亜人達の大移動
早速移動の準備に取り掛かるが、亜人達の荷物は驚くほど少ない、というか、リグのような戦士はそれぞれが武器を持ち、武装しているが、それ以外の殆どの亜人が手ぶらで、荷物を持っていても、僅かばかりの日用道具や食料だけだ。
このあたりの考え方は人間とは全く違うようで、道具にしても、移動した先で石を砕き、木を削って作ればいいし、それらの道具を使って住む場所を作ればいい。
取り急ぎ、人間のような家屋は必要なく、天然の洞窟に居を構えたり、木や葉を使った簡易的なシェルターを作り、最低限の衣食住を確保できればそれで十分。
後は時間を掛けて環境を向上させていけばいいらしい。
「それでは、ジレスティナさん達は後部車室に乗ってください」
「分かりました」
侍女に支えられながらクローラーの後部に乗り込むジレスティナ。
なるほど、ラミア2人が乗り込んでも車室にはまだ余裕がある。
後1人か、頑張れば2人位は乗れそうだが、道中で脱落者が出た時のために余裕を持っておいて、とりあえずジレスティナと侍女の2人だけにしておく。
「じゃあ、私はこちらで・・・」
片側だけ閉めた車室の屋根の上に腰掛けるディエラ。
ディエラはクロスの補助を買って出たのだが、数メートルの長さを有する蛇の下肢を持つラミアのディエラでは運転席横の座席には座ることができないため、屋根の上に腰掛けて周囲の警戒に当たることになったのである。
いざ、出発となり、ラミア達の群れが森の更に奥へと歩み始めた。
途中で他の亜人達が合流する予定で、最終的に100人超の集団となれば、その隊列も100メートルを超えることになるが、その集団を守る護衛の数が圧倒的に足りない。
リグと他の2人のゴブリンの戦士が先頭で、残りの数人の戦士が隊列を守る。
クロスのクローラーは最後尾だ。
最後尾に位置しても、森の中を進む隊列の全体を見ることはできない。
それでも、不測の事態が起きた時には即座に前進して対応することが出来る。
「音や振動、油の匂いはともかく、足場の悪い森の中を随分とスムーズに進むものですね」
クローラーに興味津々の様子のディエラ。
特に不整地での走破性の高さに感心している。
「このクローラーは多少の障害物は乗り越えますし、ある程度の樹木なら薙ぎ倒して進むこともできます。それでも、リグがこのクローラーでも安定して走行できる進路を選んで進んでいるようですね。おかげで運転するのが楽ですよ」
実際にはわざわざ回り道をする必要はない。
クローラーなら多少は強引にでも道を切り開くことが可能で、それこそ、隊列の先頭にいれば一直線に進むことができる。
しかし、クローラーは最後尾を守る必要があるし、前方を歩く亜人達は女子供が大半だ。
そういった事情を踏まえて、多少は回り道になろうとも、皆の体力の消耗を防ぐ道選んでいるのだろう。
目的別は森の奥に向かって3日程掛かるらしいが、このままのペースだと、それ程森の奥深くへは辿り着けなそうだ。
「しかし、目的地まではたかだか3日程度の移動ですが、その新しい場所は本当に安全なのですか?」
クロスの疑問に後室のジレスティナが答える。
「確かに、今までの集落からそれ程離れていませんし、環境もあまり変わりませんから、安全か?と言われればそうでもありませんが、目的の森は多くの精霊が住む地域で、その精霊の力を借りることができれば里全体に惑わしの結界を張ることができます。今までの集落の周辺は精霊が少なく、私の力のみで結界を張っていたのですが、その無理が祟って・・・」
つまり、ジレスティナの体調不良の原因は力の使い過ぎによる衰弱であり、衰弱が原因で結界の力が弱まり、集落が危険にさらされてしまったという、悪循環に陥ってしまったということらしい。
「精霊の力を借りることができれば、ジレスティナ様が無理をなさる必要は無くなるので、自ずと体力も回復する筈なのです」
申し訳無さそうに語るディエラに対し、クロスは首を傾げる。
「結界を張るのはジレスティナさんにしか出来ないことなんですか?皆で交代とかは?」
「里を守る結界を張るのは族長であり、里の護り手の巫女の役割で、その術も族長から次の族長に引き継がれる力なのです。族長になるには護り手の適性を備えていなければなりませんが、私達の一族は未だに後継のなり手がおらず、ジレスティナ様に無理を強いてしまっているんです」
「そうしますと、大変失礼な仮定ですが、後継者が現れる前にジレスティナさんの身に万が一のことが起きると?」
ディエラに代わってジレスティナが答える。
「その時には一族としての集団を維持できなくなり、滅びの道を進むことになります。勿論、どこか安全な場所で息を潜めて生きるという選択肢もありますが、私達ラミアは力や魔力は並の人間以上ではありますが、個々の能力はそれ程強いものではなく、それこそ単独ではこの森で生き残ることは出来ません。私達の力は中途半端なものなのです。ですから、私達は群れを維持し、リグ達のように友好的な群れと協力し合って生きるしかないのです」
確かにジレスティナの言うとおり、ラミアは強い。
魔法については優秀な魔術師であり、弓を扱えば優秀な狩人、剣を持ち、強靭な下肢を駆使すれば強力な戦士だ。
ただ、その個々の能力は中級冒険者の戦士や魔術師と同程度で、ラミア1人で中級冒険者のパーティーと対峙すれば殆ど勝ち目はないだろう。
その見た目から凶悪強靭で危険な亜人だと思われがちだが、本来のラミアは穏やかな性格で、争いを好まない種族なのだ。
そうこうしている間に太陽は天頂を越えて、西に向かって傾きつつあった。
里を出て半日程度、里からは離れているものの、それ程距離は稼げていないはずだ。
その時、ディエラが何かを感じとったのか、険しい表情で背後を振り返った。
「あれをっ!里の方向に煙がっ!」




