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舞踏会の夜

 牢獄から出されたばかりのライオネルは、満足に話す事も、歩く事もできなかった。年齢は十三歳なのに、三歳くらいの知能しかないとダリダン伯爵が言っていたが、ライオネルは生活していく上で必要な事をすべて忘れてしまっているようで、食事から着替えから、何もかもを一から教えなければならなかった。ユリはしばらくの間、ライオネルがまともな生活ができるよう、毎日つきっきりで世話をしていた。しかし、ライオネルは口で注意しただけでは素直に言う事を聞いてくれず、暴れ回ったり、泣きじゃくったりして、いつも大騒動になっていた。最近では、その様子を見かねたシーラが、仕事の合間をぬって手助けに来てくれるようになった。シーラから様子を聞き、心配したカイトも、仕事が終わった夜間にユリの部屋を訪れ、ライオネルの相手をしてくれるようになっていた。ライオネルは、この三人だけには懐いていたが、他の屋敷の使用人やアルフレッドには決して近づこうとはしなかった。そしてそれは、彼の実の母、シモーヌに対しても同じ事だった。シモーヌは、ライオネルが釈放されてから、ただの一度も彼に会いに来た事がない。

「いくら〝物狂い〟になったからと言っても、実の息子には変わりないのに。どうして会いに来ないんだろう。」

 いつか、ユリがふと本音を漏らした事があった。すると、傍で眠るライオネルの髪を優しく撫でながら、シーラが、

「貴族の名門のご家庭というものは、名誉や地位を重んじるものです、ユリ様。時にそれは、血の繋がった者への愛情を凌駕してしまうほどに、彼らにとって大切なものなのです。…私は最近、シモーヌ様から、ライオネル様に対する憎しみに似た感情さえ、感じられてしまうのです。」

 言い終えてから、シーラは〝しまった〟というように目を見開き、青ざめた。

「も、申し訳ありません、ユリ様!使用人の分際で、出過ぎた口を聞いてしまいました。お許しください。」

「いいんだ、シーラ。気にしないでくれ。それは私も薄々感じていた。お義母様にとってライオネルは、やっと授かったボードレール伯爵家の跡取り息子だったはずだ。それが、夫であるフィリップ様が亡くなり、ライオネルも〝物狂い〟になってしまい伯爵家の後を継ぐ事がかなわなくなった。挙句のはてに、妾の息子である私が伯爵家を継ぐ事になったのだ。お義母様の苦悩は、計り知れないはずだ。…お義母様がたとえライオネルの事を憎むようになってしまっても、簡単に攻める事はできないのかもしれない。」

 ユリはそう言うと、微かな寝息を立てて眠るライオネルの横顔に目線を映した。

「ただ、一番哀れなのは、何の罪もないこの子である事は確かだ。私はお義母様の分まで、この子に愛情を注いで、この子が寂しい思いをしないように傍にいてあげたいと思っている。」

「ユリ様はお優しいですね。あなた様の献身的なお世話のおかげで、近頃のライオネル様は、以前とは見違えるほどたくさんお話しになるし、前よりも長い距離を歩けるようになられています。最初は青白かったお顔の色も、だんだん回復して来られています。ライオネル様はユリ様と出会えて、本当にお幸せになられたと思いますよ。」

「ありがとう、シーラ。そう言ってもらえると、すごく嬉しい。」

 ユリはそう答えて、シーラと微笑み合った。その二人の様子を、カイトは窓の外から穏やかな表情で見つめていた。


翌日の早朝、使用人部屋で寝ていたカイトは、いきなりシーラに叩き起こされた。

「シーラ…何だよ、こんな朝早くに!」

「何だよじゃないでしょ。早く起きて馬小屋に来てちょうだい。みんな待ってるんだからね!」

 シーラは頬を膨らませてそう言うと、カイトにくるりと背中を向けて歩き出した。

「馬小屋ね、はいはい。」

 カイトはまだ眠い目をこすりながらモソモソと立ち上がった。最近カイトは、使用人達に文字の読み書きを教えている。使用人達の一日は忙しく、文字の読み書きを教わる時間も場所もないため、早朝に起きて馬小屋の隅を教室とする事にしたのだ。なぜ、カイトが使用人達に読み書きを教えているかといういきさつは、こうだ。ライオネルが釈放されて間もない頃、カイトは、シーラから育ての親だという人を紹介された。ボサボサに伸びきった髪に無精ひげ、色あせた服を身に纏ったその初老の男は、アレンと言い、代々ボードレール家の御者をしているという事だった。アレンは、舌の前半分が切れていて、物事をはっきりと喋れない。普通の日常会話であれば、シーラなら何を言っているのかだいたい分かる程度だ。それも、はっきりとした言葉にはならないため、他の使用人では、アレンが何を言いたいのかさっぱり理解する事ができない。どうしてアレンの舌が切断されてしまっているのか気になったが、昨日今日初めて会った仲で聞く事ではないと思い、カイトは事情を聞こうとはしなかった。しかし、彼が代々ボードレール家の御者をしているという事には、興味を持った。あの、母親が亡くなった凄惨な事故。そして、母親の遺体の側に転がっていた、薔薇の紋章が描かれた馬車の車輪。今までは考えてみた事もなかったが、馬車の事故であるならば、その馬車にはフィリップ以外にも御者が乗っていたはずだ。その御者は、今はどうしているのだろう。事故で死んだのか、あるいはどこかで生きているのか。同じ御者であるアレンならば、何か知っているのではないか。カイトは、はやる心を抑えられず、思わずアレンに尋ねてしまっていた。

