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依頼と報酬


 さて、北門の前である。


 気軽に出入りしているのは、馬車に乗った身分の高い者たちとその護衛ばかりで、あとは使い走りとおぼしき人たちが時折通る程度。

 警護している門番も外壁門のとは違い、お揃いの制服で全体的に強そうだ。


 ゲーム時、ここから先は特定のクエストを受けて依頼人の家へ行くか、王城へ行くかのいずれかで、どちらも強制道案内つき。

 双子は担当外(開発が威信をかけて作っていたらしいが、王城とクエスト関連の家以外は、ハリボテとの噂だった)ので、ある意味、未知の場所だ。


「こんにちわ」


 少年らしい笑顔で、ハルが手近にいた直立不動の門番に声をかけた。

 しかし門番はこちらをチラとも見ない。


「通ってもいいですか?」


 痺れを切らしたアキが声をかけても、やはり門番は動かない。

 ロンドンの近衛兵やバチカンのスイス兵も、門番は庶民に対し常に動かず無反応、と言われているから、これもお約束なのだろう。

 双子がおそるおそる門を通ると、横から声がかかった。


「用件は?」


 見ると、違う制服を来た年かさの男だ。門の内側には門番小屋があって、そこから出てきたらしい。門番の仕組みはなんとも奥が深い。


「お疲れ様です。冒険者ギルドより依頼主へ言伝ことづてを届けるよういいつかってきました。お伺いする方のお名前はこちらに」

 

 ハルがギルドカードとメモを見せると、男はメモを奪い取り、じっくり目を通す。


「他言無用でお願いしますよ」


 そういうアキに、男は無言でうなづく。


 双子はもう開き直って、社会人仕様バリバリで挑んでいる。

 この外見でこの口調では、さすがに違和感があるが、無礼よりは礼儀正しくすれば、相手も最低限の礼を尽くさないといけない。常に上流階級に接している人になら、この手は有効だ。

 伊達に30数年、社会で苦労してない。

 おかげで男がこちらを見る目つきは不審げだが、追い払う素振りはなかった。

 そのまま双子を放置すると、門番小屋の仲間に声をかけた。何事か話し合った後、別の若い門番がメモを受け取り、出てきた。


「目的はここにある4件で間違いないな」

「あ、はい。そうです」

「先導するので、ついてきなさい」


 ゲーム通りの強制案内らしい。

 門番さんは足が早く、双子は慌てて小走りで後を追った。


 はじめての城下町は静かで、人の活気を感じない街だった。

 ときおり見る人々もみな一様に身なりが良く、静かで動きが少ない。まるでよく出来た人形みたいだ。


「田園調布か、ビバリーヒルズかっての」

「高級住宅地ってヤツ? まぁ実際あの手の場所は、どこもゴーストタウンばりに静かだよねー」


 ゴホン、と門番さんが空咳をした。無駄話はダメらしい。

 なんだか歩くスピードが増した気がした。門番さん、大人げない。


「こちらがエドモンド伯爵様のお住まいだ。

 私はここで待っているから、その者についていきなさい」


 ようやく着いた一件目は、どうみても大貴族の邸宅で、入るのがためらわれるほどの大きさだ。門番さんに付いてきてもらえたことを、心から感謝する二人だった。自分たちだけだったら、門前払いは確実だ。


 双子は、今度は邸宅の門番に託され、通用門まで回ってから邸内へ。

 勝手口から入りしばらく進むと、椅子もテーブルもない狭い応接間の下座へ通され、そのまま立って待つようにいわれる。もちろん主人が上座から入ってきたら姿勢を正し、頭を下げて迎えるように厳命された。

 これぞ、格差社会。


 よく青少年向け小説や映画で、貴族や王族にたいし、横柄で敬語ひとつ話さない少年キャラクターがいるが、あれを実際にやろうと思うと、かなり難しい気がする。

 今だって、部屋にはメイドさんがいるが、こちらを厳しい目で監視している。無礼を一切許さない構えだ。主君用の剣らしきものを持っているところをみると、無礼討ちがありとみた。

 怖すぎて、身じろぎすらままならない。



 余談だが、ゲーム時のイベント関連で王様に相対するシーンはすべて、プレイヤーは動きを制限される。あらかじめ、玉座の前で立て膝の姿勢で王の登場を待ち、王が退場するまでそのままだ。発言もできない。

 若年層どころか、大きなお友達からも不満の声があがったが、実際のところ自由に動けたCβ(クローズドベータ)版当時、王の御前で膝つくどころか棒立ちで、意味もなく罵倒したり、襲いかかる輩が続出したためだ。おかげでイベントが何度も中断され、サーバーに負荷がかかり過ぎる事態となった。

