チュートリアル?
「説明会会場」
そう書かれた安っぽい紙が、冒険者ギルドの裏口に貼られていた。
通った先は裏庭で、椅子もテーブルもないただの空き地ときた。
今日は晴天だが、わりと涼しい朝だった。
日差しからみて夏の終わりなのかもしれない。ただ空気は乾いているので雨にならないだろうと、双子はみている。
「なんというか、ヤル気を感じない」
「まったくだね……あふっ」
双子は入り口近くの壁を背に、地面に座り込んでいた。
朝6時過ぎに来てみれば、いるのは自分たちだけ。
一応ギルドは開いてたし、張り紙もあったので時間は間違えていなかったと思われるのだが、まるで就職説明会場に早く着きすぎた学生の気分だった。
オウレンの株が、双子の中で暴落どころか紙くずに成り果てた瞬間だった。
それから待ち続けること1時間半。
ちらほらと家屋の外壁に背をあずけている姿はあるものの、あまり盛況という雰囲気ではない。
寝汚いハルは、何度も船をこいでいた。
突如バターン!と勢い良くドアが開き、ハルが驚いて飛び起きた。
目を向けると、オウレンを先頭にドヤドヤと20人ほどの男女が裏庭に入ってくるところだった。
これで自分たちを含めて、30人近い新人が集まったことになる。
総じて大柄で成人済みらしく、冒険者新人にしては纏っている空気というか、装備が厳つい。あと顔つきも厳つい。トータルで子供が怯えるレベル。
なかに女性らしき姿が3人含まれていたが、年齢も背の高さも双子の上をいくのは確実だ。
あきらかに子供は自分たちだけらしく、アウェイ感がハンパない。
あらためて並んで立つと、双子と他の冒険者たちの身長差が目立つ。どう見ても2メートル超の大柄戦士を筆頭に、女性を含めて最低でも180近い。
双子は今後、元の36歳時の190近い身長になる予定だが、それでもこの世界では普通の域を出ないのだろう。
「よぉし、始めるぞ!」
オウレンがそう宣言し、皆に円陣になって集まるように言った。
双子がうまく円陣に入れずまごまごしていると、前にいた大柄な男性が場所を開けてくれ、ダイナミックバディーな女性が前に押し出してくれた。
彼らは冒険者だ。見た目は恐いけど、悪い人たちではない。
すこし肩の力が抜けた双子だった。
「さてと。出戻りはいねぇようだが、ちゃっちゃといくぞ。
全員、ギルドカードは確認してるな? カードに記載されている内容、つまり至高神の加護の顕れ方は人それぞれだ。したがってこれの解説はしない。
共通しているのは2つ。『貢献度』と『冒険者レベル』だ。
冒険者レベルは、ギルドの依頼達成や、戦闘で魔物を倒すと付与される経験値が一定に達すると上がる仕組みだ。つまりレベルで経験の有り無しをはかっているということだ。
ギルドの依頼は、レベルによって制限がある。より報酬が高い依頼を受けたいならレベルを上げるしかない」
とうぜん、というように頷く面々。
ゲーム時において序盤は一日がんばってレベル10だった。
はたしてこの世界ではどうだろう。
「貢献度は加護の源だ。より多く貢献度を稼げば、それだけ加護の力が上がる。技がひらめいたり、身体能力が伸びたり。いろいろだ。冒険者レベルが同じでも、貢献度が上の方が総じて強いぞ。
ただし貢献度の最大値は冒険者レベルと比例していることから、やはりレベルを上げるしかない。
肝心の貢献度の増え方、これまた千差万別だ。難易度が高い依頼は貢献度が上がりやすいようだが、善意だけでは上がらないという矛盾した点もあって、そう簡単じゃねぇ。すべては自分で理解していくしかないからな、人と同じ事しても意味ねぇぞ」
つまり、冒険者レベルはあくまで依頼の目安で、パラメータに影響するのは貢献度、ということになる。
