表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

街クエスト



「どうした?」

「んー。このメモなんだけどね」


 オウレンからもらったお使いメモを、ハルはひっくり返したり、陽に透かしてみたりしていた。


「これって何で書かれているんだか気になってさ。ゲームの時から筆記用具の描写は皆無だったし、鉛筆もボールペンもないよね、ここ」

「あれだ。中世の定番、羽ペン」

「それよりも達筆で滑らかなんだよねー。毛筆かな? プリントアウトだったらそれはそれでウケる」

「そういうこと言い出すと、本があるんだから活字に印刷、製紙、製本技術はどうなってるんだとかが始まるぞ」

「たしかに。ギルド関係は除外したとしても、民家に窓ガラスはそうないのに鏡、時計がある。電気っぽい魔法の灯りとかさ。でも服や家屋はお粗末だし、上下水道はない、煮炊きに薪を使ってる。市民生活の技術レベルと完全に釣り合ってないんだよ。つまりは外からの技術の押し付け。気になるだろ?」

「飛空艇がある時点で、もういろいろアウトだろうが。アレはさすがに俺達の世界でもない技術だぞ。ゲームの事といい、この世界が実は宇宙人に侵略されていたとしても、俺は驚かないね」

「宇宙人だなんて、アキ古いよ…」

「ものの例えだ! 不思議世界については、今はいい」


 やれやれーと肩をすくめるハルを引きずって道の端に寄ると、アキはギルドカードを作動させ、街の地図を表示した。

 ゲーム時と同じく、表示できるのは街の全体マップだけで、フィールドその他は実際に移動して手に入れるしかないようだ。


「腰をすえて街のクエストに挑もうと思う」

「異議なーし」


 ハルもマップを表示する。

 二人は現在、街の入り口付近ギルド前広場から、街の中心にあたる中央広場へ向かっていた。

 街は放射線状に広がった通りで構成されている。

 広場近くは主に店舗がならび、工房や工場、公共施設、居住区の順で続く。

 上空から見れば蜘蛛の巣のように見える作りだ。


「まずは資金だな。外に出ないで済んで、稼ぎのいいところから攻めるか」

「OK。例の依頼の人たちはー」


 そういってハルがメモを確認する。


「知らない名前ばかりだから、クエストとは無関係。後回しで」

「ん。じゃあまずは……」



<恋する水精霊>

 中央広場の噴水へ直行する二人。

 噴水の像は女性像で、実は水の精霊が宿っており恋の病にかかってる。相手への橋渡しをすると報酬に換金可能アイテム「恋色水晶」がもらえるクエスト。

 ただし、像の前でキーワード「彼の事を想って胸が苦しい」を言わないといけないため、男性陣への罰ゲームとして名高いクエストだ。

 こういうことには頓着しないハルがキーワードを言うと、女性像からスケスケ衣装の精霊が出現した。半透明だがボディラインはバッチリの艶姿。加えて悩ましげな吐息、腰のひねり方がきわどいポーズ。恋する水精霊の名の通り胸にクル姿だ。