 なぜだか一様に跪かないのは「自分は臣下じゃないから」と言い張るが、相手のテリトリーに入ってて、それはないと思う。というか、RPGなのでロールプレイしてください。

 フルダイブの自由度だからこその弊害だろう。

 最終的には、どのイベントやクエストにおいても、プレイヤーの動きは制限されるにいたっている。

 世の中に反抗したいなら、そういうゲームでやってくれと、強制コードを徹夜で書かされた双子は、当時よくボヤいていたものだ。

 


 ボンヤリと、そんな埒もない事を考えていたら、ようやく先触れがあった。

 現れた依頼主である、サモエール・モサ・エドモンド伯爵は中年で背が高く、太鼓腹だが背筋がぴんとしている。モサモサしている頭髪は、白いが衰える気配がない。堂々としていて、いかにもな、お貴族様だ。

 しかし二人を見るなり、前置きもなしにきりだした。


「冒険者ギルドからの言伝と聞いたが、そなたらを見る限り、私の望んでいた報告ではなさそうだな。申せ」


 ハルが、頭を垂れたまま応える。


「恐れ入ります。我がギルドのオウレンより、ご依頼の件の継続を望まれますか否か、その応えを持ち帰るよう言付かって参りました」

「そうか…。面を上げよ」


 許されて頭を上げた双子を、伯爵はやけにじっくりと観察した。

 伯爵が側に控えたメイドに視線を送ると、メイドはかすかに頷く。


「その年で、よく学んでいるようだな。オウレンが使いに寄越すのも頷ける」

「恐れ入ります」

「名をきこう」

「申し遅れましたが私はハル、こちらは弟のアキ。辺境の生まれにつき家名はございません。ご尊顔を拝し恐悦に存じます」

「そう畏まらずともよい。うむ…そなた達は私の依頼内容はきいているかな?」

「いいえ、恐れ多いことです」

「その年ならば、しかたなかろう」


 伯爵は部屋にある窓辺に向かった。双子からは伯爵の表情はみえない。


「私はな、息子の敵討ちを望んでいるのだ。もう何年たったか……息子は仲間と共に、東にある『闇主あんしゅの迷宮』に行ったまま、帰らぬ身となったのだ」


「闇主の迷宮」はアンデッド系モンスターが主体の、難易度・規模共に中クラスのダンジョン。

 外観は城だが、なぜか下に向かって35階層あり、レベル50から挑める。ボスはお約束のヴァンパイア。城の上層部は大ホールになっていて、クエストのボスが鎮座している場所だ。最下層を攻略した後にいける。

 神聖魔法の使い手がいれば比較的楽に攻略できる上、ギミック満載で関連するクエストも多く、人気のダンジョンの一つだ。

 設置は辛家がメインで行なっていたが、双子もかなり手伝っている。設置もデバックも大変だった、としか言い様がない。


「息子はそこいらの冒険者など、比較にならないほど強かった。未踏破の迷宮の最下層に挑むときいても、誰も帰還を疑わなかったくらいだ。

 ……貴き一族に生まれたとはいえ三男。自由であるがゆえの愚かさやもしれぬが、あれを行かせてしまったことを、後悔せぬ日はない」


 伯爵は深く息を吐くと、真摯に聞き入っている様子の双子に向き直った。


「息子の仲間だった者たちも皆、貴き一族の出だ。ゆえに冒険者ギルドへの依頼に多額の報奨金をかけた。支度金も用意し、多くの者達が挑んだときいている。諦めたら、そのすべてが無駄になるのだ。

 私は、かの迷宮が暴かれ、復讐が果たされるその日まで諦めはしない。他の三家に行く必要はない。私が、けして諦めないからだ。

 戻りオウレンに、そのように伝えるのだ」


「承知いたしました」

 

