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ラミアの里

 護衛を引き受けることになったクロスだが、リグによれば、護衛対象となる亜人達の総数は約100人程度にのぼるようだ。


 リグの一族のゴブリンが約50人、ディエラの一族のラミアが30人。

 その他にコボルト等の亜人が20人程。

 その中で、まともに戦える者はリグの他に15人しかいないらしい。

 その殆どはゴブリンの戦士だが、本当に戦力になるのはリグを含めた5人のホブゴブリンのみ。

 他は経験の乏しいゴブリンやコボルトの戦士が8人。

 ディエラと他に2人のラミアの戦士もいるが、こちらも戦いの経験は皆無らしい。


 尤も、ディエラ達ラミアの戦士は攻撃魔法が行使できる上、剣や弓の実力も確かだ。

 加えて、強靭な下肢の一撃は一薙ぎで並の人間なら軽々吹き飛ばされて無事では済まないし、巻き付かれて締め上げれば全身の骨が砕かれる程に強力だ。

 一方のリグ達ホブゴブリンも群れを守ってきた歴戦の勇士であり、森に生息する魔獣程度ならば後れを取るようなことはないらしい。


 それでも、100人からの亜人を守る戦力としては手が足りないことは明らかだ。


 クロスがリグ達の依頼を受けたものの、流石にクロス1人とクローラーだけでは護衛の中核をなすわけにもいかない。

 

「クロス1人が加わったとしても厳しいことに違いはない。だが、俺達とは考え方の違う人間の助力がこの上なく貴重だ」


 リグもクロス1人を戦力として期待しているのではなく、人間の冒険者としての知識や着眼点を求めているようだ。


「私達は長い間、この森で平和に暮らしていました。無論、魔物や獣に襲われたり、時として冒険者に狙われたりしたこともありましたが、それも稀なことで、まあ、一族の戦士が精強に育たない程度に平和に慣れてしまっています。リグ達、ゴブリンの戦士もそうですが、私達ラミアの戦士も鍛錬は怠っていませんが、実戦の経験が不足しています。今回の一族の移動、何事もなく済めばいいのですが、不測の事態が発生した場合、冷静でいられるかどうか分からないのです」


 リグとディエラによれば、群れとしてのコミュニティを持たないはぐれの亜人とは違い、群れを持つ彼等は一族としての結束が強く、一族を大切に思い、守らなければならないという感情に押され、時として本能的に行動してしまうことがあるらしい。


「なるほど。つまり、私は冒険者として、実戦力だけでなく、客観的な判断を求められているということか」


 クロスの言葉にリグとディエラが頷く。


 求められている役割は理解した。

 集団の移動を護衛すると共に、全体を俯瞰的に観察して、冷静な判断をするというわけだ。

 しかし、万が一の事態が発生した時、本能に駆られた亜人達がクロスのアドバイスを聞き入れることができるだろうか。

 恐慌状態に陥ってしまえばクロス1人の力ではどうすることもできないだろう。

 これはなかなかに厳しい依頼だ。


 とはいえ、一度引き受けたからには依頼を遂行するために最善を尽くさなければならない。


 兎に角、出発点となるラミアの里へと移動したクロス達。

 そこで赤い森の一族の族長に引き合わされたクロスはリグとディエラがクロスのクローラーの性能について『僥倖だ』と言った理由を知ることになった。


「このような姿で失礼をお許しください。ようこそおいでくださいました。私は赤い森の一族の長のジレスティナと申します」


 寝台の上で半身を起こした状態でクロスを出迎えたジレスティナ。

 上半身の人の部分を見れば30歳そこそこの若さのジレスティナだが、侍女の支えなしでは身体を起こすこともできない程にひどく衰弱している。


 聞けば、赤い森の一族の里は、人間を含む外敵の目を眩ませるために里全体を結界で覆っており、その結界を張るのは一族の中でも特に強い魔力を有する族長のジレスティナの役目なのだが、2ヶ月程前に体調を崩し、それ以降は回復するどころか、原因が分からないまま日に日に体力と魔力が弱くなり、今では1日の大半を寝台の上で過ごすほどであり、里の結界も維持できないほどに衰弱しているそうだ。

 

 今回の依頼はリグがクロスを指名したようなものだが、そんなクロスがリグも知らなかったクローラーで来たことがリグ達にとって僥倖だったということである。


「クロス様のあの乗り物にジレスティナ様を乗せていただきたいのです」


 ディエラがクロスに頭を下げる。

 つまり、身動きが取れず、自らの力で移動することもままならないジレスティナをクローラーに乗せて搬送してほしいということだ。

 

 クロスにしてみれば、ディエラの頼みについては特に問題はない。

 クローラーの後部車室ならジレスティナと、ラミアをもう1人位なら乗せることが可能だ。

 ここまで来たら引き下がるわけにもいかない。

 

「分かりました。ジレスティナさんともう1人ならば、後部の車室に乗ってもらっても大丈夫です」


 クロスの承諾を得たディエラ達は出発の準備に取り掛かった。

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