「なあ、あんた。御者なんだろ?だったら、十三年前のあの馬車の事故の事、何か知っていないか?あの時フィリップ様を乗せてた御者は今どうしてるんだ?」

 すると、アレンは両目を見開き、みるみるうちに青ざめた。

「あ…う…」

 何かを言いたそうにしているアレンの様子を見て、カイトはテーブルの上にあった羊皮紙とペンを手にすると、

「何が言いたいんだ?これに書いてくれ。」

 と差し出した。すると、アレンは途端に悲しそうな表情になり、下を向いてしまった。見かねたシーラが、羊皮紙とペンをそっと受け取ると、

「ごめんなさい、カイト。私達使用人は文字の読み書きなんてできないの。アレンは何か言いたそうにしているけれど、難しい言葉は喋れないし、あなたのお役には立てそうにないわ。」

 と、残念そうな顔をした。

「あ、あ。そうだよな。…俺の方こそ、ごめん。御者と聞いて、つい昔の事を思い出して、取り乱してしまった。」

 カイトはそう言うと、気まずそうに頭を掻いた。ややあって、シーラが不思議そうな顔をして、

「でもカイト、十三年前にフィリップ様が馬車の事故でお亡くなりになったって、何で知ってるの?使用人である私達でさえ、事故の詳しい内容は聞かされていないのに。」

 と聞いてきた。

「え…いや。ちょっと、噂で聞いただけだよ。」

「何で、その時の御者の人の事を気にするの?」

「いや、大した意味は無いんだ。ただ、どんな事故だったのか知りたいだけなんだ。ちょっとした好奇心だよ。」

 しまった、早まった事をした。カイトの額にうっすらと汗がにじんでいた。

「あの事故の事は、私がこのお屋敷に来る前の事だから、良く知らないの。昔から勤めている使用人達にも秘密にしてあるみたいで、あの事故の事を知っているのは、伯爵様とシモーヌ様くらいのものじゃないかしら。」

「…そうか。その事故に巻き込まれた人がいるという話は聞かないか?」

「え…?巻き込まれた人?…ごめんなさい、知らないわ。」

 シーラは申し訳なさそうに俯く。カイトは、「そうか」と言って部屋から出て行こうとした。

「カイト、その巻き込まれた人って」

 シーラが言うか言わないかのうちに、カイトは険しい顔をして彼女の口を手で塞いだ。

「おい、この事は、誰にも言うなよ。」

 カイトの瞳が、炎を写し取ったかのように赤く燃えていた。シーラはカイトのあまりの気迫に怖くなり、後ずさった。ややあって、シーラは何かを決心したように顔を上げると、

「わかった、誰にも言わない。…でもその代わり、事故の事を調べるの、私にも手伝わせて。」

 と言った。

「何だって…?」

「その事故で巻き込まれた人、あなたの大切な人だったんでしょ?…聞かなくても分かるわ。あなたがどれだけ無念な思いでいるかも、ね。私も知りたいのよ。ボードレール伯爵家で何が起こっているのか。アレンに昔、何があったのか。…何で、アレンは舌を切断されてしまったのか。今まで、なんとなく恐ろしくて聞けなかったけど、今はもう事情が変わったわ。あなたの大切な人が、あの事故の犠牲者であるなら、私達は過去から目を背けてはならない。過去と真剣に向き合って、十三年前に何があったのか知らなければならないと思うの。だからカイト、お願い。アレンに字を教えてあげて。アレンが字を書けるようになれば、十三年前のあの事故について知っている事を教えてもらえるわ。」

 シーラの思わぬ提案に、カイトは唖然とする。

「…なるほど、言われてみれば確かにそうだな。アレンに字を教えれば、彼が知っている事を話してもらえるな。」

 二人の会話を聞き、部屋の奥にいたアレンが決意の表情でコックリと頷いた。彼の眼には、うっすらと涙が溜まっているようだった―。その日から毎日、カイトはアレンとシーラに文字の読み書きを教えるようになった。その話を聞きつけた他の使用人達も、早起きしてカイトの授業を聞きにくるようになったのだ。ルーアンから教えてもらった知識が、こんな所で役に立つとは。カイトはメリル村の上品な老紳士を思い出し、胸を熱くしていた。