 双子が丁寧に礼をすると、伯爵はメイドに向かって何事か囁き、退出していった。

 それを頭を伏せたまま見送る。

 気分はもう、大企業の社長を見送る、ヒラ社員だ。まさにビジネス会話集バンザイ。

 ただし、こちらは無礼討ちがあるので油断はできない。


「お館様も感心されてましたよ。身なりに関わらず、その確かな教養はわたくしも認める所。今後ますます精進なさいませ」


 メイドはそういうと、二人に紙で包んだ駄賃を握らせたのだった。


 来た時と反対に進んで、双子は伝言と一緒に門番さんに引き渡された。

 心得た門番さんに先導され、北門に到着したのは陽が傾きかけた頃だった。予想以上に時間がかかっていたらしい。さすがお貴族。

 他の三家訪問を免除されて本当に良かったと安堵する双子だった。


「疲れたぁ。お偉いさん相手はホント疲れるー」


 そういうハルは、声までダルそうだ。

 二人は店じまいで閑散とした市場通りをくだり、南にあるギルドへ向かっていた。

 それまで静かだったアキが口を開いた。


「闇主ってさ、確か限界突破クエストあったよな、レベルキャップ75の」

「うん。まだ未踏破だってさー。ユニークダンジョンでもないのにね」

「つまり、一番高い人でも70前後くらいか……」


 死んでも復活ができない、ということの現実を知った気がした。


レベルキャップとは、限界突破クエストをクリアしないと、それ以上はレベルがあがらなくなってしまうことをいう。

『アルタートゥームの幻想竜』では、レベルキャップは75、110、150、200までが設定公示されており、双子がいた当時、110の限界突破クエストが解放されたばかりで、プレイヤーの最高レベルは115。


 限界突破クエストは大規模レイドボスで、普通に適正レベルで挑むなら、最大の28人が必要だ。それも犠牲を覚悟の上で挑まないといけない。たとえプレイヤースキルという、個人技能が突出している人物でも、少人数で挑むにはリスクが高すぎる。

 しかしコイツを倒さない限り、レベルは打ち止めだ。


「こりゃあもう、マジで友達100人……ってやつだな」


 レイドボス戦は28人だけが参加できるが、実は戦闘場所には100人が同時に入ることが可能で、攻撃もできる。開けた場所ならそれ以上も可能だ。

 参加とはあくまで、クエストの成否の問題なのだ。

 これを逆手に取り、レイドボスには強弱を含めた大人数で、リスクを分散させて挑むのが、当たり前だったりする。

 つけ加えるなら、事の発端である「邪龍」はレベル100が適正レベルで、110オーバーが10人いればギリギリ倒せる計算だ。

 なお上位転生・転職を含むと、種族特性にもよるがもう少し勝率があがる。


「デバックではいつも少人数だったし、適正レベルでのチェックは、僕たちの担当じゃなかったしねー。想像つかないや」

「いいな、100人でボコって、一気に100人限界突破とか」

「なんか楽しそう」

「まぁ、問題は、適正レベルが100人いるかどうかだ。なにしろ本気で世界最強の100人大集合」

「おーう」


 この世界の人が聞いたら、まず間違いなく夢物語だと言うだろう。

 しかし、限界の先を知っている双子からすれば、難しいが、あくまでも通過点の一つでしかない。不可能ではないのだ。

 それを、この世界の人々が知る日はいつか、まだ双子にもわからない。



「ギルド到着っと。オウレンもう帰っちゃったかな?」


 双子がギルドに入ると、カウンターには全体的にひょろっとした、色が薄い金髪碧眼の見知らぬ青年がいた。


「やぁ、いらっしゃい。冒険者ギルドに何の用かい?」

「はじめまして、クレオさんですか?」

「そうだけど…。ああ、君たち冒険者なんだ。これは失礼。初めまして、午後5時から朝の5時まで担当のクレオだ。よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします。僕がハル、こっちが弟のアキ。えーっと、依頼の達成報告なんだけど……オウレンさんいますか?」

「まだ裏にいるから、呼んでくる。待ってて」


 青年はするーっと動くと、ドアの先に消えた。飄々というか、なんとも掴みどころのない人物だ。

 やがてノシノシとオウレンが、そして気がつくとクレオがカウンターに戻っていた。


「遅かったじゃねぇか、ボウズども。粗相はしてないだろうな?」

「誰に向かって言ってんだ。依頼の答えは、オウレンさんの予想通りだよ。…そう言えば、なんかおひねりもらったっけ」


 アキが紙包を取り出して開くと、中には最初の噴水で手に入れたのと同じ、小さな金貨だった。


「ゴート半金貨じゃねぇか。こりゃ驚いた。ずいぶんと気に入られたようだな」

「へぇ、これゴートって言うんだ? じゃあこれは?」


 ばぁばにもらった銀貨を取り出して見せる。


「そっちはシリング半銀貨だな。…おいまさか、貨幣を知らないとか言うんじゃないだろうな?」

「えへへ」

「お前ら、とんでもない田舎にいたんだな……。よくぞここまで、金もないのに無事に来れたもんだ」

「途中まで送ってもらったんだ。”オジサン”に」

「……そうか(←何か勘違いしている)。まぁいい。おいクレオ!」

「わかってるよ。ほら、この中から出して」


 青年はオウレンに硬貨の詰まった小袋を投げ渡した。

 受け取ったオウレンはさっそく、硬貨を双子に見えるようにカウンターに並べる。


「いいか、一番価値が小さいのが、マイト半銅貨。次が、ペンス銅貨。シリング半銀貨、クラウン銀貨。ゴート半金貨、ソブリン金貨、ギニー白金貨の順だ。時々、記念金貨ってのがでるんだが、金貨の価値は皆同じだ」