「うわぁお! ゲームの時ってレーティングでデータ改竄されてたんだー」

「やべ、俺にも見えるわ。嬉しいけどマズイ。でもこの見上げるアングルが新鮮でイイっ」

「オヤジめ」

「弟に向かって言うセリフかっ」


『苦しい胸のウチをわかってくれる貴方なら、どうか私の願いを聞いて下さい。恋焦がれる彼の方に、私の想いを代わりの伝えてくださいまし』


 そうセクシーボイスで囁くと、精霊はまた像の中に消えていった。

 ハルの手には、フラグアイテムの小さなクリスタル。

 相手は誰かノーヒントこの上ないが、二人には問題ない。

 あとはこれを、北門側にある覇王の石像に掲げる。するとクリスタルが「恋色水晶」に変化するという流れだ。


「ちぇ、アキにも言わせようと思ってたのにー」

「そこじゃなくて、報酬が一個しかもらえないことに悔しがれよっ」

「あ、見えたからってアキにフラグ立ってないかもよ? 試しに言ってみなよ」

「うう~っ」


 結論を言うと、出ませんでした。

 後でギルドカードを確認すると「受注クエスト欄」に記載があり、最初からコレ見ればよかったと悔しがるアキだった。



<私の小鳥を探して>

 次に、二人は広場を横切って西の端にある「フェークライン・パン工房」へ。

 パン工房と同じ通りに住む美少女カイエが、逃げた小鳥を探して欲しいというクエストで、報酬は「カイエのリボン」(女性専用防具。状態異常軽減のレア装備)。

 本来なら、まず依頼人にあって小鳥の捜索を請け負うのだが、小鳥を先に捕獲しても構わない。ここでパンを買い、それを餌に店の横にある木立で小鳥を捕まえる。

 双子は朝食のパンの残りをちぎって置こうとして、違和感に気がついた。


「なぁハル……あそこにデカイ虎猫がいるんだが」

「あれじゃ小鳥こないよね。……ん? アキ、あそこ見て。猫の足元になにかある」


 ナーオ!と野太い声で威嚇してくる猫を二人がかりでどかして見ると、それは半分土に埋もれた、見覚えのある色の鳥の羽と、小鳥の足についていたはずの小さな銀のリングだった。


「「………」」


 しばし黙祷を捧げる二人。


「犯人突き出す?」

「それには及ばないだろ。証拠だけ提出して、たぶん報酬はナシだな」

「なんという予想外」


 結局、報告をしたら美少女に泣かれ気まずい思いをし、高額で売れるレア装備はもらえずじまい、と散々だった。かわりに銀のリングをゲット。



<薬師の花壇はどこにある>

 気を取り直して二人が向かった先は、パン工房通りをそのまま西に進んで街の外壁沿いにある小さな花畑。ここは実は北にある薬師の薬草畑で、決められた色の花をつんで届けると、「咳止め薬」とHP回復のヒールウォーターがもらえるクエストだ。「咳止め薬」は別のクエストで必要なので売らない方針。

 なお指定以外の花をつんでしまうと、花が枯れてしまう。小さな花畑なので、何度も間違うと花は全滅。復活に24時間かかるので注意が必要だ。

 双子が指定の花をつんだところで、問題が発生。


「カバンもインベントリもないんだった。しくじった」

「これ、素手で持ち続けると枯れるんだっけ。……あ、そうだ」


 ハルはパンを包んでいた布を広げ、対角線上の端と端を結ぶ。即席の手提げカバンのできあがりだ。

 さっそくつんだ花と、今までズボンのポケットにいれていた小物などをほうりこむ。


「ナイス。しかし、インベントリがないと不便だな」

「持ち物少ないから、すっかり忘れてたよー。よく考えたらお財布もないよね。あとで『倉庫』を手に入れないと」


 ちょうどお腹がすいたので、そこでお昼にパンをたいらげることにした。とんでもなく固くて噛んでると顎が疲れるのだが、少量でも満腹感がすごい。もしかしたら異世界の不思議パンかもしれないな、とアキは食べながら思った。何しろヒンメル神官からもらったのだから。


 食事が終わると、双子は西の外壁門から街の外へ。

 門番にギルドカードをみせると通してもらえたが、武器もなにも装備してない自分たちに不審げだ。

 そのまま外壁に沿って北側へしばらく歩くと、黄色い草の生えた小さな畑がある。もちろんこれも薬師の薬草畑で、黄色の中にチョロッとだけある青い草を収穫するのがポイントだ。黄色でも報酬はもらえるが、青色だと報酬の換金アイテム「いい香りのする水」に加えて、MP回復のマジックウォーターがもらえる。一日一度だが何度でも受注できるので、初期の魔法使い必須クエストなのだ。

 収穫が終わると、双子は北西の外壁門を通って再び街へ戻った。

 やっぱり門番が不審げだったが気にしない。


 ちなみに北門はそのまま王城へと続く城下町へ繋がっている。主に貴族の邸宅や富裕層の住居、高級店が碁盤目に立ち並び、中心である王城の周りは騎士団の施設や魔導研究所がある。とうぜん庶民はおいそれと北門を通れない。


 北西門から入って北に向かいしばらく歩くと、全体的に緑色をした家が見えてくる。

 クエストの薬師の工房だ。

 店先にいる若い薬師の男性に話しかけると、薬草の採取をお願いされる。ここまではクエスト通り。ハルはすぐさま手提げから薬草を出して渡すと、妙な顔をされた。なんで既に持ってるんだ? という視線だ。

