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第三話:女湯に5歳の男の子が入ってきた話

草深奈緒は、かつて「女性の7つの幸せ」をすべて持つ完璧な女性だった。

愛される夫、可愛い娘、美しい容姿、やりがいのある仕事、経済的安定、信頼できる友人、そして平穏なマイホーム。彼女の生活は誰もが憧れるものであり、周囲から羨望の眼差しを向けられていた。奈緒自身も、自分がこれ以上ないほどの幸せを手にしていると信じていた。


しかし、先日の痴漢騒動により、夫とは離婚することになった。また、スナック菓子騒動により、友人の多くを失うことになってしまった。それでも奈緒はめげてはいなかった。彼女にはまだ、5つの輝かしい幸せがあるのだ。


奈緒は、5歳になった娘との二人きりの生活に慣れるため、日々努力していた。

離婚によって夫という支えを失い、さらに友人関係も崩壊した中、奈緒の心の支えとなったのは娘の存在だった。専業主婦の母親が手伝ってくれるおかげで、仕事と育児の両立に困難は少なかったが、奈緒は「母親として完璧でなければならない」という強迫観念に囚われていた。


ある日、奈緒はインターネットで「親が子どもと過ごす時間が幸福度に大きな影響を与える」という記事を読んだ。これに強く影響を受けた奈緒は、休日には娘とできるだけ長い時間を共有することを心がけるようになった。そんなある日、娘を連れて近所の健康ランドを訪れることにした。そこは清潔で設備が整っており、奈緒が以前から気に入っていた場所だった。


********************


健康ランドに到着した奈緒は、娘と手をつないで受付を済ませ、女湯の脱衣所へと向かった。訪れていた親子連れが多く、施設全体には和やかな雰囲気が漂っていた。奈緒も「ここなら安心して娘と過ごせる」と思い、ほっとした気持ちになっていた。


脱衣所で服を脱ぎ始めたとき、奈緒は娘が怯えたような顔をしていることに気がついた。

「どうしたの?」

奈緒が尋ねると、娘は無言のまま視線を一点に向けていた。その先には、同年代と思われる男の子がいた。奈緒は一瞬戸惑った。

「どうして女湯に男の子がいるの?」


男の子は無邪気な様子で、自分の母親と話しながら服を脱いでいる。その母親らしき女性が奈緒と娘に気づき、明るく声をかけてきた。

「あら、あなたの娘さん、うちの子と同じ保育園ですよね?よく見かけます」


その言葉に奈緒は一瞬驚いたが、すぐに娘の表情が怯えたままであることに気づき、胸の中に怒りが湧き上がった。娘が怯えている理由は明らかだった。同性でない子どもに裸を見られることへの抵抗と恥ずかしさだった。


********************


奈緒はその母親に向かって問い詰めた。

「どうして女湯に男の子を連れてきているんですか?」


女性は少し戸惑いながらも穏やかな口調で答えた。

「この施設では、小学校に上がる前の男の子は母親と一緒に女湯に入れる決まりなんですよ」


その答えを聞いた瞬間、奈緒の中で怒りが爆発した。

「そんな規則、おかしいじゃないですか!男の子が女の子の裸を見たら、どう感じるかわかりますか?イヤらしい目で見るに決まってるじゃないですか!もしも何か間違いがあったらどうしてくれるんですか!?」


女性は少し表情を曇らせながらも反論した。

「でも、まだ小さい子どもなんですから、そんなこと気にする必要はないと思いますけど……」


しかし奈緒は引き下がらなかった。

「小さいからといって許されるわけじゃありません!私はインターネットで読んだ事例を知っています。幼い子ども同士でも性犯罪が起きることがあるんです!」


さらに奈緒は、娘が明らかに怯えていることや、同じ保育園でこの男の子が裸を見たことを話題にしたり、からかったりする可能性についても指摘した。

「こんな状況、娘にとってどれだけストレスになるかわかりますか?」


女性の表情は次第に険しくなり、声を荒げ始めた。

「そんなこと言ったら、うちの子が悪いみたいじゃないですか!この子はまだ5歳ですよ。侮辱しないでください!」


二人の言い争いは次第にエスカレートし、周囲の人々も騒ぎを気にするようになった。


********************


やがて施設の職員が駆けつけ、二人を宥めようとした。

職員は奈緒に「規則上、小学校入学前の男の子が女湯に入ることは問題ない」と説明したが、奈緒は納得しなかった。

「規則が間違っているんです!こんなことが許されていいはずがありません!」


職員たちは困惑しながらも、状況を収めるために奈緒と女性を別々の場所に誘導しようとした。しかし奈緒はそれにも反発し、周囲に対して「この状況の不合理さ」を訴え続けた。


その場の混乱は収拾がつかなくなり、最終的に警察が呼ばれる事態にまで発展した。警察は奈緒と女性の双方に冷静になるよう促し、その場の騒動を解決しようと試みたが、奈緒の怒りはすぐには収まらなかった。


********************


健康ランドでの騒動は奈緒の元夫の耳にも届くことになった。

元夫はこの話を聞き、「奈緒の行動が過剰であり、娘に悪影響を及ぼす可能性がある」として、弁護士を通じて親権の変更を求めて家庭裁判所に訴えを起こした。


法廷では、健康ランドでの出来事に加え、過去の行動――痴漢騒動やスナック菓子騒動――も取り上げられた。元夫側の弁護士は「奈緒の過剰な行動が娘の精神的安定を損なう可能性がある」と主張した。


奈緒は必死に反論し、「自分は娘を守るために正しい行動をしてきた」と訴えたが、裁判所の判断は厳しかった。

「母親としての判断力を欠く行動が、娘の成長に悪影響を及ぼす可能性がある」

裁判所はそう結論づけ、最終的に親権は元夫に渡されることになった。


奈緒は子どもを失うことになってしまった。

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