貢献度を上げないと、どんなにレベルを上げても成長しない。
だがレベルを上げないと、貢献度は多く得られない。
さらに貢献度を上げるのに、マニュアルはないときた。
廃人だったら燃えるだろうが、かなり面倒な仕様だ。
「お次は、魔物討伐についてだ。
魔物とは、通常の動植物が瘴気または魔力によって変異したものをいう。何か魔物を倒した際、その経験値と情報はカードに記録され、経験値はパーティ内で等しく配分される。ただし戦闘に何も貢献してない場合、配分はナシだ。
討伐依頼および通常依頼の成否はギルドカウンターのチェックで一発だが、面倒でも一人ひとりに報酬を渡すから忘れずに全員来い。
さて、ここからが大事だからよく聞け。
魔物は生まれたてはともかく、ある程度生きてると体内に力の核『魔玉』が造られる。これだ」
そう言ってオウレンが、玉虫色のビー玉もどきを取り出した。
よく見ると、玉はイビツな多面体でかろうじて丸い、という程度だ。時々チカッと光っている気がする。
不思議玉だね、とハルがささやいた。いろいろ考えるのを放棄したらしい。
「こいつを使った魔導装置があるから知っての通り、魔玉は動力として普及してる。大事な資金源だから魔物をやった後は忘れず回収するように。
お前たちは平気だが、カードがない一般人は素手で触ると非常に危険だ。けして触らせんなよ。
何度も言うが、魔玉の売買はウチだけだ。独占市場だが文句は言わせん。魔玉は手順を踏まずに放置すれば魔物を発生させる。出来心で都市壊滅なんてされたら洒落にならんからな」
不思議玉はかなり危険なシロモノ、ということは理解できた。
一般人が触ったらどうなるのか、非常に気になるところだが。
あとギルドカードが万能すぎてこわい。
それに魔導装置ってなんだ。
「だいたい、こんなところか。あとはおいおい理解していくしかねぇが、質問があったら、隣の酒場の女将に聞け」
ばこんっ! といい音がした。
ドヤ顔ですべて台なしな事をのたまったオウレンの後頭部を、背後にいた女性が殴った音だった。
「おま、いきなり何すんだ、ミレイ!」
「バカ言った人にバカだと思い知らせただけ」
青い髪を結い上げた、細身だが凛々しい眼鏡美人がそこにいた。
腕には乳児を抱いている。
その場にいた野郎どもの視線が彼女の胸に集中してしまったのは、すべては女将が悪いのだ。きっとここにいるほとんどの人が女将の洗礼を受けているはず。
前情報どおり、すごいことになってました。具体的に言うとリンゴがメロンに大増量。ご馳走様です。
「新人の皆さんはじめまして。私は当ギルド昼間受付担当のミレイ。今は見ての通りで休職中だけど、できるだけ早く戻るつもりなので安心して。
近場で討伐依頼が出ている魔物もいるので、フィールドに出る前に、一度依頼を確認していってほしい」
ミレイはいわゆるツンデレならぬ、ツンツンキャラだ。
常に事務的で、愛想はかけらもない。
ギルドの受付嬢が、こんなに愛想がないキャラクターでいいのか? と当初はアキも疑問だったが、仕事ぶりが真面目というのはたくさんのクエストを迅速に処理する上でとても重要だ。難度の高いクエスト帰りには優しい言葉をかけてくれたりする。常に媚びた言動をされるより、特別な感じについ、グッときてしまうのだ。
結果的に、ミレイは絶大な人気を誇っている。
ここでは子持ちですが。
「ローズが心配してた。やっぱりオウレンはバカだ」
「久しぶりに出てきて言うことはそれか!? 仮にも舅にたいしてその態度はないだろう!」
旦那がオウレンの身内とか、聞きたくない聞きたくない。
思いは同じらしく、冒険者らが出口に向かい出した。
フィールドに出て、レベル上げを始めるのだろう。
集会はそのまま解散になったらしく、残っているのは自分たちだけだ。