 苦し紛れにハルが「前に一度、お使い頼まれたんです」と言い訳をすると、すんなりと納得してくれた。確かにゲームとは違うのだから、不審すぎたかもしれない、と反省する双子だった。

 「いい香りのする水」「咳止め薬」を1個づつ、ヒールウォーターとマジックウオーターを2個づつゲット。



<小生の書斎は美しく>

 緑の家から数軒先に、大きな馬屋を改造した書架を持つ奇妙な家がある。

 わかりやすく言えば、車2台分の車庫ガレージの中が書斎のようになっていて、シャッターが上にあがっているため外から丸見え、という情景を想像して欲しい。

 ここの主人はなぜか、その壁一面の書棚をいつも整理してる変わり者だ。しかも本の整理が壊滅的で、書棚は色も形も内容も揃わずチグハグ。ここの本棚を彼に代わって揃えると、報酬として換金アイテム「黒檀の文鎮」がもらえる。手間はかかるが文鎮は5000Gで売れるので、双子イチオシのクエストだ。

 書棚の前で本と格闘中らしき主人に声をかけると、流れ通り助けを求められたので双子は本を手に取った。

 ここでのポイントは、本はシリーズものごとに順番を揃えること。シリーズも出版年ごとに揃えれば、色も形も綺麗に揃う仕組みだ。

 時々、妙なところに本を動かそうとする主人の邪魔を捌きつつ、どうにか仕事を終えることができた。

 主人はお礼に文鎮を一つと、本を一冊プレゼントしてくれた。

 確か棚にこれと似たような本が……と振り返ってみた書棚は、最初のチグハグ状態に戻っていたのだった。


「「仕事はやっ」」

 


<猫ばぁばの猫探し>

 北門近くに、古ぼけた屋敷が見えてくる。3階建ての立派なお屋敷で、昔の栄華が忍ばれる風情だ。

 この屋敷の主、猫ばぁばの猫を探すクエストで、まず依頼主と話をするとランダムで探すべき猫が決定する。その猫の特徴を覚えて屋敷内を探しまわるという内容で、報酬が一度につき一人500G。複数回できるお得なクエストだ。