 同じ頃、ユリは、来月に開かれるという舞踏会の準備に追われていた。先日ダリダン伯爵から、今度の舞踏会で正式にボードレール家の次期当主としてユリを社交界デビューさせるという話をされたのだ。田舎で育った彼女にとって、舞踏会など初めての経験だ。その日から毎日、アルフレッドの指導のもと、舞踏会に出るための礼儀作法や列席者の情報などを頭に叩き込む日々が始まった。それと並行して、ダンスのレッスンも開始された。ユリは、ルーアンからダンスの仕方を多少習ってはいたが、それはあくまで女性パートだったため、男性パートの作法には疎く、まるで一からダンスを教わるように難しく感じていた。レッスンでは、アルフレッドが女性パートを担当してくれていたが、容量を得ないユリは、またしてもアルフレッドの足を踏みつけたり、転びそうになって彼に身体を支えてもらったりと、散々な思いをしていた。二人のレッスンの様子を、ライオネルはいつも楽しそうにニコニコしながら見物していた。

「お兄様、頑張って。」

 ライオネルに恥ずかしい所を見られ、挙句の果てに励まされてしまい、ユリはなんだか悲しくなりながら、

「うん。ありがとう、ライオネル。」

 と礼を言った。と、目の前のアルフレッドから、

「よそ見なさっていると、また先ほどのように転んでしまいますよ。」

 とたしなめられてしまった。

「うるさいっ!さっきのは、たまたまだ。」

 ユリは、頬を赤く染めてそう言うと、アルフレッドから目を逸らした。どうしてこの男は、何もかも完璧にできるんだろう。なんだか、自分がアルフレッドに見下されているようで、少し腹を立てていた。アルフレッドの身のこなしは、一部の隙もなく、それでいてどこか優雅で、余裕の表情で音楽に合わせてダンスする姿は、美しいと認めざるを得なかった。一緒に踊っていると、彼の上品な佇まいに、思わず見とれてしまう事もしばしばだった。ときたま、眼鏡越しに彼の漆黒の瞳と目線が合った。そのたびに、なぜかユリの心臓は跳ね上がり、思わず彼から目を逸らしてしまっていた。ダンスのレッスンが終わると、それまで見物していたライオネルが、嬉しそうにユリの下に走ってきた。

「お兄様、とても綺麗だった!」

 ライオネルはそう言って、ユリに抱き付いてきた。

「そうか?ダメダメだった気がするが…」

 ユリは恥ずかしそうに笑うと、ライオネルの頭を撫でた。最近、ライオネルは良く笑い、よくしゃべるようになった。おまけに、前は歩く事すらままならなかったのに、今ではああやって走る事もできるようになった。その幸せそうな成長ぶりを、微笑ましく感じていた。と、ユリの目に、門の側で腕組みをしてこちらを見ている一人の紳士の姿が飛び込んできた。

「…小父様!」

 瞳を輝かせて叫んだユリに、ラルフは穏やかな笑みを返した。と、ユリの腕の中にいたライオネルがピクッと動くと、

「ラルフおじさま?」

 と小さく呟いた。そして、ユリの腕から離れると、ラルフの方へ駈け出した。途中、足がもつれて転びそうになったのを、ラルフが走ってきて受け止めた。

「ライオネル、少し背が伸びたんじゃないか?もうこんなに走れるようになったのか。関心だ。」

 ラルフはそう言うと、愛おしそうにラルフの頬をなぞった。それから、ユリの方に目を向けると、

「ライオネルを救ってくれてありがとう、ユリ。大変だったんじゃないか?」

 と言った。ユリは無言で静かに頭を振った。こんな事、何でもない。小父様が助けたい人を助ける事ができた。そして、目の前の二人は今、こんなに幸せそうに微笑んでいる。それだけで、ユリの胸は喜びで満たされていた。女性としての一生を捨て、自分の人生を掛けただけの価値が、そこには確かに存在しているように感じられた。たとえ、小父様にとっての一番でなくてもいい。小父様にとって、手駒の一つであっても構わない。ただこの人の傍にいられたら、この人の人生に関わっていられる事ができるのであれば、私はそれでいい。そう思うユリの瞳には、なぜかじんわりと涙がにじんでいたのだった。


