リグの依頼
「まだ名乗っていなかったな。改めて、水の都市の冒険者のクロスだ」
改めて自己紹介するクロス。
「前にも名乗ったが、深き森の族の族長リグだ」
「赤い森の一族のディエラです」
冒険者とゴブリンとラミアがそれぞれ名乗りあっている姿は傍から見ると異様な光景だ。
「ところでクロス。これは一体何なんだ?」
仕事の話も始まる前からリグとディエラの興味はクロスの背後のクローラーに向けられている。
「私も興味あります。人間達が使う馬車や荷車にも似ていますが、見方を変えると物を収納する倉庫?のようにも見えます。でも、そのどちらとも違いますよね?」
ディエラの観察眼はなかなか鋭い。
「これは私が仕事や移動で使用している装甲車です。馬や牛、魔法の力も必要なく、何処にでも走って行けるし、人や物を運ぶことも出来ます」
クロスの説明を聞いたリグとディエラは互いに顔を見合わせる。
「これは僥倖かもしれん」
「ええ、そうですね。クロスさん、この装甲車?に例えば私のようなラミアが乗ることは可能ですか?」
ラミアは上半身は人(ゴブリンとは逆に殆どが女性)で、下半身が大蛇だ。
ディエラはラミアの中でも小柄だそうだが、それでも下半身だけで3メートルから4メートルの長さがある。
普通の人間に比べれば遥かに大きい、というか、体長が長い。
クロスはクローラーの後部ドアを開いて2人に見せた。
「後部の車室はこのとおりです。普通の人間なら8人位は乗れますが、貴女のようなラミアだと、2人が限度でしょうか?それ以上だと絡まってしまうのではありませんか?」
クロスの言葉にディエラが笑い出す。
「フフフッ・・・。大丈夫、私達の下肢はそこまで不便ではありませんよ。多分、頑張れば6人位は乗れると思います。仮に、クロスさんが今回の仕事を引き受けてくれて、これに乗せてくれるというならば、2人で十分ですけど」
そうは言われても、まだ具体的な話を聞いていない。
クロスはリグを見た。
「結局、私に何を頼みたいんだ?それを聞かないことには何も始まらない」
「確かにそうだな。今回、クロスに頼みたいのは俺達、というか、俺達の群れの女子供を安全な場所に逃がすための護衛だ」
亜人の護衛とは、また突拍子もない依頼だ。
「安全な場所に逃がすって、一体何が起こっているんだ?」
「何者かが俺達を利用しようとしている・・・」
元々リグの一族は冒険者も来ないような森の奥深くに住んでいる。
ディエラ達も同様で、他にも似たような境遇の亜人の群れと共に、人との接触を避け、ひっそりと穏やかに生きているらしい。
しかし、最近になって亜人や魔物を仲間に、というよりも配下にしようとする者が現れて、その勢力を拡大しつつあるとのことだ。
中にはリグ達のように平和に生きていきたいとの考えから誘いを断った群れもあったのだが、それらの群れは攻撃の対象とされ、仲間や配下ではなく、奴隷のような扱いを受けているらしい。
「その相手は魔族か何かか?一体何が目的なんだ?」
「それは俺も分からない。まだ俺やディエラ達の群れに接触はないが、何れ俺達も同じことになりそうだ。俺としては一族を危険に晒すつもりはないし、俺達に関係のない争いごとに加担するつもりもない」
亜人や魔物を集めて力を蓄えているということならば、その相手は人間達である可能性が高いが、リグ達にしてみれば人間と接触することが殆ど無い生活をしているため、人間達を攻撃の対象と見ていないのだ。
「リグ達は人間との争い事に首を突っ込むつもりはないということか?」
クロスの言葉にリグは頷く。
「俺達にしてみれば、人間がどうなろうと興味は無いが、俺達がそれに加わる理由もない。現に俺達の住処は人間の集落から離れていて、お互いに顔を合わせる機会もない。稀に道に迷った人間が集落の近くにまで来ることがあるが、俺達に敵対行為をしなければ、何もせずに引き返させ、場合によっては人間の集落近くまで送り届けることもある」
「程度な距離感を保っているということか」
「ああ、俺達は無駄な争いは望まない。仮に俺達が人間達に危害を加えれば、人間達は女子供までも攻撃の対象とするだろう。人間は、俺達を魔物として見る者も多いし、そうでなくともゴブリンはゴブリン、ラミアはラミアでしかないだろうからな。無論、人間に限らず俺達に危害を加えようというならば俺達も牙を剥くが、今のところそんな必要もないし、お互いにそんなことにならない方がいい」
リグの言うとおり、人間は自分達に友好的な亜人以外は全て魔物と一括りにして考えている者も多く、ゴブリンやオーク等の非友好的な亜人と見るや、問答無用で討伐対象とする冒険者も多いことは確かだ。
普段は亜人や魔物でも必要以上に関わったり、刺激しないクロスでも、相手が向かってくるならば最大限の反撃をするし、依頼として受けたならば討伐も行う。
尤も、クロスの場合は魔物だけでなく、必要があれば人にもその銃口を向けるのだが、クロスのような考え方をする人間は少数であることは間違いない。
「余計な争いに巻き込まれないために避難して姿を隠してしまう。そのための護衛を頼みたいと?」
「ああ。俺も含めて一族には戦える者もいるが数が少ない。それに、これまで平和に暮らしていたせいか、戦士でも戦いに慣れていない者ばかりだ。俺やディエラの一族、他の群れの連中が一度に移動するには護衛の手が足りない」
「そこに私1人が加わっても大した戦力にはならないのでは?」
「確かに手は足りないが、俺達の頼みを引き受けてくれる人間はそうはいないだろう。むしろ、お前以外の人間に護衛を頼むのは危険過ぎる」
クロスもまだ引き受けるとは言っていないが、リグの言うとおり、ゴブリンが人間の冒険者に護衛を依頼したところで引き受ける者はいないだろう。
それどころか、希少種のラミアの集落の存在を知れば、実績と素材目当てに討伐対象にすらなりかねない。
「賢明な判断だが、私も随分と見込まれたもんだな」
「1度会っただけだが、お前の性質は知っている。俺も群れを率いる族長だ、見る目はあるつもりだ」
クロスは肩を竦めて笑った。
ここまで見込まれては悪い気はしないし、事情を知った以上、断って引き返すわけにもいかないだろう。
そして何より、人間に対抗しようとして力を蓄えている何者かの存在は無視できるものではない。
「分かった、依頼を引き受ける」