 一応、猫のテリトリーというものがあり、だいたい猫の位置は決まっている。もちろん双子もそれを熟知しているのだが。


「さっきの小鳥クエストがアレだったからさ、ナマモノ関連はどうもねー。嫌な予感しかしないんだけど」

「だがここでうまくいけば、かなり稼げる。いくぞっ」


 屋敷に入ると、猫がいるわいるわ。種類は様々で、予想よりかなり多い気がする。見えるだけで10数匹がこっちを見ている。

 小さな子猫が3匹、足元を走っていった。


「生き物だもの、そりゃあ増えるよね…」

「いや、これは増えすぎだろ!」

「おや、お客様かえ?」


 小柄で丸っとした老婦人が、奥の部屋から現れた。背丈は双子よりも低い。

 チョコチョコと小股で近寄ってきた。


「ちょうど良かった。このばぁばの頼みを聞いておくれ。そろそろミロルの薬の時間なんだけど、見当たらないんだよ。一緒に探しておくれよ。

 ああ、ミロルはウチ一番の暴れん坊でね、いまお腹を怪我してるのよ。目印は猫が傷薬を舐めないようにつけたカーラーだよ」


 双子は2階の居間へ向かう。

 ここがミロルの縄張りのはずだ。しかしそれらしい猫はいない。


「ゲームなら猫オブジェクトはテリトリーに固定されてるんだがなぁ」


 アキがぼやきながらローチェストの下をのぞく。キラン、と奥で猫の目が光ったが、違う猫だった。


「いた!」


 ハルが指した先、廊下を悠々と歩く大きな猫。確かにエリザベスカーラーをしている。

 アキが近づくと、猫はぴゅっと消えた。

 階段を降りて、下の階に移動したらしい。カーラーをつけているのにやたらと素早い猫だ。双子も後を追う。


「がんばってるねー。たのむよぉ」


 ばぁばの呑気な声援を受けながら、二人は猫を追う。猫は逃げて逃げまくり、興奮した他の猫達も上に下にと大騒ぎ。

 双子もへとへとになるまで追い回し、最後にはランドリールームの隅に追い詰めた。シャーッと威嚇する猫はどうあっても捕まる気がないらしい。


「よ、よし! これを使うぞ」


 アキが手近にあったシーツを掴み、ハルに端を持たせて広げる。


「せぇの!そりゃっ!!」


 猫に大きく広げたシーツを被せ、暴れる猫をシーツごと包んで捕獲成功。

 さすがにかわいそうなので頭だけはだしているが、カーラーと相まって異様な芋虫状態になった。しかも重い。


「捕まえましたー……」


 ヨロヨロしながらばぁばの元に向かい、シーツでグルグル巻きの猫を渡す。ばぁばは重さを物ともせずに、奥へ猫を連れて行った。意外と力持ちらしい。


「ありがとねー。はいお駄賃」


 そういうと、双子の手に500円硬貨大の銀貨を一枚づつと、リンゴを一つ乗せてくれた。


(銀貨……!?)


 双子は動揺をなんとか隠しながら、老婦人の屋敷を出たのだった。


「銀貨なんて、ゲームの時なかった」

「じゃあ、最初噴水でみつけた金貨はなんだ?」


 お互い無言のまま、北門に向かいたくましい男性騎士を模した覇王の像の前でクリスタルを掲げる。クリスタルが勝手に手を離れ覇王像の中へ吸い込まれていった。すると、彼らには見慣れたピンク色の「恋色水晶」があらわれ、ハルの手に収まった。

 この時点で即席の手提げカバンは満杯になり、双子は『倉庫』のため、図書館へ向かうことにした。





 図書館の地下。

 禁書や非公開な蔵書が眠る特別書庫は、一般人は入室できないのだが、ある条件を満たしたプレイヤーは入ることが可能になる。

 それは「失われた古代言語」という本を開くことで、「スキル:魔法文字読解」を習得。これがあると、鍵のかかった書庫への扉が開くのだ。

 本来はレベル制限があり発見しずらいはずだが、双子は昨晩早々に発見している。もちろん習得済み。調子に乗っていくつかのスキルの本を開いてみたが、なぜか習得はできなかった。あとでじっくり検証する予定だ。


 双子は、特別書庫へ足を踏み入れた。

 ここにはたくさんの上位魔導書があるのだが、それらは複数の下位魔法の習得が必須で、今は無視だ。

 双子の目的は、そういった前提条件が必要としない魔法の一つ「次元魔法」。

 この魔法はその名の通り、次元の壁を透過し時間と空間を操る高度な魔法だ。

 攻撃以外の用途の魔法が多いが、インベントリとは別に「次元倉庫」という容量無制限の保管庫を保持できたり、空間をねじまげてショートカットする移動魔法や帰還魔法が使えるため、ゲーム時において遠出する魔法使い必須のスキルとされていた。


「うん、いけた。ここに入る条件さえ満たせばイイみたいだね」

「俺も取っとくか。スキル所持数制限なさそうだし」


 ハルがさっそく「次元倉庫」を発動させてみる。

 空中に魔法文字を魔力を込めた指で綴ると、彼だけに見える次元の裂け目ができた。消費した魔力が大きいらしく脱力感がひどいが倒れるほどではない。座り込んで会得したアイテムを出し入れし、ギルドカードを確認する。


「大丈夫か?」

「へーきへーき。最初の発動でMPゴッソリ持ってかれたけど、維持にはかからないみたい。カードの方で中身の確認もできるよ。バッチリ」


 MPは座っていると回復するので、二人して次元倉庫の使い勝手を試しながら回復を待つ。


「今日はここまでだねー」

「十分だ、と思うがどうだろう…。オウレンの依頼すませたら、銀貨で買い物しよう。貨幣の価値がわからないんじゃ、換金は危険だ」

「もういっそ、報告をかねてオウレンにきこうよ。どうせ世間知らずの田舎者あつかいなんだし、一時の恥ってね」


 妥当な意見ということで、オウレンにきく案が採用された。

 ハルがおなじみのメモを取り出し、依頼で行く相手の家がある通りの名をマップで探す。


「うへ、これ全員が北門の先じゃん」

「金持ち相手の依頼かよ……。俺達のようなガキが行って話聞いてくれるのかどうかすら怪しいな。まったくオウレンのヤツ、何考えてんだ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