 舞踏会初日、ラルフは、ジュリアン王子に謁見していた。アリラン王国の現国王ダリルⅡ世は、数年前から重い病に罹っており、余命いくばくもないと言われている。今王宮では、王位継承権をめぐって二つの派閥ができていた。現国王の息子であるジュリアン王子を推す一派と、王の弟であるポール・アバン公爵の一派だ。ダリダン伯爵は、シモーヌの異母兄であるアバン公爵と懇意にしている。古くからの名家であり、莫大な富と権力を誇るボードレール伯爵家の後ろ盾がある事もあり、古参の貴族の多くが、アバン公爵側についていた。一方、年若く聡明なジュリアン王子の下には、若い貴族の子息たちが集まり、日夜王国の政治について熱く論じ合っていた。ジュリアン王子は二十四歳になる。数年前、海を隔てた大陸にある友好国に留学に行った経験があり、そこへ遊学していたラルフと意気投合し、帰国してからもお互いに交流を持っていた。ラルフは、聡明で心優しく、大陸の政治や文化にも精通したこの若者の事を気にいっていた。

「ご無沙汰しておりました、ジュリアン殿下。」

 部屋に通されたラルフは、そう言ってお辞儀をした。ジュリアン王子は穏やかに微笑むと、

「久しぶりだな、ラルフ。お元気そうでなによりだ。」

 と言った。

「さっそくだが、ラルフ。聞いているか?先日も、国土の西海岸の方で、民衆による反乱が起きたらしい。」

 ジュリアン王子は悲痛な面持ちで窓の外を眺めていた。

「はい、聞き及んでおります。ポール・アバン公爵がさっそくに軍を派遣し、反乱の鎮圧に向かわせたとか。」

 ラルフの言葉に、ジュリアン王子は憂鬱そうに溜息をつく。

「今回、西海岸で起きた反乱は、氷山の一角に過ぎない。今この国では、貴族と民衆の間で貧富の差が激しく、民衆は苦しい生活を強いられている。武力で強制的に反乱を鎮圧しても、無駄に血を流すだけで、何の解決にもなりはしない。話し合いで解決できるならそうしてほしいと、私も叔父君にお願いをしたのだが、聞き入れてもらえなかった。」

「現在この国では、地方税は各領主の采配に任されています。中には、地方税を不正に増やし、民衆を苦しめている領主も少なくありません。…この国には、大陸にあるような法律というものが無く、貴族が民衆を治める統治国家が当たり前だという考えが根強く残っている。古参の貴族の中には、民衆をまるで人間とは思っていない者も多い。…ポール・アバン公爵然り、ですが。長い間貴族の統治に苦しめられ、虐げられてきた民衆の不満は、計り知れないでしょうね。私は大陸に渡り、農民や貴族といった身分の隔たりなく、皆が平等に生活している様を目の当たりにしました。世襲制の王族もなく、国のリーダーは民衆が話し合って決めていた。国の政策も、法律というものにのっとって話し合いで制定される。そのような国のあり方こそ、これからの時代に相応しいものではないかと考えています。」

 ラルフは静かに、一言一言をかみしめるように話した。その話に、ジュリアン王子は深く頷く。

「私も、大陸に渡って思ったよ。大陸では、民衆皆が平等に教育を学び、好きな仕事に就いていた。その民達の顔には、いつも笑顔があった。大陸では、民達一人一人の力が、とても強いように感じられたものだった。先の戦争の時、大陸とわが国は同盟を結んで共に戦ったから良かったものの、もし今後大陸と袂をわかち、戦争する事になったら、わが国ははたして勝つ事ができるのか、不安に思うよ。」

 ジュリアン王子は物憂げな表情で俯いた。

「今わが国は、変革の時を迫られています。わが国は変わらなければならない。いつまでも、時代遅れの身分制度に胡坐をかいているようではだめなのです。大陸のように、身分制度のない、平等で誰もが笑って暮らせる国を目指さなければ。」

 そう言うラルフに、ジュリアン王子は向き直ると、

「あなたは、できると思いますか。そのような理想の国作りが。」

 と問いかけた。すると、ラルフは居住まいをただし、真っ直ぐな瞳を向け、

「できますよ。…あなた様が王位を継がれましたら、必ずや、ね。」

 と言った。

「王位か…。しかし、今ほとんどの古参の貴族達は、ボードレール伯爵に影響され、叔父君の側についている。このままでは、あきらかに私に分が悪いと思うが。」

「ご安心ください、ジュリアン殿下。既に手は打ってあります。」

 ラルフの眼が野心を映して鋭く光った。

「ほう。…それは、どのような?」

「私には、大事に温めてきた切り札があるのです。今夜、その切り札をあなた様にお見せしようと思い、参上いたしました。」

 そう言うとラルフは、ジュリアン王子に背を向けて、部屋から出て行こうとした。ドアの前で一度立ち止まると、彼は優雅に振り返り、

「では、殿下。また舞踏会でお会いしましょう。」

 と言い、光を宿した眼を細めた。


 その日の舞踏会は、王宮のダンスホールで開催されていた。都の名のある貴族達が招待されており、華やかで豪華な衣装を身に纏った招待客の熱気で、ダンスホールは溢れかえっていた。舞踏会に生まれて初めて参加するユリは、緊張の面持ちで馬車から顔を覗かせた。と、先に降りたアルフレッドが右手を差し出してきた。

