してもらえるはずだと信じていた奈緒は、昇給額の通知を受け取ったとき、その内容に愕然とした。
昇給額は、同期の男性社員たちと比べて低かったのだ。
奈緒は怒りを抑えきれず、すぐに上司のもとへ向かった。
「どうして私の昇給がこんなに低いんですか?私の方が彼らよりもずっと成果を上げているのに!」
上司は奈緒の感情的な訴えに少し戸惑いながらも、冷静に答えた。
「草深さん、確かにここ最近の働きぶりは素晴らしい。目を見張るものがあるよ。ただ、昇給は過去1年間の評価に基づいて決まるものなんだ。今年の前半については、子どもの発熱などで頻繁に休んでいたこともあり、どうしても評価が伸びなかったんだ」
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上司の説明を聞いた奈緒は、さらに憤りを感じた。
「子どもの病気で休んだのは、有給休暇を使ったんです!有給休暇を消化することが評価に影響するなんておかしいじゃないですか!」
上司は困ったような顔をしながらも答えた。
「もちろん、有給休暇を取るのは労働者の権利だよ。ただ、会社としては、全体のパフォーマンスを見る必要があるんだ。今年後半の働きぶりを続けてくれれば、来年は必ず昇給に反映されると思う」
しかし、奈緒は納得できなかった。
「そもそも、子どもの面倒を見ることは国の宝を守る行為でしょう?それを評価しないなんて、女性に対する差別でしかありません!」
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当初は冷静に対応していた上司も、奈緒の執拗な追及に苛立ちを見せ始めた。
「草深さん、これは決定事項なんだ。納得してもらうしかない」
それでも奈緒は引き下がらなかった。
「あなたたち男性社員が無能だから会社の売り上げが伸びないんでしょう!そんな男たちの給料を減らして、私のような優秀な女性社員に還元するべきです!」
この発言は上司の怒りを引き起こしただけでなく、同僚たちにも波紋を広げることになった。奈緒の言葉は、職場で「同僚への侮辱」として問題視された。
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数日後、奈緒は人事部長に呼び出された。
人事部長は穏やかな口調で奈緒に伝えた。
「草深さん、これまでの貢献には感謝しています。ただ、最近の発言や行動が職場の雰囲気に悪影響を与えているのは事実です。このままではお互いにとって良くない結果になると思うので、退職を考えていただけないでしょうか」
その言葉を聞いた奈緒の心は怒りと屈辱でいっぱいだった。
「私は正しいことを言っただけです!こんな会社で働くつもりはありません!」
奈緒はその場で退職届を提出し、会社を去る決意をした。
奈緒は仕事を失ったのだった。




