追跡者
異変に気付いたディエラの声に振り返って見れば、ラミア達の里の方向で黒煙が上がっている。
「里が焼かれている・・・」
ディエラの呟きと、黒煙を目にしたクロスは違和感を感じた。
「襲撃で火を放つ?亜人や魔物じゃないのか?」
目を凝らして見れば、黒煙は複数の箇所から上がっている。
里を焼き討ちしようとしての放火である可能性が高いが、亜人や魔物はこのような戦い方はしない。
無論、炎を吐く魔物や火を使う亜人はいるが、それはもっと直接的な使い方だ。
里の周囲を火で囲んで包囲したり、追い立てたりするような策を採るとは思えない。
「クロス、どう思う?」
異変に気づいて後方まで下がってきたリグが問うてくる。
「亜人や魔物の襲撃だとすると不自然だ。・・・因みに、亜人達を配下にしようとしている種族は分かるか?」
「詳しくは分からん。他の里から逃げてきた者の話によれば、隷属を求めてきたのはコボルトとリザードマンだったらしい。ただ、他の者からはゴブリンやオークを見たという情報もあるし、その背後に何者がいるのかは分からん」
クロスは考え込む。
「やはり不自然だ。それらの亜人は積極性に火を使う連中じゃない。それに、里がもぬけの殻であることは直ぐに分かる筈なのに、わざわざ火を放つなんて・・・」
ディエラも頷く。
「確かに変ですね・・・。クロスさん、この無駄ともいえる行動、どういったことが考えられますか?」
「先ず、あの火の手は亜人や魔物ではなく人の手によるもの、それも何らかの組織の統制下で行われていると思います。そして、あの襲撃自体は我々や周辺の亜人に対する圧力と欺瞞行為ではないかと考えます」
「「欺瞞行為?」」
ディエラとリグが揃って首を傾げる。
「里を捨てて逃げ出している我々を油断させるためのものですよ。我々が里を出発して数時間、今頃里を襲っているということは、直ぐに追いつかれるようなことはないだろう、という油断です」
「ということは、里に火を放った者とは別に既に私達を追ってきている者がいると?」
「はい。これだけの集団の移動ですからね。痕跡を辿るのは容易でしょう。私のクローラーの轍も残っていますしね」
ディエラの表情が険しさを増す。
「そうしますと、余裕はありませんね。先を急ぎませんと!」
「確かにそうだ。予定ではこの後に俺の里に立ち寄って一族を纏め、次の集落に向かう手はずだったが、そうも言ってられんな。・・・よし、危険だが伝令を先行させて、里で合流するのではなく、道中で直接合流することにしよう」
リグの案にクロスも頷く。
「それがいいでしょう。私も追跡を逃れる策を考えましたので、それと同時進行としましょう」
クロス達は先を急ぐ。
亜人の集団の後方数キロの地点。
クロスが言ったとおり追跡者達は亜人達の移動の痕跡を追ってきていた。
「・・・この様子だと後2刻もしないうちに捕捉できるだろう。後方の本隊にも伝えておけ」
「分かった」
「俺達は追跡を続行しよう」
追跡者の数は5人。
集団から先行している斥候役のようで、クロスの予想どおり人間のようだ。
「しかし、この2本の痕跡は何だ?何かを引きずったような・・・」
「この先にいるのはラミアの集団だろ?ラミアが這った後じゃないのか?」
「それにしては均一過ぎるな。しかも重すぎる」
「異常に太ったデカいラミアとか・・・」
「そんなわけないだろう。・・・まあいい、追いついてみればその正体が分かるだろう」
追跡者達は痕跡を追った。
数刻後、追跡者を振り切るべく先を急ぐクロス達だが、当のクロスは森の樹の根本に身を隠して銃を構えていた。
(そろそろ追いついてくるか・・・)
クローラーはこの先の藪の中に停止させてその姿を隠している。
兎に角、追跡者が何者であるかを見極めなければならない。
(・・・来た)
やがてクローラーの轍を辿る5人の追跡者が現れた。
5人といっても固まって移動しているのではなく、先行する斥候1人、後続に3人、少し離れて後方警戒に1人と役割を分担しており、互いが連携できる適度な距離を保っている。
少人数での行動に慣れた者達だ。
(斥候に、剣士と盾持ちの戦士、魔法使いに、弓使いはエルフ。装備や服装はバラバラ・・・冒険者か、だとしたら厄介だな)
追跡者の風体と装備は典型的な冒険者のそれだ。
冒険者がそれぞれ異なる依頼人から相反する依頼を受けて、現場で衝突すること自体は珍しいことではない。
ただ、そのようなことになっても、それぞれの冒険者が無駄な争いを避け、双方の妥協点をすり合わせて穏便に済ませることが多いが、時には相手を強制的に排除して目的を達成しようとすることも稀にある。
そうなれば死傷者が出ることも珍しくないが、正規の依頼を受けている以上、余程の瑕疵がない限りはその行為が問題になることは殆どない。
ただ、今回のかなり事情が異なる。
正規な依頼とはいえ、クロスは亜人であるホブゴブリンのリグからの依頼を受けているが、これは異例なことだ。
現れた5人の冒険者がどんな依頼を受けているのかは分からないが、ラミアの里を襲った勢力に与しているのだとすれば、彼等もまた亜人や、魔物の集団か、その背後にいる何者かからの依頼を受けている可能性が高い。
冒険者は一部の例外を除き、犯罪行為に関する依頼を受けることはご法度で、冒険者ギルドの規則に違反する行為だ。
集落を焼き討ちすることなどは明らかに犯罪行為だが、その対象が亜人の集落だとすると事情が変わってくる。
人の集落を襲って住民を攫ったり物資を強奪した亜人の本拠地を叩くといった依頼は多く、それこそそれらの依頼を受けることは冒険者としての本懐だ。
その対象は亜人や魔物に限らず、盗賊等に対しても同じだが、様々な種族が生き、それぞれの習慣があるこの世界ではそういったことに対する線引きが曖昧なのである。
そこで冒険者ギルドの存在が大きく、依頼内容を精査した上で冒険者に仕事を斡旋しているのだが、それでも完璧とはいえず、現場では時として冒険者同士の衝突が起きてしまうのだ。
(できれば彼等との衝突は避けたいところだな)
クロスが潜んでいるのは追っ手を逃れるための策の起点となる場所だが、彼等がクロスの策に嵌まってくれれば余計な衝突を避けることができる。
無論、そうなれば追跡者である冒険者の仕事は失敗となるが、クロスとしては彼等の事情まで心配する義理はない。