「どうぞ、ユリ様。」

 眼鏡の奥から、漆黒の瞳が意味ありげにユリを見上げていた。ユリは、その視線に気づかないふりをして、無言でアルフレッドの手をとり、馬車から降り立った。ダンスホールの入り口に立つと、中から華やかな音楽と招待客の雑談の声が聞こえてきた。ご婦人方の香水の香りや料理の匂いが立ち込め、ユリは、早くも舞踏会に参加した事を後悔し始めていた。しばらく所在なくしていると、人込みをかきわけ、こちらに手を振っている人物が目に入った。ラルフだった。

「やあ、ユリ。来たね。今日はまた一段と麗しいな。私が贈った衣装も良く似合っている。」

 ラルフは満足げに腕組みをして頷いた。今夜のユリの衣装は、数日前にラルフが特別に仕立てさせて贈ってきたものだった。ドレスではなく、男性の衣装である事が少し悲しかったが、それでも、ラルフからの初めての贈り物に、彼女の心は躍った。アルフレッドは、面白くなさそうに二人から視線を外していた。

「小父様こそ、今日は一段と素敵です。」

 ユリは頬を赤く染め、上品な装いに身を包んだラルフに見とれていた。

「おやおや。この子はいつのまにか、お世辞まで言えるようになったんだね。私が年を取るわけだ。…今日は、ライオネルは?」

「ライオネルは、今日はカイトが見てくれています。ライオネルも舞踏会に来たがったのですが、あの子もまだ体調が万全ではありませんし、今日は留守番させておく事にしました。」

「そうか」

 ラルフは優しく微笑むと、ややあって、ダンスホールの奥の方に視線をやった。ユリはそれに気づき、

「どなたか探しておられるのですか?」

 と聞いた。と、ラルフはユリに向き直り、

「ああ。実は、君に紹介したいお方がおられるのだ。アルフレッド、少しの間、ユリを借りるぞ。」

 と言った。

「…どうぞ。」

 アルフレッドは短い返事を寄越すと、その場を離れて行った。

「小父様、私に紹介したいお方とは?」

 アルフレッドが消えて行った方向に顔を向けたまま、ユリが聞いた。

「こっちだよ、ユリ。来なさい。」

 ラルフはそう言うと、ダンスホールの奥の方へ歩を進めた。ユリは、ラルフからはぐれないように急いで後を追った。ダンスホールの一番奥には、金の装飾が施された豪華な玉座が据えてある。今、その玉座の主は、病状が思わしくなく、王宮の奥で寝込んだままだ。玉座の隣にある比較的質素な椅子に、穏やかな表情で招待客からの挨拶を受ける年若い男性が座っていた。ラルフは、ユリにその男性を示し、

「あの方が王位継承権第二位の、ジュリアン殿下だ。ユリ、挨拶して来るといい。」

 と言った。

「あの方が、ジュリアン殿下…」

 メリル村にいた頃は、はるか遠くからしか見る事ができなかった王宮。小さい頃は、王宮の中にはどんな人物が暮らしているのか、想像に胸を膨らませていたものだった。今、自分はその王宮の中にいる。しかも、一生お会いすることなど叶わないお方だと思っていたジュリアン殿下に、こうして挨拶しようとしている。なんだか、夢のように不思議な気分だった。挨拶する招待客の列が進み、いよいよユリとラルフの番が回ってきた。ユリは、隣のラルフがするのを真似て、できる限り丁寧にお辞儀をした。

「ジュリアン殿下、ご機嫌麗しゅう存じ上げます。こちらが、先ほどお話した、ボードレール伯爵家の次期当主、ユリで御座います。」

 ラルフはそう言うと、横目でちらっとユリに合図してきた。ユリは、ハッとかしこまると、

「初めてお目にかかります。今後とも、何卒、よろしくお願い申し上げます。」

 と挨拶した。緊張のあまり、声が少し上ずってしまっていたようで、それに気づいたラルフが思わず小さく噴き出していた。ジュリアン王子は、その様子に目を細めると、

「あなたの事は、先だってラルフから聞いていました。私の方こそ、これから何かと力になってもらう事があろうかと思う。よろしく頼みますよ、ユリ殿。」

 と言った。

「は、はい!」

 ユリは慌ててお辞儀をすると、ジュリアン王子の前を辞した。緊張で鼓動が高鳴っていた。夢にまで見た、王子様と会話してしまった!何か失礼な事を言いはしなかっただろうか。そう思うと、冷や汗が浮かんだ。ラルフは、緊張が解けない様子のユリの姿を見て、