「これでチュートリアル終わり…なのかな」
ハルが憂鬱そうに呟いた。
ゲーム時のチュートリアルは、解説というより実践がメインで、所持金で武器防具を店で購入し、それを装備して戦闘のレクチャー。そのあと地図の見方と飛行船の乗り方、クエスト受注の流れを教わって、まとめに隣国へのおつかいで終了となる。
双子はこの隣国おつかいクエストを期待していた。
しかしよく考えたら、ゲームとは違うこの場所にそんな親切設計があるわけはないのだ。
「七海ちゃん達とすぐ合流するつもりだったけど……」
「飛行船は5000Gだし、他の手段にしろ金はかかるから無理だな。フィールドを歩いて渡るなら最低でも10レベルはないとキツイ」
「何より今僕たち、武器も防具もないからレベル上げ以前の問題だけどね」
実際のところレベルは強さに直結しないらしいので、あくまでも目安にしかならない。
はは、と乾いた笑いしか出てこない二人だった。
「七海ちゃん大丈夫かなぁ。辛家君いつもあんな感じだったから、今頃キレてそう」
「平気だろ。それこそ馬に蹴られちまう」
「え、どゆこと?」
「あれだけ毎回セクハラ発言かまされてて七海のヤツ、まんざらでもない様子だっただろうが。本気で嫌なら口も聞かないような女だぞ?」
衝撃の事実にハルが目を見張った。
どちらかと言えば、辛家・七海と親しいのはアキの方なので、アキからすると知ってて当然だが。
「……言われてみれば、そうでした。じゃあ、あの二人付き合ってるの?」
「辛家はアレで天然だからなー。気づいてて遊べるほど器用じゃないし。だいたいこの前聞いたんだが、あいつ業務の女性陣に合コン誘われて、誰一人(女子が)お持ち帰りできなかったんだぞ! ありえないだろっ」
「なにそれ、どんな補正はいってんの。(というか辛家君、お持ち帰りされる方なんだ……)」
なんだか一気に合流する必要性がなくなったハルだった。
むしろ合流しちゃいけないのかも、しれない。
みんなもう(中身は)イイ歳なので色恋がどうこうという気はないが、女の逆恨みの怖さは、この歳だからこそよくわかる。
「七海ちゃん、遠い空から応援してるよ…がんばれ」
「ハル…それ本気で応援してないだろう」
「僕はいつも七海ちゃんの味方だよ?」
「いいけどよ」
いいかげんギルドを出ようとした双子を、オウレンが呼び止めた。
「ボウズどもはどうせ外いかねぇんだろ? ひとつ頼まれてくれや」
「ひとこと余計だよ」
「だから妻子に逃げられるんだ」
ズバズバいう双子にオウレンがたじろぐ。
オウレンの株はただ下がりなので、双子からしたらもう敬語すら使う気がおきないのだ。
「がっ! ガキのクセに何でそんなこと知ってんだよっ!」
「あれでも、息子がいるんだよな? なんだ養子か?」
「実子だ! 人の家族のことはいいんだよっ」
「しょうがないなぁ、頼まれてあげる。何をすればいいの?」
にこっ、といかにも少年ぽい笑顔をハルが向けると、オウレンはグゥと唸りつつ紙を突き出した。
受け取ってみると、数人の名前と住んでいる通りの名前が書かれている。
「ギルドが受けている依頼について継続するか否かを聞いてきて欲しい。身分証明に必ずギルドカードを見せろ。依頼の内容はあえて教えないし、お前らも尋ねるな。また向こうから何か尋ねられても余計なことは言うなよ。
ただ、続けるかどうかだけきけばいい。わかったな?」
オウレンは厳かにそう説明すると、二人を送り出したのだった。
「あっ! 報酬についてきくの忘れてた!」
ハルが思い出したのは、もう通りをだいぶ進んだ後だった。
説明だけでお腹いっぱい。ふう。
あまりに不憫だったので女性キャラ成分を追加してみました。
でも不憫は変わらず…。