「多いね……」

「1ギニーは何マイトだ?」

「まぁまて。今並べるから」



 そういってオウランが並べたものを一覧にすると以下のとおり。


 1ギニー   白金貨 =10クラウン   =6000マイト

 1ソブリン   金貨 = 2ゴート    =2400マイト

 1ゴート   半金貨 = 2クラウン   =1200マイト

 1クラウン   銀貨 = 5シリング   = 600マイト

 1シリング  半銀貨 = 5ペンス    = 120マイト

 1ペンス    銅貨 =         =  24マイト

 1マイト   半銅貨 =             1マイト



「法則がわからない……」

「これ、計算がものすごく面倒だと思うんだけど」


 頭を抱える双子に、ガハハッとオウレンが笑う。


「ま、基本的にみんな適当だ。細かいことはあきらめろ。慣れだ、慣れ。

 それと金貨は使わねぇな。依頼も銀貨が多い。市場で使うのなら銅貨がせいぜいだ。店で使えない場合もあるから、換金してやるよ。他所で換金すると、手数料取られるから気をつけな」


 オウレンはアキのゴート金貨をとり、シリング銀貨を10枚代わりにおいた。

 僕のもお願いします、とすかさずハルも金貨を出す。

 2人合わせて、2ゴート22シリング、合計5040マイト。


「これで結局、どのくらい物が買えるのかな?」

「そうだな……わかりやすく言えば、丸パンが2個で半ペンスだ。塩漬け肉の固まりは銅貨1枚、酒場で1シリングだせば酒と食事が3人前だ。少しはわかったか?」

「……なんでそこで半ペンス? 半ペンスはえー…12マイトか。なんで全部マイトで統一しないんだっ」

「名前それぞれを、歴代の王が決めたんでな。勝手になくせないんだと」

「王様ェ……」

「もうちょっとこう……あ、そうだ。戦闘に使える剣はいくらから?」

「短剣なら2シリングだな。長剣になると銀貨1枚からだ。防具もだいたいそれぐらいだ」


 双子は必至で計算中。


「つまり、短剣は240マイト、長剣だと600マイトだな! なんとなくつかめてきた」

 

 ふー、とひと仕事やりおえた風に言うアキ。

 ハルは手持ちをざっと脳内で計算して、一人うなづいている。


「なかなかやるな。……しかし武器か。お前たち、外に出てレベル上げするつもりか?」

「もちろん。じゃないといつまでたっても稼げないからね。こうみえて、ウチのアキはすごいんだよ?」

「おいバカやめろ! …って、思い出した! オウレンさん、報酬ください! 今日の依頼の分!」

「ちっ」

「ちょ、舌打ちとか、失礼だろ!」

「はいはい、ガキめ。…ほらよっ」


 オウレンが、鉄で出来た大き目の鍵と、やや小さい鍵のセットを、双子に投げてよこした。


「なにこれ? オウレンさんちの鍵とか?」

「なんで俺の家なんだよ。それは冒険者用宿舎への門の鍵と、部屋の鍵だ。部屋は一階の角部屋だ。

 宿舎は月契約で、二人一部屋で銀貨5枚。家具つきだ。ただし寝具などは今ある分を借り続けるか、自分で用意すること。借りる場合は別途もらうぞ。月末に徴収するから忘れるなよ……ってまたかよ!」


 ポカン、と口をあけている双子にオウレンはため息をついた。

 

「すっごく驚いた! それってそこに住めるってことだよね? オウレンさんありがとう!」

「そういうものがあるなら、もっと早く教えろよ! オウレンさんありがとう! 今夜もまた図書館で過ごすかと思ってたから助かった!」

「こら、ボウズども! てめぇらなんて場所で寝てんだ! 図書館に忍びこんだらダメだろうが!」

「おおう、やぶ蛇…」


 お説教の後、オウレンに1シリング奪われた。


「おら行くぞ、ボウズども!」

「どこに? というかなんで1シリング!?」

「ちゃんと教えただろう? 酒場で酒と食事3人前だ」

「あれ、前フリだったんだ!?」

「大人が子供にたかるなよ!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら出て行く3人を、クレオが呆れながら見送った。

 




作中の貨幣は中世イギリスを参考にしていますが、あくまでも雰囲気ですので、深い意味はありません。

今後もそんなに出て来ませんので、軽く流して大丈夫です。

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