「ユリ。そんなに緊張する事はない。ジュリアン殿下はお優しい方だから、大丈夫だよ。」

 と慰めてくれた。と、二人の様子を遠慮気に遠くから見つめていたご婦人方が、恐る恐るこちらに近づいてきた。

「あの、ラルフ様、ご機嫌よう。」

 一人のご婦人がラルフに声をかけると、傍にいたご婦人方が我先にとこぞってラルフに話しかけた。ユリがオロオロしているうちに、あっという間にラルフは取り巻きのご婦人方に囲まれてしまった。

「小父様。あんなにご婦人方に人気があるのね。」

 その様子を、ユリは呆気にとられて見ていた。と、一人のご婦人がラルフの手をとって、ダンスホールの中央に彼を誘った。ちょうど、ロマンチックな曲調の音楽が流れてきた。その曲に合わせ、二人は優雅にダンスを始めた。ユリは、その二人から目が離せずにいた。優しそうな微笑みを浮かべながら女性をエスコートするラルフの腕、背中は、とても男らしく堂々としていた。人生で一度でいいから、あんなふうにラルフにエスコートしてもらう事ができたら、どんなにか幸せだろうに。彼の残り香が漂う中、決して叶う事のない苦しい望みが、彼女の胸をいっぱいにしていた。


「あらユリ。どうしたのかしら、ぼーっとして?」

 いつの間に来ていたのか、目の前にシモーヌが立っていた。けばけばしく着飾った彼女は、彼女よりも少し年長と思われる男性の腕に手を絡めていた。

「お母様、いらしていたのですね。」

 ユリは目のやり場に困り、気まずくなってそっぽを向いた。シモーヌは、余裕の笑みを崩す事なく、

「ユリ、あなたさっきジュリアン殿下に挨拶をしていたみたいだけど、肝心なお方にご挨拶するのを、忘れているんじゃないかしら?」

 と言ってきた。

「…?一体、どなたの事ですか?」

「あらあら。忘れてもらっては困るわ。ジュリアン殿下は、あくまでも王位継承権第二位。正当な王位継承権を持っておられるのは、私の兄上様なのですよ。ねえ、兄上様?」

 シモーヌはそう言うと、隣に立っている男性の方に向き直り、微笑んだ。隣の男性は、表情を崩す事なく、目の前に立っているユリの姿を舐めるように見回した。

「そなたが、新しくボードレール伯爵家の次期当主候補となったユリか。…想像していたよりも遥かに華奢で、まるで女性のような体型だな。このような優男に、ボードレール伯爵の後を継ぐ事ができるのか、甚だ疑問だ。」

 ポール・アバン公爵はそう言うと、意地の悪い笑顔を浮かべた。

「あら、仕方ありませんわ、お兄様。ユリの母親は、何しろ一介の使用人だったのですから。血は争えないという事ですわ。いくら顔が綺麗でも、中身が無ければどうしようもありませんよね。」

 シモーヌはそう言うと、扇をかざして高笑いをしてみせた。ユリは母親の悪口を言われ、内心とても悔しい思いでいっぱいだった。しかし、ここで逆上しては、こいつらの思う壺だと思い、怒りをぐっと堪えた。と、アバン公爵が咳払いをし、

「ところで、ユリ殿。君は、今西海岸の方で反乱が起きている事は知っているか?」

 と聞いてきた。ユリは、急に固い話題に変わった事に驚き、居住まいを正した。

「はい、聞き及んでいます。」

「先だっても、私の直轄の軍を鎮圧に向かわせたが、悪天候も相まってなかなか鎮圧できずにいるらしい。このまま反乱が長引くようなら、君には足が悪いダリダン伯爵に代わって、鎮圧部隊に参加してもらう事になるかも知れん。もちろん、了承してくれるな?」

「…わかりました。」

 ユリの額に、じんわりと汗が浮かんだ。反乱軍の鎮圧部隊…?軍隊経験も無い田舎娘だった私に、そんな事ができるんだろうか。恐怖と不安が入り混じった複雑な感情が湧いてきた。ユリの深刻そうな表情を見て、アバン公爵はニンマリと笑うと、

「なに、心配する事はない。鎮圧部隊に参加すると言っても、君は貴族だ。前線には出ず、鎮圧部隊の後方で指揮だけ執ってくれていれば問題はない。安全な所で茶でも飲んでいれば、そのうち反乱は鎮まるだろうよ。君に鎮圧部隊に参加してもらう事は、単なる形式的なものに過ぎない。今後、君がボードレール伯爵家を継ぐものとして、反乱軍の鎮圧に従事したとなれば、君の名声も広まるというものだ。」

