再会
クローラーで西に向かったクロスは目的の街道沿いに到着した。
既に日暮れも近づいており、周囲も森の木々に覆われて薄暗くなってきている。
加えて森林地帯を抜ける街道といっても、その距離は長い。
とりあえず街道の中間地点に停止してみたが、依頼者が接触してくるような場所だとは思えない。
そもそも、長い街道の何処かで接触してくるなんて、抽象的すぎる。
「さて、どうしたものかな」
もうすぐ夜になる。
依頼者が来るにしても明日以降だろう。
かといって、付近には人が住む集落も無いので、とりあえずクローラーの中で待機してみることにした。
「こんな所で接触してくるなんて、絶対にまともな依頼ではないよな・・・」
クローラーのハッチを閉めながら1人呟くクロス。
魔物達の住む森の中でも装甲の中で夜営できるのは強みだ。
エンジンを止め、例によって窓を少し開けて周囲の音を頼りに警戒に当たる。
街道沿いは強力な魔物が出没することは稀だからこれで十分だろう。
周囲の音に気を配ること数刻。
周囲はすっかり闇に包まれていた。
・・・サクッ・・パキッ・・サクッ・・サクッ・・・
・・カサカサ・・スルスルスル・・
何かが近づいて来る。
(二足歩行・・・1人・・・人じゃない・・・警戒はしているが足音を顰ませる様子もない。それにもう1つ?何かを引きずっている?・・・来たか)
依頼者が接触するために近づいてきた可能性がある。
クロスは上部ハッチを開いて運転席から身を乗り出した。
足音の方向は分かっている。
ライフルに弾丸を装填して足音のする方向に目を凝らす。
「・・・久しいな。来てくれてありがたく思う」
闇の中から現れたのは1体のホブゴブリン。
革鎧を纏い、弓と剣を携えている。
かつて、クロスが貴族を暗殺した際に森の中で出会ったリグと名乗るホブゴブリンだ。
「まさか、お前が依頼人なのか?」
クロスの問いにリグは頷く。
「俺達の一族を含めた幾つかの集落が危機に瀕している。俺達ではどうにもできないので、冒険者であるお前に助力を頼んだ。お前達人間が俺達を魔物と呼んで敵視していることや、俺の頼みを聞いたお前の立場が悪くなることも理解している。断られて当然のことだが、せめて話だけでも聞いてほしい」
相変わらずリグに敵意は見られない。
本当に冒険者、というかクロスに助けて欲しいようだ。
まさかのゴブリンからの依頼。
魔物に分類される敵性亜人からの依頼なんて前代未聞だ。
クロスはクローラーから降りてリグの前に立つ。
「とりあえず話を聞いてみる。引き受けるかどうかはその後だ」
「ありがたい」
クロスの言葉に安堵するリグ。
確かに他の冒険者なら絶対に引き受けることはないだろう。
魔物を手助けしたなんて周りに知られたら冒険者としての信用は地に落ちる。
しかし、実を言うと、敵性亜人とはいえ、その依頼を受けること自体はギルドの規則に違反していない。
例えば、ダークエルフや獣人等の亜人はその個人や所属する一族や組織によって友好的か非友好的かに分かれてしまう。
無論、それは人間や他の亜人も同じことだ。
そのような事情もあり、冒険者ギルドの規則では依頼人についての制限は定められていない。
どちらかといえば『認められている』というより『駄目ではない』ということなのである。
「ただ、依頼の内容が公序良俗に反することならば引き受けることはできない」
「公序良俗という言葉の意味が分からないが、別にお前を利用して人間どもを害しようとか、お前達の世界の掟に反することにはならない・・・と思う」
クロスは頷き、そしてリグの背後の森の中を見た。
「話を聞く前に、そこにいる人にも出てきてもらいたい。気になって仕方ない」
リグの背後の木の陰に隠れている者がいる。
リグ同様に敵意は感じられないが、クロスとクローラーを警戒しているのだろう。
「気づいていたか?」
「ああ、リグの足音の他にも聞き慣れない音がしたからな。それに、種族の特性なのか?こちらを見る眼が光っているぞ」
クロスの指摘したとおり、闇の中からクロスを見る僅かに赤く光る眼。
リグが肩を竦めて笑う。
「大丈夫だディエラ。この人間は信じられる」
「・・・はい」
・・・スルスルスル・・・
リグに促され、闇の中から姿を見せたのはゴブリンでも、人間でもなかった。
「お初にお目にかかります、黒衣の人。私は赤い森の一族の族長の娘、ディエラと申します」
ディエラと名乗ったその女性は赤く長い髪に暗闇で赤く光る瞳、人の上半身に蛇のような下肢。
ゴブリン同様に敵性亜人とされているラミアだ。
「申し訳ございません。リグ様が話をつけてくると申していたのですが、人間の冒険者に助力を頼むなど前例のないこと。無理を言って同行させていただきました」
ディエラはそう言うが、クロス、というか、人間側にしてもゴブリンやラミアからの依頼を受けるなんて前代未聞だ。