 と言った。ユリは薄々気づいていた。この男は、私を自分の側に引き込もうとしている。アバン公爵が王位に最も近いと言われている所以は、この男の後ろにダリダン伯爵がついているからだ。しかし、ダリダン伯爵は高齢で、いつ倒れるかもわからない身だ。ダリダン伯爵亡き後、伯爵家を継ぐのはユリだ。いまのうちから、彼女を自分の側に取り込んでおいて、王位を狙う上で少しでもジュリアン王子より優位に立ちたいという腹積もりなのだろう。アバン公爵の声がかりでユリが鎮圧軍に参加し、名声を得たとなれば、当然アバン公爵に借りができる。両者の関係を密接で強固なものにしておきたいのだろう。…一方ラルフは、ジュリアン王子の強力な支持者だ。ユリがアバン公爵に近づく事を、決して喜ばないはずだ。しかし、ここでこの男の要求を断れば、ボードレール伯爵家の長男としてのユリの立場が悪くなる。ボードレール伯爵家とアバン公爵家は、親密な間柄なのだ。

「詳しい日程は、また後日知らせる。…頼りにしているぞ、ユリ殿。」

 そう言い残し、二人はユリの前から姿を消した。ユリは、まるで自分の身体と心が二つに切り裂かれるような思いがして、その場に立ち尽くしてしまっていた。ラルフのためにボードレール伯爵家に入ったのに、私は今、彼の意に沿わぬ方向に足を踏み入れようとしているのではないのか。一体、どうしたら良いのだろう?当初ユリは、ラルフの望みは、彼女がボードレール伯爵家を継ぐ事だと考えていた。しかしラルフは、伯爵家などという小さな器ではなく、もっと大きなものを見ているのではないかという気がする。今回のこの選択が、はたして彼のその大きな野望に沿ったものであるのかどうか、不安でならなかった。

「小父様…」

 助けて、という心の叫びは、ダンスホールの雑踏の中に小さく消えていった。


「ユリ様、大丈夫ですか?お顔の色が優れないようですが…」

 馬車に揺られながら屋敷に帰る途中、アルフレッドが心配そうにユリの顔を覗き込んだ。茫然としていたユリは、ハッと我に返り、顔を上げた。

「なんでもない。それよりも、アルフレッド。これからは忙しくなるぞ。先ほど、ポール・アバン公爵から、西海岸の反乱の鎮圧部隊に参加するよう申し出を受けた。」

「…反乱の鎮圧部隊、ですか?」

 アルフレッドの表情が曇った。

「ああ。お前も知っている通り、私は従軍経験がない。確かお前は、若い頃一時期戦争に行っていた事があると聞いた。屋敷へ戻ったらさっそく、私に武器の扱い方を教えてくれ。」

「…畏まりました。」

 いやにあっさりとアルフレッドが承諾したので、ユリは拍子抜けしたように肩を落とした。

「反対しないのか?お前の事だから、何でそんな危険な任務を了承したのかと、さぞ怒鳴られるかと思ったんだが。」

「あなた様がお決めになった事に、一介の秘書である私が反対できるはずがないでしょう。私の任務は、あなた様を命かけてお守りする事です。ご心配には及びませんよ、ユリ様。あなたのお命は、私のものだ。私は、自分の物は他の誰にも渡さない。…たとえそれが神であり、悪魔であったとしても、私はあなたを渡したりはしない。」

 薄闇にアルフレッドの眼鏡が白く光る。ユリは、背筋が寒くなるのを感じた。この男、本気なんだ。本気で私を自分の所有物だと思っている。…この男ならやりかねない。たとえ自分の身を犠牲にしてでも、私を守るだろう。そんな絶望的で絶対的な真実が、そこにはあった。


 同じ頃、カイトはジムに連れ出され、ボードレール伯爵家を抜け出していた。

「なあ、ジム。こんな夜更けに、一体どこに行くんだ?」

 先を進むジムに話しかけると、彼は右手の人差指を口元にあて、シーッと静止すると、

「着いてみりゃ分かるよ。」

 と笑ってみせた。しばらく暗闇の中を進むと、やがて目の前に、巨大な門構えの豪勢な屋敷が姿を現した。

「一体、誰の屋敷なんだ?」

 カイトの質問には答えず、ジムは門の扉を叩く。すると、門番が気づいて扉を開けてくれた。立派な門を潜ると、ジムはそのまま、屋敷の地下室らしき場所へカイトを案内した。地下室の扉を開けると、中は一部屋くらいの空間になっていて、そこに若者が集まり、何やら熱心に議論していた。

「…ここは?」

「すごいだろ。ここは、この国の未来を憂う若者が集う、政治サロンのようなものだ。」

 ジムが得意げに言った。見ると、平民に混ざって、豪華な衣装を身に纏った貴族の子息も数人いるようだった。

「政治サロンって…。でもここ、貴族様のお屋敷だろ?俺らのような平民が勝手に出入りしていいのかよ?」

「ここでは、貴族や平民なんて身分差別は無いんだよ。みんな、同じ一人の人間として、対等に政治について話ができるんだ。」

 ジムは、討論している若者達を眺めながら言った。

「何で俺をここに連れてきたんだ?」

「シーラから聞いたけど、お前たいそう物知りなんだとな。屋敷の使用人達に文字の読み書きまで教えているそうじゃないか。それに、お前は頭がいいと、俺も常日頃思っていたんだ。お前だって、この国の政治は時代遅れだと思わないか?貴族に平民が統治されて、平民だけ苦しい生活を強いられる世の中なんて、間違ってる。平民にだって、ちゃんとした人権ってもんがあるんだ。…ま、これはラルフ様の受け売りなんだけどな。」

 ジムはそう言って、照れくさそうに鼻の頭を掻いた。

「ラルフ様の…?」

 そうか、ラルフは、裏でこんな活動に手を貸していたのか。

「じゃあ、ここはラルフ様のお屋敷なのか?」

「いや、ここは、王位継承権第二位、ジュリアン殿下が所有しておられるお屋敷だ。ラルフ様は、ジュリアン殿下と思想を同じくしておられ、共に新たな王国の政治を目指して、日夜奔走しておられるのだ。」

「何だって…!」

 カイトはその瞬間、この国が足元から揺らぎ始めている気配を感じた。今地方で起こっている小さな反乱。それは、民衆たちの積もり積もった不満が爆発したものだ。都にいると、まるで他人事のようにしか思えていなかった反乱の火種は、もうこんなにも近くに燻っていたのだ。しかも、その反乱思想を植え付けているのが、外ならぬこの国の王子ときている。そしてラルフも、その活動に傾倒しているという。もしかしたらラルフは、いずれはこの大きな渦のなかに、ユリを巻き込もうとしているのではないだろうか。そんな不安が頭をよぎった。


 屋敷に戻ったユリは、一人灯りの消えた広間に佇んでいた。広間の冷たい床は、月の光を浴びて白く輝いていた。ユリが溜息をついた時、広間の入り口近くに人の気配を感じた。アルフレッドだった。

「眠れませんか、ユリ様?」

 アルフレッドはそう言いながら、暗い広間の中を静かに進んできた。窓際に佇んでいたユリは、沈んだ表情を彼に見せないように、キリッと居住まいをただした。

「何か用か、アルフレッド?」

「実は、私も眠れないのですよ。今後の事をいろいろ考えると…ね。」

 言いながら、アルフレッドはユリの傍まで歩を進めた。

「眠れない者同士、ダンスでも踊っていただけないでしょうか、ユリ様。」

 アルフレッドはそう言うと、ユリに手を差し出してきた。

「…なんの冗談だ、アルフレッド。今夜の舞踏会の熱気にやられたか?しかも、私に女性パートを踊れというのか?」

「御意。後学のために、ぜひ私にあなた様をエスコートさせてください。」

 アルフレッドは、口の端に微笑を浮かべていた。

「…しょうがない。では、少しだけなら。」

 ユリは、初めての舞踏会で心身ともに疲れていたが、今日のご婦人方の華やいだ様子を思い出すと、アルフレッドにエスコートされて女性パートを踊るのも悪くはないと思えてきた。ユリは、アルフレッドが差し出した手に自分の手を重ねる。と、もう片方の手でアルフレッドがユリの腰をぐっと引き寄せた。ちょっと力を込めすぎではないかと思ったが、アルフレッドは構う事なく軽快なステップでダンスを始めた。踊りながら、アルフレッドはしばらく無言のまま、ユリの瞳を見つめていた。と、アルフレッドの瞳がいきなり目線から外れたと思ったその瞬間、彼はユリの身体を優しく抱きしめていた。

「…お可哀想だ。」

 小さくそう呟くと、アルフレッドはユリを抱きしめている腕に力を込めた。ユリは、苦しくなってアルフレッドの肩越しに思わず息を吐いた。

「アル…フレッド…?」

 アルフレッドは、ハッと我に返ったように目を見開くと、ユリの身体を離した。

「失礼を致しました。」

 そう言う彼は、もうすでに普段の冷静さを取り戻していた。ユリは驚きと動揺で高鳴る鼓動を彼に悟られまいとして後ずさった。何を口にすればいいのか戸惑っているうちに、アルフレッドはユリに背を向けて、広間から去っていった。「お可哀想だ」アルフレッドから漏れたその言葉は、ユリの胸に深く突き刺さっていた。彼だけが、ユリの孤独に気がついていたのだ。ユリの苦しみ、悲しみにも。気がついて、そして自分のために胸を痛めてくれていた―。今、自分にとっての一番の理解者は、アルフレッドなのかも知れない。アルフレッドの愛は、本物なのだ。私は今、生まれて初めて他人から本気で愛されている。そんな悲しい幸福が、降りしきる雨のように彼女の身体に染み渡っていた。






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